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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
304/313

304.教団に最も近い町 トリグ

 3か月ほど西北西に向かい、恐竜族のなので変温かと思ったのだけれど、寒い風土でもなんともないらしい。ただそれでも寒いものは寒いらしく、動物の毛皮を使った防寒服を着用している。

 羽毛ではなくモフモフした毛皮を着用しているので、なんというかほっこりするような感じが普段と違ってする。


「……ここも、か」


 旅の最中に見かけるのは崩れた外壁の内側にある壊れた建物のみ、人の気配もなく荒れた町の中には所々獣に食べられたのだろう散らばった人骨と、木や柱に吊り下げられた人の姿だった。


「……酷いね」

「みんな、こんなことされるなんて」


 皆が辛い表情を浮かべている中、護衛に雇った人達は相応のモノをみてきたらしく動揺などをしている様子は見えない。

 自分は少々辛いと思うくらいなのは、教団がしてきたことを一部でも見てきたからだろうか。


「戦場痕だね。 酷いもんだよ」

「嫌ナ臭いダ。 これだから戦場ハ面白クなイ」

「しかし、町が廃墟になるなんて、ただ事じゃないねぇ」


 崩れて道を塞いでいる建物や死体を道のわきに念動力で移動させ、町の中を進んでいく。


「生きている者はいない。 リョウ、夕方になるまでには抜けろ。 アンデットが現れても面倒だ」


 カイの言葉に少しだけ道を急ぎ早めに廃墟を抜けようと足を速めた。

 その間も時折崩れた建物の中から嫌な視線を感じるというか、護衛をしているハスタルさん達も武器を手に持ち周囲を普段よりも警戒している。


「みんな油断すんじゃないよ。 嫌な感じがまとわりついてくる」


 グリーナーさんは大斧を手に最後尾を歩いているけれど、聞こえてきた声には緊張した感じがする。夕方になっても休まず廃墟を遠く離れ、夜になってから夜営の準備を始めたので露店や屋台を開かなかった。

 遠く離れても不安であるらしく、火をしっかりと焚きながら皆は荷車に集まって眠っている。護衛の人達も集まり、火の近くで武器を片時も離さず過ごしていた。


「……来たよ。 音と動きに注意しな」


 ハスタルさんが斧を手に立ち上がり、皆もそれぞれ武器を持って立ち上がり荷車を守る様に周囲に広がる。

 ゆっくりとした足音と共に5個の人影が、満月の明かりに照らされ暗闇の中から焚火に向かうように現れた。

 男性 女性 そして子供のゾンビが10体、どれも腕や足が曲がり肉が削げ落ち、虚ろな目でふらふらと寄ってくる。


「町から溢れた、とみるべきかね」


 グリーナーさんは大斧を振り上げると一撃でゾンビを叩き伏せ、頭を粉々に撃ち砕いて止めを刺した。他の護衛の皆も躊躇などすることなく、頭部を槍で貫いたり首を切り落とし倒していく。

 魂の失われてしまった歩く死体、盗賊達にしたように街道沿いに放置することなく、護衛の皆は死体を集めると街道から少し離れた場所に穴を掘り埋葬し始めた。


「今夜はまだあるかもしれない。 寝るのは3人だけで残りは警戒だよ」


 ハスタルさん達護衛の人は今夜は大人数で警戒し、カイは今まで彫っていた像を一つ、そっとゾンビが埋められた土の上に置いた。




 さらに一月ほどの間旅を続け、廃村や崩壊した町をいくつも抜け、街道ですれ違う旅人や旅商人をまったく見かけなくなった。時折見かけるのは獣だけ、街道も雑草が生えていることから人の往来があまりないこともわかる。

 それでも教団の支部や幹部から得た情報と地図には王都から西北西に大きな支部があるということ、食料が減り不安になり始めた時、ようやく人の往来が戻り村などを街道沿いに見かけるようになった。

 途中の村で食料の買い出しを兼ねて久々に屋台と露店を開くと、いつも通り多くのお客さんが集まる。


「美味しいねこれ。 もう一杯買うわ」

「この籠を二つくださいな」


 村では今まで通り屋台と露店を開き、お客も来るのだけれどみな白に近い衣服を着て、頭か首には白い布を巻きつけていた。

 念のため街道沿いで旅人や商人がそういったモノを付けていたので、馬車には白い布を所々に巻き付け、みんなもスカーフの様に白い布を首に巻き付けてもらっている。特に声を出していたり勧誘をしているわけではないのだけれど、所々にアルスト教団のマークが施された看板や教会のようなものがあった。

 それでもさらに街道を進み続け、ようやく見えてきた西北西にあるもっとも大きいアルスト教団の支部に最も近い町。

 西北西にある最大の町でもある トリグ。

 立派な城壁に囲まれ、兵士のような人達が巡回しているのだけれど、やはり王都とかと違いがあった。みんな共通した武具を身に着けているのだけれど、兜が白く塗られているし、町への入口は活気に溢れ誰もが良い服装を来ている。


「ようこそ トリグへ!」


 他の町とは異なり兵士の人達も笑顔で接し、イルレさんが入場料を支払おうとすると手を横に振った。


「いやいや、入場料なんて要りませんよ。 この町では自由に出入りできるんです」


「そ、そうかい。 ありがとう」


 イルレさんは驚きながらお金が入った革袋をしまった。門を潜って見えてきた町の中は綺麗に整えられ、王都よりも清潔で活気に溢れ、多くの人が笑顔で街中を歩いていた。


「もう少し負からんかね?」

「西国から仕入れた手触りの良い布を安売りは出来んね」


「いやぁ、トリグは品物が良く売れるわ」

「まったくだ。 これだけ売れると人手を集めるのも大変だわい」


 他の町から買い付けに来ているらしい商人や、何かを売りに来た商人でにぎわっている。ただし皆王都周辺では見かけないというか、そう言った代物ばかりが露店に並んでいるのが気になる。

 隣国があるのはわかるし売買で交流があるのはわかるのだけれど、それならなおさら王都まで行って販売せず、この町で止まっているのだろう。


「今日は広場で休むけれど、屋台と露店はしないでおこう」


 イルレさんの言葉に皆も頷き、護衛の人達に本来の仕事ではないのだけれど買い出しを頼み外に出ない事にした。

 夕暮れになると鐘の音が響き、町に居た人達は町の住民の人達は一方向に向かって歩いていった。

 それから少し経つと聞こえてくる声。


「こ はアルスト様 よって  我々  め」


 遠いはずだけれど聞こえてくるのは演説なのか礼拝なのかの大きな声、それはアルスト教団の説法のようなもの、ここはアルスト教団に毒された町らしい。だけれど王都や貴族が支配する場所よりも表向きは安定し、商業も活気があってたった半日見た限りでは暮らしている人達の表情も良い。

 夕日が隠れて本格的に暗くなってくると町の人達が戻り、屋台や露店は片づけられ兵士の人達の巡回だけが行われる静かな夜が訪れた。







「この町、アルスト教団を受け入れてるよ」

「もう……、なんであんなことをするのにこの町の人達は」

「……辛い」


 イルレさんを含め護衛以外の女性は皆被害を受けた人達、だからこの町の人達がアルスト教団を受け入れているのを信じたくないらしい。

 自分も同じように、あれだけ多くの事をしていたアルスト教団を受け入れている町はおかしいと思う、だけれどこの町は活気に溢れている。

 他の町では否が応でも必ず視界に入った貧民や、孤児らしいものをまったく見かけていない。


「こんばんわ、この町に来た商会の方々ですね。 お近づきの印にワインとパンいかが? お金はいりませんよ」


 籠を持った女性の人達が広場を訪れ、焚火の所で護衛の人達と共に警戒していたイルレさんに声をかけた。


「いや……すまないけれど断らせてもらうよ。 わるいね」


「そうですか。 どうぞ町でゆっくりしていってくださいね」


 イルレさんが代表して断ると残念そうに、だけれど笑顔でそう答えると女性達は、広場には留まっている他旅商人の荷車へと向かっていく。

 無料の施しなんて、いくつもの町や村を訪れたけれどそんなことはなかった。一体この町はどうなっているのだろう。

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