298.元は勇者 そして王都周辺
滞在して二ヵ月、男爵令嬢であり神官の修行中であるベレッタさんの言う通り、届いた書面には一旦王都へと戻るように記されていた。書面には森林についての話だけではなく、再び治療と料理について話があるとのことで早めに戻るよう求められている。
留まり続ける理由はないので、すぐに町を出て一月かけて東にある王都へと戻る途中、護衛の人達のゴーレムは途中で異常が発生、牽引力を増すために6輪だったうちの1輪が壊れてしまい、速度を落とし一緒に行動はしていなかった。
幸いハスタルさんだけが馬に乗り換えてついてきているけれど、残りの3人はゴーレムと一緒で遅れている。どうしてもゴーレムを動かすために必要な魔力というのを補充するには、普通の人だとは3人必要なので仕方ないとのこと。
ソミールレイル侯爵からの書状なので、急がなければいけないために一緒には行動できなかった。
急ぐと言う事なので露店も開かず王都に向かい、あと半分と言う所まで来たところ、いつもどおり夜営するので街道を少しだけ外れた広場で過ごしている夜、唸り声をあげずに車体の上から狼のステアーは街道を睨みつけた。
ステアーが見ている方向にはゴーレムの群れ、それが30体近く街道をこちらに向かって歩いてくるのが見えた。4足の獣型に2足の人型、槍のような角を付けていたり、腕がハンマーみたいな形をしている今まで見たゴーレムよりなんというか攻撃的な姿と言うか、所有者の姿が見えないけれどこれはもしかして。
「リョウ!」
気付いていたカイの言葉と共に車体をマウスに変更し、遠隔操作でティーガーⅡとティーガーⅠを配置。自分が前に出るとこちらに向かって走り出したゴーレム達は、自分を狙わず荷車に向かうそぶりを見せた。
「なんでそっちに!?」
急ぎ主砲の狙いを定め撃ち放つ。鉄でできたゴーレム、だけどやはりただの鉄で作られただけで、8.8cmと12.8cm戦車砲の攻撃に耐えられるわけもなく、3両で放つごとに3から巻き込まれたゴーレムを含めて5体ほど粉々になって吹き飛んでいく。
「油断するな! 一気に来るぞ!!」
ゴーレム達は先頭に居る自分に構わず横を走り抜け、撃ち倒し損ねてしまったゴーレムをカイが斬り倒してくれる。それでも数が多い上に自分を狙ってはこないせいで、少しでも念動力での足止めと砲撃の手を緩めると一気に突破されてしまいそうだ。
モヒカン商会長が言っていたことを思い出した。
〈「あいつはてめぇの事恨んでるから注意するんだな。 あいつは最低のクソだ、偽善者って名のクソだ。 気を付けねぇとてめぇの仲間をあいつは襲うぞ」〉
自分ではなく仲間を狙うって、本当ならばもう一人の勇者がどこかにいるはずなのだけど、目を凝らしても人の姿は見えない。だけど一際大きな角のような槍を着けた4つ足ゴーレムが一番後ろに控えているのは、もしかして中に乗って居るのだろうか。
「きゃぁぁぁ!」
「うぅぅ・・・」
皆を一番近くで守るティーガーⅠ、遠隔操作とはいえ聞こえてくるのは皆の恐怖の悲鳴、恨むのならなぜ自分ではなく皆を狙うのか。それがとても腹立たしい。
「大丈夫だから、みんなしっかりしな!」
イルレさんとハスタルさんが荷車の前で斧を両手に皆を励ましながら立ちはだかる。けれど遠隔操作しているティーガーⅠと最後のカイの所で全て斬り倒されそこまでたどり着くことはない。
ゴーレムが粉々に飛び散り残骸が転がっていく中、一際大きなゴーレムは近寄ろうとせず、じっとこちらを見ているだけで近付いてくる素振りが見えない。
残り5体まで減った時、最後尾にいたひときわ大きなゴーレムは他のゴーレム達と共に突進、今までと異なり自分に向かってきている事と、戦車砲の再装填中だった為撃つことが出来ず、マウスの車体にぶつかり角のような槍は大きな音を立ててへし折れた。
角が折れたゴーレムは自分を殴り続ける他のゴーレム達とは異なり、踵を返すと即座に走り出して離れて行こうとしている。
「リョウ逃がすな!」
再装填の終わった12.8cm戦車砲の咆哮、角持ちのゴーレムは撃ち込まれた他と同じく粉々に砕け散り、ティーガーⅡとⅠによってすべてのゴーレムを倒し終えた。
カイと共に砕けた角持ちゴーレムに近付くと中にはあの勇者が居た。すでに息絶えているけれど、最後まで意図が分からなかった。
「死んでいる。 手間をかけさせてくれたものだが、これで二度と面倒な事にはならないだろう」
自分と一緒にいる皆を襲って自分を悲しませても、それだけにすぎないしもし誰かを怪我させたり命を奪っても、追いかけ続けるかありったけの財産で討伐の依頼を出す。どう考えても自滅的行動でしかないのだけれど、それでも元勇者は自分達を狙ってきた。
「皆の心理的負担もある。 移動するぞ」
カイの言葉に車体をマウスからAAV7に変更し遠隔操作中の戦車を回収して皆の下に戻る。
「もう大丈夫だよ……みんなおちついて」
さすがのイルレさんも少し辛かったらしく、余り声に元気がない。深夜とはいえ襲撃があったこの場所では皆は眠れないので、夜営していたとはいえ寝るのは荷車内、だからこそすぐに準備を整えて夜の街道をゆっくりと進み始める。
勇者と呼ばれ支配をしようとしていた町を出る事になり、その後二度襲われたときも追い返したことでさらに恨みを買っていたのは間違いがない。
その恨みが自分に向くのは仕方ないとしても、その恨みが暴力となって一緒に居る人達に向けられるのは、非常に困るし良くない。護衛の人達をやっぱり増やす事と、ソミールレイル侯爵が居る王都で最悪別れる事も考えた方が良いかもしれない。
襲われた10日後、余りにも皆の調子が良くないので、襲われて皆の体調が優れないと言う事で、10日程度到着が遅れる事をベレッタさんに書いてもらった書状を、ハスタルさんに持って馬で一足先に王都に向かってもらった。
王都が大分近くなってきたので、街道も大分安全と言うか巡回する兵士の人達を見かける事も増えている。街道沿いある広場で休息中、王都で店を開いて居た事を覚えていた兵士の人が時折屋台がやっていないか訪ねる事が複数回あった。
最初の数回は、体長が宜しくないと言って、売らずに皆の食事用に用意していたものを分ける形だったのだけれど、訪ねてくる数が予想より多く、人が好い兵士の人は差し入れをしてくるので、兵士の人達をだけを相手に少しだけ店を開く事になった。
「すまないけれど、量は作れないんでねぇ」
イルレさんが主に対応はしている。屋台の裏ではゆっくりとした調理のエイケさんと、主にアウグさんが頑張って調理している。
売るのはミソナベだけ、それでも巡回中の兵士の人達は立ち寄っては、ミソナベを木の器一杯食べて休息し再び巡回に戻っていく。
「王都でまた開くなら、兵士の詰め所に連絡をしてくれ。 楽しみにしている奴らがいるんだ」
思ったより兵士の人達にも受けが良かったようで、ミソナベを買うついでに兵士長の人が干し肉や硬パンなどを差し入れ、それ共に王都で屋台を開くとき連絡するよう伝えられる。
「あぁ、わかったよ。 その時は差し入れも期待しといて」
イルレさんは上手くあしらいつつ、ミソナベの代金と差し入れを受け取る。
街道を毎日定期巡回しているついでに寄っていくためか、街道沿いの広場で休んでいるといっても変な事を考える商人や旅人も居らず、思ったよりも落ち着いて休む事が出来ている。
「よ~しお前ら。 食い終わったし巡回に戻るぞ」
一時休憩を兼ねているらしいので、食事が終わると5人の巡回兵士の人達が街道に戻っていく。思ったよりも兵士の人と関りを持っていると、怪しい動きをする人たちの牽制になるようだ。
イルレさんやハスタルさんが当たり前のように少しの賄賂を渡すように、食べ物や銅貨など渡して良い意味で気にかけてもらっていた方が都合も良いので、今後は賄賂向けと言うか兵士向けの物も用意したほうがいいかもしれない。
何はともあれ今は何か新しいものを作ったり用意するより、皆が調子を取り戻せるようにゆっくり休まないと。それに遅れていた護衛の人達と合流も出来るかもしれない。




