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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
288/313

288.旅が新たな出会い?

 ソミールレイル侯爵からの手紙も届き、準備も整ったのでローレムの町か西に向けて出発。

 新しく護衛の人を雇おうとしたのだけれど、イルレさんの試験に合格できる人がおらず、今回は誰も新しく護衛の人を雇う事は出来なかった。

 あくまで女性の人じゃないと皆の精神的負担になるし、男女では生活の仕方が異なるので手間にもなる。

 ハスタルさんは例外中の例外、体は男だけど心はレディな人なので皆も理解しているから大丈夫。


「これ、今夜の料理に使える?」


 少し仲良くなった護衛の女の人が、移動の最中にいくつか果物の実を見つけてきてエイケさんに差し出した。


「ちょっとまってね」


 エイケさんは果物を受け取るとステアーの前に出し出す。

 ステアーはなぜか自然と食べられる食べられないを見極める。もちろん好き嫌いもあるのだけれど、カイがネギ類は止めているので基本的に問題ない。

 ステアーは何度か匂いを嗅いだりしたあと一口、虫に食われていたり寄生虫とかが居ると食べないのでこれでもう大丈夫。だから何であれ最初に匂いを嗅いでもらうのが一番だった。

 そのあと一口エイケさんが食べて頷く。


「……うん。 これは十分熟しているし、少し手を加えれば美味しくなると思う。 お鍋で少しのハチミツと水にお酒で煮てみましょうか」


「今夜は菓子付きになるんだね!」


 ほんの少しだけでも甘いものは贅沢品、それをエイケさんならさらに量を増やして味を良くできる。日々料理を研究しているというのもあるけれど、もう護衛の人達も分かっているので木の実とか果実を見つけてはエイケさんに渡していた。


「今夜は干し肉だけじゃなくて、干し魚の鍋にしましょうか」

「パンも古くなってきたし、次の村か町で買わないと」

「次の場所ではどんな食材があるかねぇ」


 新たな町や村を訪れれば、良くも悪くもその周辺で良く採れるものが市場や店に並ぶ。旅続きの生活の中で楽しみと言えるし、料理の種類が増える事を喜んでいた。

 屋台としてはいつもの味噌鍋に味噌で味付けをした干し肉と干し魚等ばかりだけど、旅の食事は様々な物がでる。最近だと自家製造した干し肉や干し魚は香木燻製までしているから、買ったものより自分らで食べる分は美味しいらしい。

 最近は食べられないのが残念に思うほど、エイケさんとアウグさんの料理を美味しそうに皆は食べる。暖かくて美味しい食事は心を落ち着かせるとはいうけど、幸せな気分と体調を良くする事だってある。

 自分はもうみんなの荷車を引っ張っていくだけで、それ以外の事は必要がない。そろそろソミールレイル侯爵の管理する町などで別れて、危険な目に巻き込まれないようにした方が良いかもしれない。





 西へと露店や屋台を村や町で開きながら二ヵ月、小さな支部などがない為随分と遠くにある教団へと向かう最中、途中に立ち寄った村で村人の人達が集まって、近くに盗賊が居て商人も旅人も寄り付かず、何とかしてほしいと頭を下げてきた。


「それは、あたいらじゃなくて領主様に頼むものじゃなかい?」


 ハスタルさんは呆れながらそういう。

 確かにどうにかしてと言われても、それは領主とかの下に居る兵士の人とか、冒険者ギルドに頼むものだし、なんか怪しいし騙しているような気がする。

 村の人達が来ている服が、妙に古くないというか他の村の人達よりモノが良く見える。ここまで大きな農地も見当たらないし、川があるわけでもないんだけど。


「少しの間で良いのです。 その間に村から領主様に早馬を出しますのでそのわずかな間だけでも何卒!」


 村長らしい人の周辺では、同じように頭を下げ涙を流している人もいる。

 皆を危険な目に会わせるわけには行かないし、とはいえ真実だった場合見捨てるにはあんまりな気がする。

 村に残っていて守るより、皆と一緒に討伐にいった方がまだ目が届くのだけれど、どうもそう言う訳にはいかないような雰囲気。


「早馬なら三日で付きますのでお願いします! もう村を守ってくれる兵士の人も怪我をしているのです!!」


 怪我をしている兵士らしい人達も6人ほどいるのだけど、なんというか怪しさしかない。

 子供もいるので仕方ないのでそのまま村の入り口当たりで待ち構えていると、翌日には確かに盗賊らしい人達が10人ほど向かってくるのが見えた。

 ハスタルさん達、本来皆の護衛が村の外側に対処するし、村の人達も武器を持ちだしているけど、村の入り口に向かおうとせずに村の中に居るだけ。むしろこちらの後ろに回ろうとしている様子さえ見えるのだけど。

 もしかしなくても、これは盗賊と村の人達が協力関係にあるのかもしれない。


 歴史の中にはそういったことがあったというのも、記録されているし自分も本で読んで覚えている。

 それに色々鋭いステアーが唸り声をあげずに車体の上から村人の人達を睨んでいるから、何かしらの悪意をこちらに向けているのは確かのはず。

 さすがに二方向同時を大人しい方向で皆を守る事は出来ない。皆非致死性ゴム弾を装填し機銃の狙いを定めつつ、丸太を念動力で鎖投網を少しだけ持ち上げる。


 村の入り口でハスタルさん達と盗賊らしい人達の戦いが始まる。イルレさんが容赦なく切り捨てているのですぐに終わりそうなのだけれど、兵士の人達の様子が何となくおかしい。


 荷車の近くにいた村人の人達が槍や剣を手に持って迫ってきたところで、荷車の中に居たカイは飛び出すと村人を棒で叩き伏せ、自分も続いて逃げないように投網を投げた後丸太で村人を地面に押さえつける。

 ステアーもすでに2m近い大きさ、唸り声をもあげずに村人が逃げないよう先回りし、無謀にも襲い掛かった1人の首を噛み千切っていた。

 自分は命を奪わずに捕える。だけど護衛の人達もイルレさんも、カイもステアーも手加減はしない。それがこの世界の常識だから。


「リョウ 捕まえる余裕がなければ、殺してしまえ」


 カイはそう言いながら叩き伏せる村人から、時折骨が折れるような音が音と共に悲鳴が聞こえる。棒が折れていないから加減はしているようだけど。

 自分も丸太で打ち倒した人の上にそのまま丸太を置き、新しい丸太を念動力で持ち上げて向かってくる村人を地面に押し倒して抑え込む。加減はしているけれどうめき声を上げてはいるので、打撲くらいはしているかもしれない。


「カイさん手を貸して!」


 イルレさんの方も相手が多いどころか、怪我をしているふりをしていた兵士の人まで盗賊側に加わり、人数の差もあるので遠目に見ていてもかなり危うかった。

 こちらが大体片付き、縄で縛り上げている中カイが棒を捨て剣を抜いて走って向かっていく。


「無理をせず下がれ! オレが片付ける!!」


 カイは乱雑に振り回される槍や剣をよけ、兵士や盗賊の首を一刀の下に切り裂き、酷い出血をしている喉や首を抑えて相手は倒れる。地面に広がっていく血液の広さからたぶん助からない。

 首が飛ばないだけ加減しているのだろうけど、それでも縛り上げた村人の人達は恐怖に震えている。少数だから襲ってどうにかできると思っていたのだろうけど、イルレさんも毎日鍛錬しているし、護衛の人達だってきっちり選び抜いた手練れだからそれは誤り。

 カイによって盗賊と兵士の人は切り殺されたけれど、護衛に雇っていた一人が怪我をしてしまい、腕を斬られたらしく抑えている。

 今回はアキュラさんとベレッタさんが治療に当たり、幸い命に別状はないようだけど、善意で村を守ろうとしたことから起きた怪我、もう善意を持つ事さえ危ないのだろうか。色々と悲しくなってくる。


「さて、覚悟は出来ているんだろうね」

「騙して捕えようなんて、お前ら全員領主に突き出すからな!」


 イルレさんとハスタルさんは捕えた村人の所まで行くと、縄でしっかりと縛り直し泣いたり懇願したりしている人達を扉や窓をしっかりと塞いだ一軒の家に押し込んだ。

 ハスタルさんが聞き出したところ、村は盗賊に協力して、旅人や商人の持っていたお金や物資と生き残りを奴隷として売っていたらしい。

 だからこそ大きな農地も見えないし川沿いでもないさほど大きくない村なのに、皆の着ている服が王都で見た人達に近い良い格好をしていたのは、こういう方法でお金を稼いでいたということなのだろう。

 村の人達の中にはまだ小さい子供も居るのだけれど、今まで見てきたことや、ソミールレイル侯爵を知る限り誰一人生かしておくとは思えない。

 村人全員が処刑されるか奴隷に落とされる、でもそれを止められるわけもなく、止めたとしてもきっと村の人達は同じことをする。

 飢えて餓死するまで犯罪をしない人も居れば、生きる為なら容易く犯罪をする人がいる、だから犯罪を選んだ時点で助ける範囲は狭まるし、そして王都の住民に近い良い暮らしをするまで奪い続けたのだから、それは生きる為の範囲を超えている。

 たぶんすでに奪って生活する事が当然になっているし、子供は疑わずにそれが当然だと思っているかもしれない。

 助けないし止めない、この世界にとっての処罰を受けさせる以外選択肢なんて出来るわけがない。


「それじゃ出来る限り早く戻ってくるけど、気を付けて」


 護衛のリーダーでもあるハスタルさんは村にあった馬に乗り、近くの町まで事情を説明しに向かった。


「ここから出しやがれ! くそがだしやがれ!!」

「いやだぁぁ! 処刑はいやだぁぁぁぁ!!」

「子供だけでも! 子供だけでも助けてください!!」


 戻ってくるまで、閉じ込めた家から怒声に叫び声、懇願する声や泣き声や悲鳴が響いてくる。でもそれは、今まで襲われてきた人だって同じ、きっと奴隷にされたくなかっただろうし、殺されたくなかったと思う。

 一時的な哀れみで大目に見たところで、同じ生活を忘れられず再び繰り返すだろう。それに最初に善意で助けようとして裏切られたのに、重ねて助けるわけもない。

 聞こえてくる子供の声にデュロが辛そうにしている。でも許すわけにも例外にするわけにもいかない。イルレさんと護衛の人達に家を見張ってもらい、声が聞こえない距離まで荷車を引っ張って離れる。




 夕食が終わるとアキュラさんがハープを奏でながら夜を静かに過ごす。

 皆も悲鳴や嘆きの声はトラウマを思い出させるらしく、顔色がずっと良くない。この村を離れたら一旦休息をした方が良いかもしれない。

 音楽とアキュラさんの優しい歌声で、デュロも少し落ち着いてウトウトしながら火に当たっていた。イルレさんに手を繋がれ、荷車に戻ると眠ったみたい。


「今日は皆で寝ろ。 火の番と夜警はオレがしておく」


「すまないね」

「ありがとう カイさん」


 頷くと皆は荷車に入り、焚火の前にはカイと狼のステアーだけが居る。ステアーはカイにくっ付くとそのままその場に寝転がった。

 それからハスタルさんが戻ってくるのに3日かかったけれど、兵士の人と共に来たのですぐに村の制圧が行われた。といっても家に閉じ込めている場所が開けられ、皆衰弱していたけれど兵士の人達に縄に繋がれ連れて引っ張り出されるだけ。

 大人も子供も、乱暴に棒で打たれ悲鳴を上げている。それでも村の人達が今までしてきたことも、見逃した場合これからするだろうことも、これからどんなめに村人の人達が合おうと、判断することはもう兵士の人達に回った。

 この周辺を管理する領主がどのように判断するのか、まだ盗賊の本拠地には人は残っているかもしれないけど、それを対処するのは国や領主であって自分達じゃないし、もうわからないし知ろうとも思わない。

 悲鳴や泣き声が聞こえている中、皆と共に村を離れる。護衛の人も怪我をしてしまったし、善意を利用され悪意で返されたのは辛い。

 それは前世でも同じことだけど、どうであれ辛さと悲しさは変わらないし、だからこそそうで合ってほしくなかった。

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