3.供がね人形
兎を森に連れて行った後教えてくれたのは人が沢山居る村だった。人間と接触して情報収集と意気込んだものの、私はスティールマシンゴーレムレアユニーク種、現在素敵な殿方達に追い回されております。
「レア種だ!」
「ひっ捕まえろぉぉ!」
「レア素材だぁ!!」
「ひゃっはぁぁぁ!」
矢を射掛けられ、初めての火の魔法やら氷の魔法やらをぶつけられ、こうなると人間は手に負えない。頭の中は金で埋め尽くされ、いま人の言葉を発しようものならもっと悪化する。幸い全速力の時速55kmかつ無休憩で走ることができる私に着いて来られる人間は居らず、逃れる為に結局荒地に戻ってきてしまった。魔物にしか見えない私が教団を探すのは至難の技だ。
「爺神様! この姿じゃ私何もできませんよ! ハゲ神様!」
「誰がハゲじゃ!」
雷光と共に 暗雲から光が差している。
「失礼しました。 老神様、魔物にしか見えない私では情報収集さえ出来ません」
「ふ~む。 その程度何とかなると思っとったが、人間は狭義になりすぎてるのかのぅ」
どうも老神様の認識ではここまで酷い物ではなく、一昔前までは敵意の無い魔物に対してもそれなりに寛容だったようだ。神様単位の一昔がどれくらいなのか気にはなるが、200年前とかなら価値観が変わっていても仕方ない気がする。
「よし、お前の棺に仕舞われ取った供がねの人形を従者として扱えるようにしてやろう」
供がね、私の棺に入れられた人形の事だろうか。死んで棺の中に何が入れられたかなど知らないけど、確か両親が死んだときは、あの世に向かう為のお供として地蔵の布人形を入れた覚えがある。強制的に10式戦車の姿に戻され、開いたハッチの中から現れたのは1/6の18歳未満禁止でお脱がしが出来る女剣士の人形だった。
「これが棺に入れられていたということは」
兄妹に趣味がもろばれになったということ、死んでからも恥をかいて死にたくなるって体験するなんて。生前も趣味で突っ走っていた最中は妹からは汚物を見るような眼で時折見られたが、これ絶対棺おけも酷い目で見られた気がする。腐女子でボールペンのキャップと本体のどちらが攻めか受けかで友人と喧嘩していた妹も大概だったが。
穴があったら入りたいほど恥ずかしくなっている間に人形は等身大のサイズになる。
「最初は意識反応も甘くて言うとおり動くだけじゃろが、そのうち個を持って手伝ってくれるじゃろ」
恥ずかしかった気持ちが全て吹き飛び、神様への感謝してもしたりないほど嬉しさがこみ上げてくる。
「人形に命を与えるとはさすが神様! 感服いたします神様!! 全てが輝いて見えます!!!」
「ほっほっほっ、崇めるが良い称えるが良いぞぉ! ではワシは新たな神を育てるのでさらばじゃ!!」
新たな神を育てるなんてとんでもない言葉を聞いた気がするけど、神様のする事は分からないのでとりあえず、自分の夢が叶ったのが最優先。
夢にまで見たキャラクターが等身大になり個を持つなんて、老神様はすごい。すでに意識が宿り簡単な準備体操をしている。なんというか、実現不可能だろう完全な見た目を等身大で人間ともなると色々と凄い。
輝くように綺麗な藍色のショートヘアに鋭い切れ目で美しく整った顔、海外のスーパーモデルも比較にならない完璧な体系と肌、それなのに胸が充分なほど主張していて性別を失った今でもぐっとくるものがある。
「それではマスター 宜しく御願い致します」
マスターと言うのもなんというかなぁ。所有者だったわけだしそれで間違いはないといえばないけど、出来れば名前で呼んで欲しい。それと個を持つなら同じ名前って言うのはちょっと悲しい気がする。双子だって名前が違えば性格も異なる。
「戦車がマスターっていうのは変。名前の リョウ って呼んで。 あと名前は カイ・シェル・フェレスナ でいいかな。 人ならしっかりと名前がないと怪しまれる」
カイは元のキャラ名、シェルはフランス語のCeilで空、フェレスナはまた別キャラの名前。混ざり合っているけど新しい名前だから新しい自己を持って欲しい。
「わかりました。カイとお呼びください」
立場上はなんだろう。主と従者?逆の誤解を受けそうだけど嘘は無いよな。