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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
303/313

303.新しく雇う 人?

 翌朝にはデュロは目覚め、カイと冒険者として依頼を受けた形とはいえ人を殺した事、その時気分が余り変わらなかった事へのショックと、ひとしきり話し終わるまで話し続けた。

 カイは静かに頷きながら黙って聞き、自分は見るのも聞くのを辞めた。意識を完全に車外に向け、無理やり聞くのを辞める。

これはデュロがカイに話していること、デュロはもちろん自分が話せることも知性がある事もわかっているけれど、今はカイに対して話しているのであって、聞き耳を立てるような真似はこれ以上したくなかった。

 王都に戻る際中、完全に晴れたわけではないようだけれど、何度かカイと話すうちにいくらかデュロの表情は良くなり、王都に到着すると各々はそこで解散、自らが所属するギルドに赴いて完了員と報酬をもらってお終い。

 まずはギルドに赴く前に皆が待つ広場によると、グリーナーさんが待っており、デュロが戻ってくると少し大げさに喜びながら抱きしめていた。

 グリーナーさんはかなりの力なので、若干デュロの体が逆方向に折れ曲がりかけているけれど、相応に鍛錬を続けていただけにちょっと痛がっているくらいで済んでいる。


「グリーナーさん痛いって。 まずはギルドに依頼完了を伝えに行かないと」


「ごめんよ。 ちょっと力加減を間違えた」


 グリーナーさんが離した後、グリーナーさんも一緒にギルド裏庭で依頼完了の印を受けとり、デュロは正式にギルド 獄門 で依頼を完了したことになった。

 ただし、デュロはギルドを辞めはしないけれど、人間の討伐が関わるだろう依頼は受けないとマスターに伝えた。


「そりゃあんたの自由だ。 うちは広域ギルド、好きな時に好きなものを受けりゃいいよ。 まー 出来ればこういった入れ墨はしてほしいがね」


 ギルドマスターは自らの顔に入れている刺繍を指さしながら笑う。


「それはちょっと……」


 さすがのデュロもそれは入れ墨を入れるのは抵抗があるらしく、困った表情を浮かべていた。


「まっ、強制はしないよ。 女は舐められ易いから入れた方がいいってだけだ。 なんなら濃い目の化粧でもいい。 箔ってのは大事だからな。 だからといってグリーナーは入れ過ぎだがね」


 苦笑しながらグリーナーさんの方を見るギルドマスター。グリーナーさんは顔から頭部に首や腕まで入れ墨が入っている。何もなくてもある威圧感は過剰なくらい増強されていた。


「化粧なら、その」


「それなら、ちょっとじっとしてな」


 デュロがそう言うと、用意していたらしい化粧道具を取り出してその場でギルドマスターの手で左頬から首にかけて、赤い化粧で口を開けた恐竜のような絵が描かれたそれはなんとなくチェスカさんに似ている。


「まっ、これくらいで良いんだよ。 一種の覚悟の現れ、描くのは覚悟を決めて何かをしなきゃいけない時だと思いな。 女にゃ男よりそういう時があるんだ」


 ギルドマスターはなんとなく意味ありげな事を言いながら苦笑し、デュロの頭を肩を叩く。


「それじゃがんばんな。 グリーナーも護衛依頼しっかりやってきな。 ギルド獄門が糞男に舐められるような真似はすんじゃねぇぞ!!」


「おう!」


 ギルドマスターの激励にグリーナーさんは手を上げて答えた。




 王都まで無事に戻った後、広場にある屋台の前で知り合いであるグリーナーさんとチェスカさんは、にこやかに話しをしている。二人は知り合いと言うより友人なのだろう。

 護衛の人達の中に居たグリーナーさんの知り合いは、それは恐竜族の女性の方だった。今回の護衛の中でも特別に強かったらしく、石壁に囲まれた野営地まで逃げ込めたのも、持ちこたえられたのも恐竜族のチェスカさんの奮戦あっての事。

 チェスカさんは人間より少しだけ低い背丈で、前に傾斜しつつの二足歩行、前足のような4本指の手は鋭い爪が並び、口に鋭い牙、革の鎧に匹敵するらしい皮膚、高い身体能力で襲ってきた人達から商隊を守りながら野営地まで逃げ込み、なんども石垣を越えようとする盗賊を引きずり込み爪と牙で倒していたとのこと。その為食料などが切れるまで、ずっと盗賊達は石垣を囲う戦法を取っていたので救援が間に合ったらしいと、王都への帰還中探索組の人と商会の人が雑談をしていたのを覚えている。


「相変わらず元気だな。 こっちは嫌気が差して護衛する商会を変えた。 お前もどうだ」


「護衛依頼、今回の事もアル。 給金ト待遇次第だ」


「私は中々いい条件を貰った。 チェスカも話せばわかる」


 チェスカさんは商隊護衛の功労者ということなのだけれど、余り話を聞かずに少数で運送を強行した商会の護衛の継続は辞め、新しい仕事を探すと考えているらしい。なので今回のグリーナーさんが新しい商会に移籍し、声をかけたのはちょうどよいきっかけだったみたい。

 グリーナーさんに薦められ、こちらに振り向いたチェスカさんは屋台の近くにいるイルレさんと話を始め、待遇の中でも食事について希望があるとのこと。


「肉ガ主な食事ヲ求める。 護衛料ハ問わない」


「干し肉かい? それとも生肉かい? 干し肉ならなんとかなるけど、生は狩猟出来た時だけになるし、燻製肉なら毎食出せるけど」


 少しだけ片言に近いのは恐竜の特徴らしい。グリーナーさんの知り合いなので、5食とも肉を多めの食事と言うことで、一般的と言える護衛料金で依頼を受けてくれることになった。


「よろしク 頼む」


 これでグリーナーさんとチェスカさんで護衛の人が2人増えた。あと1人はどこにいるか分からないというのだから、今は2人増えたところで一旦募集は辞めて牽引用ゴーレムの修理と改造が出来上がり次第王都を出発する事になった。






 数日後、ゴーレムが出来上がったと連絡があり、モヒカン商会に受け取りに赴くとさらに大きく太めの車輪が8個に増えたゴーレムが出来上がっていた。もう立派な軽自動車くらいの大きさがあり、素人の自分が見ても頑丈そうに見える作りになっていた。


「注文通りだ。 余ほどのことが無い限り壊れないようにした。 説明はそいつに聞け」


 モヒカンが特徴的な商会長から、イルレさんに制御するための道具が渡され、説明役の店員が残されていた。イルレさんが使用上の注意などの説明を受け、これでようやく本来の目的に向け旅に出る事が出来る。

 ベレッタさんがソミールレイル侯爵に再び王都を離れる事を正式に伝え、準備を整えたのち長らく滞在した王都を離れる。


「それじゃ出発」


 荷車と屋台車は自分が牽引、護衛馬車はゴーレムで牽引し、残ったアルスト教団の大規模支部と西のどこかにある本部を探して、また数か月はかかるだろう旅の再開。

 それから時折寄る村や町で屋台を開きつつ、チェスカさんやグリーナーさんは皆と話す機会があり、武勇伝とまでは行かないけれど得意な戦い方や経験等に仕事の理由をデュロに教えていた。


「番ヲ探して 各地を回る護衛の仕事をシている」


 恐竜族は群れで旅をしているのが基本で、単独行動は珍しいらしい。

 ただし、恐竜族の中でもチェスカさんはとても強い種族らしく、同じように各地を回っている同種族から番を探すため、商会の物資運送の護衛とかを受けているとのこと。

 そう言った事情もあるので、すでに東地域を回った後の為、西の各地を回るステアー旅商会は都合がよかったらしい。


「噂には聞いた事があったけれど、恐竜族ってのは身一つであんだけ強いなんて驚いたよ」


 イルレさんは昼間に襲ってきた大猪を倒したチェスカさんを見て驚いていた。

 突進してきた大きな猪を避けながらその鋭い爪で皮膚を引き裂き、動きが鈍ったところで飛び掛かると首に噛みつきあっという間に仕留めてしまった。

 恐竜族は体そのものが武器なので、武具の熟練というか強さそのものが違う感じがする。多分カイに鍛えられた今のイルレさんでも厳しいかもしれない。


「おい。 店はもう終わってんだ。 なんのようだい!」


 夕食時の談話中に、グリーナーさんは大きな斧に手を掛けながら、火に近付いてくる男に警告した。


「あっ、い、いやすみません。 手持ちの食料が少なくて、少し食事を売ってもらえないかと」


 怒鳴られた男の人は少し怯えながらそう伝え、立ち止まって頭を下げた。本当にそうなのかはともかく、営業時間外に近付いてくるのはいただけない。


「あぁ、時間外だけど銅貨15枚で挟み雑穀パン一個ならかまわないよ」


 エイケさんがそう言って、屋台車に置かれている雑穀パンを取り出し、真ん中に切れ込みを入れると、べたべた味噌を塗りたくった後、切れ込みに料理で残った葉野菜と干し肉を挟んだものを警戒している護衛の一人に手渡した。


「あのえーと、それでおねがいします」


 男の人は銅貨を護衛の人に渡すと料理を受け取り足早に離れていった。その様子を見ながらグリーナーさんは斧から手を放した。

 グリーナーさんもだけど、2人が揃うと威圧感もあるので屋台を開いて居る時も移動中も、何か起きる事など何もなく安全に移動できている。

 稀に少々柄の宜しくない商人や旅人も、2人を見ると大人しくなるか避けることで問題は起きていない。先ほどの行動は珍しいと考えた方がいいのかな。

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