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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
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297.初めての治療

 森を抜ける前にAAV7になってから町に戻り、広場まで行くとまだ人気が続いていたようで屋台は混雑している。


「おかえり」

「おかえりなさ~い」

「お疲れさん。 屋台に問題はなかったよ」


「あぁ、ただいま」


 皆の迎える言葉にカイは答えるとそのまま休息。

 翌日にイルレさんとベレッタさんにカイが事情を話し、男爵令嬢であるベレッタさんに森の長期的保護をお願いする書状をしたためてもらい、マルモノの町の代官を通して献上品や上納金と共に輸送を手配してもらった。

 これで返信があるまでは待機。書状の往復に向こうでの貴族としてやり取りなどあるだろうし、二か月くらいかかるだろうとベレッタさんが言っていた。

 それに相応の対価を求められることも、一旦王都に戻る可能性が高いこともベレッタさんから皆に伝えられた。戻る事も仕方ないと皆も納得してくれたので、色々と王都にも迎える準備をしておく。






 書状を待つ事1か月、相変わらず屋台の料理は昼食から夕食まで混雑していたのだけれど、初めて治療を行う機会がやってきた。

 ここ三日間、子供がお鍋をもって味噌鍋を買いに来ている。重そうにお鍋を持っていく姿を見ていたデュロが手伝ったり、少し話をしているうちにその子の親、料理を作っていた母親が病気になり、それで料理を買いに来ているとわかった。


「病気ならきっとアキュラさんが治せるよ!」


 話を聞いたデュロが治せると伝えると女の子は笑顔を見せた。


「本当に治せるの?!」


 話を聞いていたアキュラさんは小さくうなずいた。


「そうね。 余り酷いものじゃなければ治せると思うわ」


 アキュラさんの言葉に子供は頷き、病気の人に来てもらうわけにもいかないので、カイと一緒に自分の上にアキュラさんとベレッタさんに乗ってもらい向かう。


「こっちだよ」


 子供に案内され、風邪で寝込んでいるという周囲と同じ石積みで作られた家に案内された。家の中に入った子供に手を引かれ、母親が片足を引きずるようにゆっくりと出てくる。


「あの、お金は無いので、申し訳ないのですが」


 母親は困った表情を浮かべている。治療士はとてもお金がかかるものということなのだろうけど、今回は必要ない。


「お金は不要ですが、ただ間違った治し方を広めないように」

「じっとしているのですよ」


 椅子を用意して座らせると問診みたいなことをしながら、アキュラさんとベレッタさんは体調を調べる。カイと違って祈りを捧げたりするので割と時間が掛かっているのだけれど、どうやら原因が分かったらしく二人でどうすればよいか話し合う。

 幸いだったのは栄養バランスの乱れによる風邪と、それに伴って軽い捻挫のようなものが治るのが遅れているだけで、それほど不味いものではなかったらしい。

 ベレッタさんが祈りを捧げると、薄っすらとした光が女性を包み込む。前にカイがやった時よりも光は弱いけれど、それでもしっかりと全身を包み温かい光を放っている。


「ひっ、光が体を!?」


 病気のご夫人は自らが光に包まれた事に驚いている。

 真剣に神官として信仰を捧げていたので、体の調子を少し良くすることと治療方法を消えるまでになったらしい。ベレッタさんが主に病と治療の神様から病気について、アキュラさんは怪我に関係する事を主に聞いている。分担と言うよりも、今求めていることなのだそうだ。


「お静かに」

「もう少しで終わりますから」


 あとは整体というかマッサージと言うか、膝なので足先から腰までの調子を見つつ筋を伸ばしたり、関節の状態をアキュラさんが診てお終い。


「これはあなたの状態だけに合った事だから、他の人に言っても治らない事を忘れずに」


 あくまで信仰を広める為でお金を求めているわけじゃない。権力とかそう言った事に関してはソミールレイル侯爵家、神官となったベレッタさんと共に歪んでいる今の医療についてもまとめるなり整理するなりすればいいし、侯爵家が大事にしているなら模倣したり騙したりすればただでは済まないはず。当分の間独占されたりしても、偽物や間違いばかりな適当な事をしてしまうよりずっと良い。


「なんとお礼を言ったらいいか」

「おねーちゃんありがとう!」


 ご婦人は何度も頭を下げお礼を言い、子供は母親にくっ付きながらお礼を言っている。


「治療の神様を信仰しているからです。 金銭や物のお礼よりもしっかりと感謝し祈ってください」


 アキュラさんはそう伝えると小さな木像取り出して女性に渡す。

 カイが作った物ではなく、ベレッタさんとアキュラさんが信仰を増すために掘ったもので、まだまだ出来は良くない。それでもお祈りをする対象としては十分なくらい、とりあえず像として顔と胴体くらいは分かる代物。

 決して下手と言う訳ではなく、まだまだ作っている数が少なので経験不足と思う。


「大事にしてね」


 アキュラさんが子供に渡すと子供は頷きながら受け取ると大事そうに抱きしめた。



 翌々日から治療を受けたご婦人が仲の良い女性に伝えたことで、一日に一人か二人だけ女性の人が屋台を訪れるようになった。といっても簡単な怪我や軽い風邪みたいなもので重いものはない。そんな状況になったら死ぬしかない世界だから、凄くそう言った事には気を付けていることは分かっている。

 侯爵夫人でさえ事によっては隔離と言うか、領地の別邸に追いやられているのだから、普通の家庭なら町や村から追放されるか、死ぬまで隔離される。どれも所々の町や村で聞いた事だけれど、それがこの世界の常識というものらしい。


「すまないけれど、大人は女性だけになるから」


 診るのはやはり女性だけとも伝える。アキュラさんは精神的な問題、男爵令嬢のベレッタさんは立場上の問題。それに女性の治療士や医術士などと言って男の人達は見下しているし相手にもしていない。


「ありがとうございます! 体がすごく楽になりました!!」


 治療を受けた女性は何度もお礼を言い、しっかりと女神像に祈りを捧げた後料理を買って帰っていった。治療は買い物のついでのつもりで来るのが現状で、治療を受けるまでそれほど期待されているわけではなかった。

 お金がかからないというので、料理を受けるついでに受けてみたという感じなのがとても良く分かる。


「やはり中々上手くいきません」

「祈りの時間を増やし、像を彫りましょう。 あとは多くの人を診ればわかるとカイさんも言っていました」


 男爵令嬢のベレッタさんはため息を付き、アキュラさんとこれからどうしていくかを話し合っている最中も、屋台の方では忙しく料理を作っていて味がこの町と相性が良いらしい。


「ミソナベは夕食の時間まで一旦終わりだよ!!」


 食材が切れたのでみんな疲れた表情でお店を閉めると後片づけるを始める。それだけ沢山売り上げがあると言う事なのだけれど、疲れるまで頑張るのはやり過ぎだと思う。


「店を必ず開かなければならないわけではない。 しっかりと休み、調子を整え直すことが大事だ」


 食材が無くなり一旦店を閉めるのは簡単だけど、みんなも忙しいのはやはり疲れるのだからカイのいう通り休む方が良い。


「はぁ、確かにそうだね。 さすがにかなり疲れてきたし」

「夕食は開いて、来た人には明日と明後日は休むと伝えましょう!」


 エイケさんとアウグさんもさすがに疲れていたらしく、休むことに決めた。二人が主に作っているから、休むというならそれでみんなも休むことになり閉店。


「そうだね。 少し休みたかったし」

「町を少し見て回りましょう」


「護衛の人数は限られるから、離れるときはあたしにいってよ」


 みんなは頷くと閉店中にすることを話し合い始めた。まだソミールレイル侯爵からの返信が無い以上、この町に留まり続けることになるから、その間は休憩と屋台を上手くやっていってほしい。

 自分の都合により、旅商会という定住をしない生活ではあるのだけれど、大事な事は皆が無理をせずに生活が出来る事、だから店を休むことだってとても大事。

 町の中である為に味噌を仕込むことも、お風呂に入る事も出来ないのだけれど、獣に怯えることも盗賊に襲われることのない安全な壁の中、皆には休息をしっかりと取ってほしい。

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