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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
300/313

300.生きる道 アキュラさんが選んだ事


「私は……」


 ベレッタさんが家を継げると言う事は、貴族からしてみればかなり辛い旅を一緒にする必要はなくなる。少し楽しい旅立った気がするけれど、ここで別れるのも仕方ない事。


「継ぎますがこのまま神官になります。 今のままでは当主になれないでしょうし、男爵家も今のままでは持たないと考えます」


 しかしベレッタさんはまず神官を目指すという。

 旅をするよりも貴族の生活の方が楽のはずなんだけど。ベレッタさんの男爵家が何を主にしているのかはわからない。でもこのままだと貴族の家が危ういとなると、一体何をしている家系なのだろう。


「治療ができるのであれば力にもなりますし、何より今戻ったとしても、父が実権を握ったままただの道具にされるでしょう」


 貴族の世界はともかくとして、実権を持つのが親で第二夫人の娘、そうともなるとたぶん家を残すための道具にされてしまうのだろうか。

 病と治癒の女神様の神官ともなれば、ソミールレイル侯爵にとって利用価値の低いだろう今の当主よりも、自分に従う使える人材、男爵相手には圧力でもかけて当主の入れ替えくらいするのだろう。


「そうですか。 相応のモノは期待しますよ?」


 ソミールレイル侯爵夫人はベレッタさんの言葉を受け入れたらしく、羊皮紙と羽ペンを取り出してテーブルで何かを書き始める。


「努力いたします。 お待たせするだけ相応の信仰の力を持ち戻ります」


 ベレッタさんは家をすぐには継がず神官となり、それから当主となれるだけの力を得てから引き継ぐと考えたらしい。それを侯爵夫人も了承し、互いの意思確認を明確に書面に明記しておくみたい。

 何かしらの契約であるのだろうけれど、ベレッタさんも最後に署名し正式に決まった。とにかくベレッタさんがこれからも旅を続けるなら、もう少し皆の寝床でもある荷車の改良をしたほうがいいかな。

 次に向かう方角は西北西なのとこれから寒くなるので、素人作業ではなく防寒対策をプロの馬車製作屋に頼もうかと思う。最後に献上品を渡した後、今日の要件は終わった。





 王都 旅商人向け広場

 ソミールレイル侯爵邸での案件も終了し広場に戻る。今回は牽引ゴーレムの修理と改良がまだ出来上がっていないので、完成まではソミールレイル侯爵の所で、定期的に貴族の奥様や子女の治療。あとは王都で調理道具や薬を作るのに使うすり鉢や計り匙にふるいなど道具の購入して準備、ソミールレイル侯爵の傘下の商会と言うことで少し渋るくらいでどこに行っても問題なく購入する事が出来る。


「今まで薬効のあるモノを集めていたが、これからは薬に加工していく」


 カイの指導する丸薬と塗り薬作り。といっても怪しい薬師や錬金術士が作ったような物ではなく、少なくとも食べたり体に付けて大丈夫な物を選び、胃腸の調子を整える植物の根、少し熱を下げる花の葉、痛みを麻痺させる毒虫等。

 皆が暮らしていある間に、生きていくために親から伝えられてきた事、それを皆で一つにまとめて、どこの部分が特に効果があるか調べたり、やっぱり勘違いで使えなかったり、乾燥させたりすり潰したりと、アキュラさんが主に自ら飲んだり傷口につけて試していた。

 元々何となく苦手と言うか、関わると壊れそうな感じがしていた。不安なところがあったのだけれど、今は次々と薬を自分自身の体で試すアキュラさんが怖い。


「アキュラ、分っていると思うが、薬効が強すぎると害になる。 薬は濃度を分けるように」


 ベレッタさんは薬に極力関わらず使う側に近い。だからカイが指導するのはアキュラさんだけ、もちろん自分も自らの体で試して効能や副作用をしっかりと理解しているアキュラさんが一番良いと思う。薬効が強すぎて寝込んだり吐いたり、痛みを麻痺させる薬で軽く痙攣をおこしたりと、本当によく理解している。

 アキュラさんはすり鉢で必要なモノを全て潰し、それが終わると別のすり鉢でお酒で練り小さな団子状にした小麦玉と、木の実などを乾燥させすり潰したものを混ぜ、最後に効能のある粉末をはかり匙少しずつ混ぜ込み練り合わせる、薬効の程度に合わせて大中小となった玉状態のそれをしっかりカッチカチになるまで香木で燻して出来上がる保存できる特別製の丸薬。

 そして痛みを麻痺させ和らげる毒虫の粉末、それと体に付けるとそこを温める花弁の粉末、それを混ぜ合わせた薬、体に付けても問題のないべたべたする液体がを出す植物の蔓。必要に応じて毎回混ぜ合わせて作りこれで痛みを和らげる貼り薬の出来上がり。

 アキュラさんが掘った女神の木像を机の上に置き、出来上がった薬を並べると祈りを捧げ始める。体感で10分か20分くらいそれが続くと、女神像がうっすらと光を放ち薬を包み込んだ後1~2分すると光が消えていった。


「これで問題ないということです。 改良しながら新しい物を作っていこうと思います」


 立ち上がったアキュラさん曰く、病と治癒の女神様は薬について使用の可否くらいしか教えてもらえないらしい。それでも出来上がったものの善し悪しが分かるのは凄く助かると思う。

 最後にエイケさんが煮沸しておいてくれた壺に全てを仕舞蓋をしてお終い。ほんの少しの手助けと、皆が生きて暮らしてきた全てが詰まった、種類は限られても確実に効果のある薬。

 どのように使われるかはわからないし、当分の間はソミールレイル侯爵が主に占有する事になるとは思う。それでも侯爵と言う高貴な立場が専売する物の偽物を作るなんて馬鹿な真似は出来ないし、怪しい薬も少しは減ってくれると思う。

 この薬も、ソミールレイル侯爵邸で行われる治療に持ち込み、数回使用したところ相応に効果が出たので、王都に居る間はこれも献上し専売する事になった。

 もう何一つ自分を必要としないだけ知識も技術も得た、皆は自立して生きていけるし、非常時の寄りどころをもてる力もある。見た目怪しい自分も、貴族や裕福層ばかりとはいえ牽引ゴーレムが広まったおかげでそこまで注目されない、この世界の方法で稼いだお金もあるので隠れ蓑として皆と一緒に居る必要はもうない。

 皆の安全の為にも、もう別れてしまうのも手かもしれない。





 数日後、ハスタルさんを含めて4人は専属として正式に雇ったので、王都に居る間に新しく護衛の人達を追加で雇うことになった。なのでイルレさんが冒険者ギルドや口入屋などでお金を支払い、雇用条件で募集をかけたので日に数人は試験を受けに来る。

 その人たちをイルレさんとハスタルさんが実力を見たり、色々話をしたりと決めている予定。あと3人くらい追加する予定なのだけれど。


「手加減していてもこれくらいで参ったというくらいじゃ雇えないね」

「もう少しビシッとできない? あんたら一応売り込みに来たんでしょ」

「帰って。 雇えないから」


 槍の代わりに棒を持つ3人の護衛の女性に負けた3人組が地面に倒れている。これで5組目、まずは最初の腕調べの段階で広場で叩き伏せられ、お帰りを願う事ばかりで話をする所までいけていない。やっぱり女性で腕が立って、信頼できるとなると中々そんな人は見つからないし、それにカイに鍛えられているイルレさん相手にハスタルさん達は勝てず、そのハスタルさん達も割と良い腕らしいので、かなり高めの武力的難易度の高さっぽい。正直そう言った事には素人に近い自分にはわからないのだけれど。

 四日ほどして今まで試験を受けに来た人達とは違うタイプの人がきた。


「護衛を募集してるって聞いてきた」


 声からして女性であることは間違いないのだけれど、革の鎧から見える首に肩に胸筋等がはち切れそうなほどに膨らみ、縫い跡のある手足も非常に太く、顔も非常に中性的というか、攻撃的で髪の毛の代わりに雷のような刺繍が入っている。

 素人の自分がみても、TVでみた大柄の女性レスラーの誰よりも鍛え込んでいることくらいわかるほど凄い風格。


「あぁ、一日5食の飯と寝床付き。 飯は店に出している物と同じ程度で、雑穀パンもつく」


 イルレさんが答えると頷き背負っていたどでかい斧をその場に置いた。


「見ていた。 試しをするのだろ」


 試験に来た人は肩に手を置くと軽く回している。3人もわかっていたように棒を握り締めた。


「それじゃ、行くよ!」


 避ける事も防ぐ事もせず3人が棒を叩きつけ大きな音が響いた、けれどなんともないと涼しい顔のまま両腕を上げる。


「ウォォォォォ!」


 雄たけびを上げて両腕を振り下ろし、結構太目な棒なのだけれど叩きつけられたままの棒をへし折った。3人はへし折られた棒を手放し、しびれたらしい手を握っている。

 純パワー系レスラーみたいだ。攻撃を受けても何でもないとアピールし、その後に力を見せつけるように叩きつけた。


「合格だよ。 あとは話をさせてくれないかい。 エイケ、すまないけど話をするからいつもの料理を持ってきて」


 イルレさんがエイケさんに声をかけると、夕食の販売準備で2つ目の鍋をかき回していた手を止め、味噌鍋が入った木の器と雑穀パンを持ってきた。

 話を聞くために用意してあった椅子に座ってもらう。斧を背負い直し、イルレさんが進めた椅子に座ると食事を受け取った。


「これが5食で出る大体の基準の飯になる。 それで、今まで何の仕事をしていたんだい?」

「名はグリーナー、商人の運送護衛の仕事をしていた。 だが雇い主の頭が変わったら女は給金を下げると言い出した。 だから辞めて次の所を探している」


 その辺は自分自身もおかしいとは思う。本当に実力が上なら男女関係なく適正な賃金を支払うし、元がいくらか知らないけれどあの力と迫力を見たら下げるなんて言えない。あのグリーナーっていう人は居るだけで抑止力になるほど威圧感もある。


「そうかい。 馬鹿な雇い主だねぇ。 でも男なんてそんなもんだよ」


 イルレさんが色々話しているのを、カイと少し離れた場所で一緒に聞いてきた。イルレさん達も判断するけれど、最終的にどうするかはカイが決める。

 話を終え、食事を終えるとこちらに目を向け、グリーナーと言っていた女の人はカイをじっと見る。


「あの女、凄く強い感じがする。 あれがリーダーか?」


「ステアー旅商会の責任者だよ。 あの横で寝転がっているのが、商会の名でもある狼」


 イルレさんはそう言うけれど、じっとカイを見たまま何かを考えているような素振りが見える。


「一度手合わせ願えないか」


 グリーナーさんは戦闘狂の分類だろうか。それとも武人みたいに強い人と戦いたいタイプなのだろうか。




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