294.西方の防壁町 マルモノ
数日間街道を西へと進み、森に面した立派な石づくりの外壁で出来た町に着いた。
イルレさんがいつも通り兵士の人に入場料を支払い、慣れているイルレさんが少しの雑談をしてから情報を得てくれる。
この町に面している大きな森は危険な野生動物が多い為防壁がしっかりと作られ、その野生動物を狩るハンターが多いとのこと。
ただ、森の木を伐採するのは獲物が減ると言う事で禁止らしく、町の建物は石造りが多い。でもやっぱり野生動物が多いと言う事で、その類のものが沢山売られていて町に活気もあるし、それを取引する為の商人も多いっぽい。
「うちは酒が安いよ!」
「こっちは隣と違って混ぜ物無しだ! 美味いよ!」
「あぁ!? うちは混ぜ物なんてしてねぇぞ!!」
「それにしては味が薄いようだがねぇ?」
店主同士が店の前に出てくるとお互いにらみ合いはじめる。
「いいぞいいぞ! 勝った方の店でオレは酒を買うぞ!!」
「どっちが勝つか賭けようじゃないか!!」
「一応治療できる奴呼んどけよ! オレは安酒の方の店主に賭けるぜ!!」
微妙に商人同士の張り合いと言うか荒っぽい人が多いのは、野生動物が多くて危険だけどその分獣を売って生計を立てるハンターを相手にすることが多いためと考えれば当然なのかな。
大勢のハンターに対応する酒場や職人も多いだけあって、活気もあるというかそこら中で大きな声と言うか、作業の音などが凄い。
しかし男だけと言う訳じゃないらしく、弓や斧を背負った女性もいる。獣を狩る事が重要な場所だから、男女についてのあれこれよりより、ハンターとしての技術で評価されるのだろうか。
ただし、皆何かと獲物を担いでいたり荷車に載せて牽いているので、ちょっと血生臭い感じがする。それも活気と言うか狩猟が活発で沢山毛皮などが売買されているってことなのだろうけど。
旅商人なども留まっている広場の一角に入り、この町の商業ギルドから露店許可を取ってきたイルレさんが挨拶代わりと数枚の銅貨をお隣に渡す。問題が起きたりしないようにと最近知った心配りらしい。
「それじゃ、明日から屋台を開くから、買い出しと準備をするよ」
護衛の人達と共にエイケさんとアウグさんは買い出しに出かけ、買い出しに出かけない皆は広場に面するお店から材木を買って出店を作ったりと準備を進める。
「リョウはそちらに材木を突き立てて柱にして」
言われた通り力仕事になる柱は穴を念動力で掘って柱を立てる。屋根も同じように幌布をかぶせ、みんなも手慣れたもので、迷うこともなくてきぱきと屋台車とくっつけて立派な出店として仕立て上げた。
「アキュラ、ベレッタ。 ここで神官として力を試してみるがいい。 相手は、まぁ女だけでいいだろう」
相変わらずとはいえ、アキュラさんは基本的な怪我や病気について教わり、ベレッタさんは毎日朝昼夕と祈りを捧げるなど、カイからちゃんと指導を受けていた。
貴族の生活から考えたら結構辛い旅のはずなのだけれど、それでも弱音をほとんど吐かずに頑張っている。
「上手くいくでしょうか。 平民の傷病など見て危険な目に会ったりとか」
「平民だからこそだ。 失敗しても問題にならなず、成功すれば信仰も名も挙がる。 都合がよく、問題は貴族のお前が平民と言う下郎を相手にするという苦痛だけだ。 アキュラは今まで通り顔を隠していい。 お前達に何か言ってくる奴がいたならオレに言え」
「わかりました。 やってみます」
「女性だけなら、なんとか」
カイがはっきりと何かあればとの言葉に少し安心し、アキュラさんとベレッタさんは治療を行う事を決めたようだ。
少ししてエイケさんとアウグさんが食材を買って戻ってきた。珍しい香辛料とかはなかったようだけれど、他の町よりもお酒とお肉が安かったらしく、随分と買い込んできた。
「この町にいる間は肉が多めの料理になるよ。 魚は干したものもなかったけれど」
「野菜やパンは安かったです!」
野菜も安いのは良く分からないけれど、狩猟が活発なだけあってお肉が珍しく安いようだ。
屋台と出店の準備も整え、皆が夕食の準備をし始めた夕方になると町の入り口から大きな歓声が聞こえてきた。
「大物が獲れたぞぉぉぉ!」
大声と共に入口の方からたぶんロバに引かれた荷車に積まれた体長3mはありそうな大きな猪3頭が運ばれてきた。
近くには弓や鉈を持ったハンターらしき4人がいるので、あの人たちが倒したのだろう。
「全部売るぞ! 欲しい商人は声を上げろ!!」
リーダーらしき人が荷車に昇って声を上げると、商人らしき人達が集まり近くで猪をじっくりと見ている。
「よし、一頭はわしがかうぞ!」
「肉はうちが買うよ! 骨も一緒だ!」
「毛皮は鞣さなくてもこちらが買おう! 加工はこちらでする!」
「相場より多く出す! こっちで買わせてもらうぞ!!」
あれだけ大きな猪の一枚毛皮なんて見たことも考えたこともないし、危険な野生動物が多いと言う事は、その分高価で手に入りにくい野生動物の毛皮もあるってことなのだろう。
突然の活気と共に広場は盛り上がる。この町はそう言う所なのだろう。
「お待たせ。 数人雇ってきたよ」
唯一の男手だけど心は女性のハスタルさんが冒険者ギルドを探し、女性の護衛を数人雇ってきてくれた。これで夜も安心して皆は眠れると思ったのだけれど。
「明日は大仕事だ! 酒を存分に飲め!!」
「今日は大儲けだったからな!」
夜なのに広場近くの店が騒がしい。活気があるというか夜でも鍛冶場らしいところから音がするし、酒場も夜遅くまでやっているらしく酒盛りの声も聞こえる。いままでとは異なり、静かでどこか寂しい夜にはなりそうにもない。
酔っぱらいもいるようだけれど、治安そのものはそこそこ良いらしく暴れているような人は見当たらない。
「まったく騒がしい町だねぇ」
ハスタルさんは焚火に木片を加えながら護衛の人達と夜を過ごしていた。
「この町はこんなもんですよ。 おかげで商人の護衛の仕事に困る事はないですけどね」
「それでも、割とこの周辺にある町や村よりおちついてますし、荒っぽい奴が多いから乱暴者はあんまりいませんし」
護衛の女性達は槍を肩に載せながら笑っている。荒っぽいから乱暴と言うより、活気があって生活がそれなりにできるし、荒っぽい人ばかりだからこそ横暴なふるまいをすれば殴り合いになるため、それなりに覚悟が出来ている人しか寄り付かないと言う事なのだろうか。
夜間の警戒中も誰一人近付く人はおらず、騒がしいだけで特に何ら問題は起こらなかった。
朝になると町はさらに騒がしくなり、活気に溢れすぎている町 マルモノ、ここでの皆の商売や生活はかなり騒がしいものになりそう。




