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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
292/313

292.王都より西の治安

 あの魔物を押し付けようとした3人は、ハスタルさん達が町の衛兵に突き出した後そのまま連れていかれたらしい。

 衛兵の人達はギルドの人を呼びつけ、前歴があったのかギルドの人達は一括することもなく、賠償金が支払えなければギルド員資格の停止及び奴隷落ちとなるとのこと。

 3人は結局手持ちのお金や武具やらを売り払い、賠償金を支払ったことで治められることになった。随分とハスタルさんを睨んでいたらしいのだけれど、町の外に出るだけのお金さえないらしく、当分の間は雑用なような仕事をしない限り生活も出来ない状況らしい。

 もはやギルドからの信用も道具も何もないのだから、簡単な仕事以外は出来ないし、追いかけられる可能性もないというのがハスタルさんの弁。

 なので賠償金の半分はギルドと衛兵に賄賂と監視を兼ねて渡し、オーガの素材も売って戻って来たとのこと。


「ハチミツと蒸留酒が売ってたので買ってきましたよ」

「香辛料は塩以外なかった。 ただ良い樽はあったから購入しておいた」


 ハスタルさん達はお土産というか、頼まれていたモノを買ってきたくれた。荷車から荷物が護衛の人達の手で下ろされ、樽はすぐにエイケさんが受け取って回しながら屋台車に運ぶ。


「これで干した魚と干し肉を保存できるね。 もう空きが少なくなってきたから助かるよ」


 エイケさんは屋台車の近くに干してある肉や魚を塩と一緒に樽に詰めていく。保存するには干して塩漬けにするのが一番とのこと。


「残りのお金は、渡しておくよ。 オーガが思ったよりも売れたから、パン多く買ってきてあるから料理に使えるかな」


 ハスタルさんは余ったお金をイルレさんに渡す最中面白いものをみつけた。

 旅のお供にするかっちかちの雑穀パン、長持ちするので買うのだけれど大抵まるい形か楕円なものばかり。だけど今回は四角い雑穀パンがあったのをみて、前に作ってもらったホットサンド用の鉄板を車内から取り出す。

 カイにホットサンド用の鉄板に収まるように雑穀パンをカットしてもらい、お酒で少しだけ戻した干し肉とチーズに野菜を入れてもらって挟みながら焼く。

 料理するのはやっぱり料理が好きなエイケさん。


「……良い匂いがするね」


 エイケさんは火傷しないように皮の手袋でたまにひっくり返しながら焼き加減に注意している。少しして押さえていた蓋を開けると、小さな凸凹のおかげでくっ付かずに綺麗にはがれた。鍛冶屋の人、良い仕事をしてくれたみたい。

 木の平皿に中身をだすとみんなでフォークで分けて味を見ている。


「うん。 暖かくてぱりぱりしていて、大きな鉄板を使わないから手軽で良いね」

「でも、一度にできる量が少ないね。 沢山作るものは大きくて重そうだし、少量作るかたちかな」

「これ、すごいですよ。 干し魚とかチーズだけとか色々使えるとおもいます! これ私に考えさせてください!!」


 アウグさんは特に引き付けられたのか、まだ温かいホットサンド用鉄板を持ち上げるとアレコレと考えている。確か肉や魚だけを焼くのにも使えたと思うけど、どこまで流用は効くのだろうか。

 エイケさんに負けないほど料理好きなアウグさん、何かしら考えるだろうから出来上がるモノが少し楽しみ。


 留まって20日、大分みんなの調子が良くなってきたのと、毛皮や干し肉干し魚が沢山になったので出発する事になった。

 少し勿体無い気がするのだけれど、獣や野盗の住処にならないよう、仮の拠点は綺麗に片づけ土壁も全て無くしてしまう。


「さぁ街道に戻ったら西北西に向かうよ。 また数日旅が続くけれど、その間は旅人や旅商人相手に商売しながら進もう」






 ゆっくりと街道に戻り再び、西北西に向かう。王都から東側はなんというかある程度発展していたというか活気があった。だけど西側は活気が余りないというか、人々の雰囲気が余り良くない。


「おい! 少し負けろ!!」


「だめだ! 金がないなら諦めな!!」


 街道沿いの広場で屋台を開いて居ると、値を下げろと大声を上げる旅人にハスタルさんが斧を握って断りを入れる。舌打ちをしながら屋台から離れ街道に戻り歩いていった。

 ここまでに数回盗賊とまでは行かないけれど、性質の悪い旅人や商人などが多くみられるようになった。味噌鍋の金額を負けろと言ったり、数が少ない籠を大量に買わせろと言ってきたり、王都の東側と事情が異なる。

 王国の事情は分からないけれど、東が発展し西は余り発展しておらず治安が悪いというのは確か。侯爵の看板によって大人しく引き下がって入るけれど、それがなかったらもっと護衛の人が居なければ安全な旅は出来ない可能性が出てきた。

 念のために信頼できる護衛の人を追加で雇った方がいいかもしれない。


「はい ステアー、新しいスカーフだよ」


 シグさんの声に視線を向けると、お店の裏で新しく刺繍したスカーフをステアーの首に結ぶ。スカーフが付くとステアーは車体の上に上り、屋台車の方を見ながら寝転がる。

 ステアーももう立派なサイズ、というか体長2mにもなって驚くほど大きい、のだけれど温厚と言うか旅の仲間には甘噛みくらいはするけど本気で噛むことも怒る事はない。デュロとじゃれ合ってごろごろ転がり回るとか、ベレッタさんが恐る恐る触れたりしても大人しく割と優しい。

 ただ敵とみると容赦なく、唸り声一つ上げずに喉を狙って噛みつき確実に仕留める。たぶん自分が人間だったら間違いなく負けて殺されていると思う。ただ、いま戦車の自分には特に何か思っている様子もなく、車体の上にはステアーお気に入りの毛布と保存食の骨付き干し肉が隠されている。

 あくまで自分は上も下もない仲間のような何かの判断をされてるっぽいのが最近分かってきた。


「そろそろ引き上げ時かねぇ。 もうちょっとのんびり稼ぎたかったけど、変なのが集まり過ぎたよ」


 お店は片づけを始めているけれど、イルレさんの視線の先にはこちらを窺うような旅人や商人が居る。直接暴力的な行動には出なくても、こっそりお金や食材を盗むくらいはしかねない。

 気付かれなければ犯罪じゃないし、侯爵様に訴えられることもないだろうと考えているだろう。もちろん寝る必要がない自分も監視しているし、護衛の人達だって油断していない。

 だからこそ広場に留まっている間じっとこちらを見ているし、夜になると妙な動きをしているのだろう。


「もう閉めて移動にするかい?」


 ハスタルさんが追い払うとまでは行かないけれど、妙な行動に出ないようにらみを利かせながらイルレさんに訪ねる。

 イルレさんは頷くと皆の方を向いた。


「頃合いだよ。 よし、皆準備して移動するよ!」


 イルレさんの言葉に皆は準備を進め、手早く片付けると荷物を荷車と屋台車に詰め込む。

 お金については自分の後部ドアから車内に放り込まれる、んだけど普段はそんなことはしない。周りの目があるから意図して周りに見えるように、荷車を狙ってもお金はないという事を分からせる。これで何かあっても一番狙われやすいのは自分ということになって少しは皆が安全になるはず、だと思いたい。


「しゅっぱーつ!!」


 デュロの声に街道の広場を離れて道に戻り、再び西北西にあるアルスト教団支部に近い町に向かう。

 そしてやっぱり後を付けてきているような人達が何人か見える。今夜は特に注意をした方が良いかもしれない。

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