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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
296/313

296.大森林の神様

 町で妙な噂のようなものがあったので、カイがイルレさんに頼んで色々話を集めてもらった。

 なんというか、狩猟の神様?というか森の主?みたいなものがいるらしい。信仰と言う物はないみたいなのだけど、その残照と言うか森で決してはしていけない事がいくつかあるとのこと。

 それを破ると町が酷い目に会うとのことで、森で狩りや食材を探す人たちは基本守っているらしい。もちろん破る人もいるらしいけれど、時によっては大怪我を負ったり不作になったりする。だから森に出入りするには狩猟と採取許可証を貰わないいけないということ。


「どうやら信仰の残照、狩猟と森の神が主として残っているようだ」


「それなら、もしかして神様も残っている?」


「いや、森の主くらいだろう。 それでもとっかかりとして信仰から神が自然発生するかもしれない」


「許可証を貰って、森を探してみよう」


 真夜中にカイと話し合い、あとはどうするかだけれど、そこは一度森の主らしいものと遭遇してみないとわからない。いきなり襲われなければ良いのだけれど。





 翌日、カイがみんなに話して町で待ってもらっている間に森の主を探す事にした。

 森に入るには、してはいけない事や狩猟や採取していい数の説明を受ける事、あとは許可証の購入費を支払うことでさほど苦労はしなかった。

 さすがに森の中を大きなAAV7で進むわけにはいかず、久しぶりに豆タンクこと60式自走106mm無反動砲に変更。久しぶりの姿、とても体の軽さと心持たなさを感じる。

 しかし狭い森の中は獣道もこの車体でも動き辛い。小さい雑木を踏みつぶしながら、でもずっと前には道があった面影と言うか、木々の枝を人為的に落とした跡と言うか、獣道にある木々の枝は細いものばかりで通れないほどではない。

 時折獣や鳥が逃げる音が聞こえる中、森の中を進む事2日目の夕方、森を抜け草原がある場所に出たところで主らしきものを見ることができた。

 大きな馬、とてつもなくでかい。2mは軽く超えそうな体高からさらに上の頭から見下ろされる威圧感、足の太さはまるで丸太だ。

 白い体色の体毛に真っ赤な目なのは、確かアルビノという染色体異常の個体だろうか。


「なるほど 森の主のようだな」


 カイはそういうと車体の上に座ったまま巨大な馬を見ている。

 にらみ合いではなく、襲い掛かってくるわけでもなく、ただ警戒されながらも少しずつこちらに歩いて来る。この車体ではおそらく全身の体重をかけられて踏みつけられたなら、壊れないでも装甲を酷く歪められるのは間違いない。

 森の主である巨馬はすぐ近くまで来ると立ち止まりじっとこちらを見ている。たぶん頭もずっと良い。以前の白く大きな蛇と同じように使いのようなモノなのだろうか。


「継承されている神聖な地を守る森の主、存在すべきモノの為に力を借りたい。 この森と大地のためとなる」


 カイがそう伝えると、こちらを見る巨馬の目に何か見極められているような、中身を覗きこまれているような味わったことのない不思議な感じがする。

 じっと見つめられた後、森の主である巨馬はそのまま踵を返すと草原の奥の方に歩いていく。時折立ち止まりこちらを振り返るので、たぶん付いてきているか確認しているのだろうか。


「ついていけ。 案内してくれるようだ」


 カイを乗せたまま巨馬である森の主の後を付いていく。2日間森を進み続けて草原を抜けると大きな泉にたどり着き、泉の中にある小さな島のようなものが見える。

 大きな馬は浅瀬を通り島に向かうので、そのあとをついていくと、浅瀬を進むと円形に石が建てられた小島の前で巨馬が立ち止まり、なんとなく不敬な気がして小島には上がらず浅瀬に留まる。


「祭事を行う」


 カイは鎧と靴を脱いで小島の前まで浅瀬を歩くと頭を下げた。前に行ったと同じ神事、小さな木の枝を手に握り水面に浸すと水滴を周囲に散らしながら舞い始める。


「流れる風 木々の歌へと

揺らぎ流れ 時を超え

有りしままに  ....」


 舞いながら詩も始め、静かに鳥や虫の音も無くなり、ただ暖かな風き始める。時間が経つと静かに鳥や動物たちが集まり、静かに島の中心が光を放ち何かの形をほんのりと構成し始めた。

 これで神様が再び戻りつつあると言う事になるのだろうか、巨馬が伏せると他の動物や鳥たちも同じように光に向かって伏せて頭を下げた。

 そのままカイは祭事を続け、光が大きくなると小島の中心から木が生えどんどん大きくなっていく。幹幅が10mは軽く超えている所まで大きくなると光は消えていった。

 祭事も終わりらしく、カイは息を吐きながら小枝を小島に置くと戻る。


「……これでいい。 オレは少し休む」


 カイは車体に上がると席にいて一休み。

 動物たちはそのまま頭を下げていると、木の葉が舞い散り動物たちに触れると淡い光に包まれる。その光が収まった動物達は、大樹から落ちてきた木の実を咥えてそのまま森に戻っていった。

 これで森の神様が再び現れたので、あとは神様への信仰を広げることだけど、これはやっぱり森を荒らす人に害を成す荒神が一番かもしれない。狩猟が主な産業の荒っぽい町だし、信仰して何かを与えるより、大事な森を守り実り豊かにしてくれるほうがいいはず。

 問題はどのようにすべきかなんだけれど、素直に森の主を見かけたことを伝えたら、やっぱり悪い人は森のルールを守らず森の主狩ろうとしたりするだろうし、今までの稼ぎの中から森を保全する人達に幾らか渡すくらいで辞めた方がいいかなぁ。

 あくまで信仰を持つのは動物達で、普通の人達は森のルールを守る事で恩恵を得られるという形の方が、信仰を悪用されないかもしれないし、この辺はカイと相談しながら町に戻ろう。


 帰るために浅瀬から出ようと後ろに下がろうとしたとき、森の主らしい巨馬が大きな木の実を一つ咥えて近付いてきた。

 何かと思って待っていると、大きな木の実を一つ車体の上に置いたあとそのまま去っていった。

 恐らくくれると言う事なのだろうけど、近くで見てみると大きさは林檎くらいで形と硬さはどんぐりに似ている。


「祝福を受けた神聖な木の実だ。 大事にしておけ」


 カイが言う通り祝福を受けたのなら、神社などでお祓いを受けた後に渡される神饌を下ろしたみたいなもの、もしくはお守りやお札だろうか、祝福を受けているわけだし大事に車内にしまっておこう。



 皆が待つマルモノ町に向かう最中、来る時よりも草原や森の中では木の実や果実を多く見かけ、小動物や鳥も見かける事が多くなった。これが森の神様がいて加護と管理をされると言う事なのだろうか。

 ここまで森の状態に大きく差が出ているなら、やっぱりそれなりに権力があって、森を荒らさず守るような人を見つけないと。

 広く大きくて森の実りも豊富で動物も沢山居る場所、大森林を管理・守護する神様に、森の主である白い巨馬、また神様が居なくなってしまったり荒らされてしまうのは余りにも悲しい。

 状況によってはベレッタさんに頼んで、ソミールレイル侯爵に書状を送って貰い、何かしら大森林の保全を出来る事をしてもらおう。

 また何か頼まれてしまう可能性もある上に、一旦王都まで戻る必要が出来てしまうかもしれないけれど、森が壊されて神様が居なくなってしまったら意味がなくなってしまう。


「カイ、この森の為に一旦王都に戻る事も仕方ないことだとしたら、戻るべきだと思う?」


「今回は信仰するモノが人ではない形だが残っていただけだ。 次に正体が失われたときも無事だとは限らない。 そのことを考えれば戻った方がいい」


 やっぱり、ここは一旦男爵令嬢であるベレッタさんに連絡を頼もう。戻る事になったとしても、それは仕方ないと考えよう。


「オレ眠るから何かあれば起こしてくれ」


 車長席に座っているカイはそう答えると、毛布を被り眠りついた。

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