表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
287/313

287.再び西へ向かう準備

 ローレムの町に戻ると特に何か起きたわけでもなく、ちょっとだけ人が集まる屋台になっていた。昼も過ぎた時間のはずだけれど、まだ店の前に用意された机で料理を食べている人がまだいる。

 隣接して開く予定だった籠とか刺繍を売る露店を開いて居ないのは忙しい為だろうか。結構な数の蔓製の籠や刺繍を作っていたと思うんだけど。


「カイさん おかえり」


 気が付いたイルレさんが声をかけると。、みんな片づけの手を止める。


「リョウもおかえりー」


 デュロはパチパチと車体を叩き、ステアーにいたっては愛用の毛布を咥えて車体の上に飛び乗り、前足で器用に整えて寝転がった。

 自分も旅の一員ということなのだろうか。


「それで、すぐ出発します?」


「侯爵からの折り返しの連絡が付くまではこのまま留まる。 まだ届いていないのだろう」


 イルレさんが出発するかどうか確認しているけれど、カイはまだ留まるという。

 自分が牽引してもローレムの町までかなりかかっているのだから、普通に連絡しようと思えば馬でも同じくらい、そして向こうで書面の内容に関してアレコレやって、その後連絡が来るだろうから、一週間とか二週間かかりそう。


「それなら、もっと屋台をしっかり出来る準備したほうが良いね。 追加で人を雇ってくるよ」

「仮のテーブルと椅子も増やさないと」

「デュロちゃん。 準備手伝ってね」


 いつも通りの生活。今はここが自分とカイのいられる場所なんだと思う。





 結局二週間、のんびり待つ事になり、返信の書面には該当の商会の取り潰し等が書かれていた。侯爵に逆らうと言う事は、よほどの立場でない限り許されないと言う事。

 強力だけでとても危険な後ろ盾、やはりあまり使うべきじゃないし、もう少し護衛の人を雇った方がいいかもしれない。

 二週間居てそれなりに人気になった味噌鍋、でもここにきてエイケさんがさらに美味しく改良に成功した。


 それは傷口に塗ったり化粧品として使われるバターっぽいもの、食べても大丈夫でちゃんと牛乳から作られていると言う事。少なくとも自分が知るものとは違うのだけれど、昔のバターはこういったモノだったのかもしれない。


「うん。 思ったより合うね」

「干し肉がぐっと美味しくなります! これは大発見ですよ!!」


 きっかけはアキュラさんが手の傷に塗っていたバター、そのまま料理を受け取った時に少し混ざった味噌鍋が美味しかった。

 それを試食したエイケさんとアウグさんが、いろいろな料理に着けたり足したりしている最中。


「パンを焼き直す時に乗せてみてもいいね」

「あれに使ってみたらどう?」


 荷車内で育てている秘密の果物イチゴ、ファルさんが採取してエイケさんがジャム風にしていた。一か月に一度だけ食べられるジャム、それにバターを加えてからパンに塗る。


「本当に、この果実を屋敷に手に入ればいいのに」


 男爵令嬢で神官の修行をしているベレッタさんは毎日朝昼晩と像に祈りを捧げ、アキュラさんと共にカイから信仰についてと治療の説明を受ける日々。辛いだろう旅暮らしの中でも、食事の時はいつもにこやかだった。


「イチゴだと売る量はどうにもできないけれど、それ以外ならなんとか」

「砂糖かハチミツがあれば作れるかもしれないけれど」

「まずは他の果物にバターで試しましょう」


 砂糖もハチミツもとっても高い。バターもそれなりだけど比べものにならないくらいだから、沢山購入するのは無理。最低限なら買えるのだけれど甘いものを何か作る方法があればいいのだけれど。

 色々料理に使ってみて、味噌鍋に加える事、干し魚と干し肉に少量つけてから焼くと美味しくなるので、値段を据え置きに出来る量で使う事にした。

 でもそれがかなり上手くいって、もう露店の行列が手に負えない。


「量は作ってあるから押し合わずに並びな!」

「料理とお金は交換だからね! ツケはできないよ!!」


 ハスタルさんと町で雇った人が列に対処しているし、護衛の人達はやはりどさくさに紛れて料理を知ろうとする人を遮っている。


「こっちは料理を売るところじゃない。 下がりな」


 槍を向けるまでは行かないけれど、睨みながら護衛の人が屋台の裏に回ろうとする人を止めていた。さすがに覗いてみる程度に済ませるのは、やはり侯爵の看板が屋台から見える位置にあるからだろうか。




 夜になり、護衛の人を除いて皆が眠っている。

 自分は一人じっとしながら夜空を見ている。二週間以上経っても、それ以上に、今まで命を奪ってきた教団員の様子が頭の中で繰り返される。

 理由があって命を奪った。それだけ、でも命を奪ったと言う事には何ら変わりがない。

 前世の事で忘れてしまったことが少し出てきたけれど、大抵1人で居た事を覚えている。心が疲れて道を誤る。だから他人に本当の心を見せない心を許さない。そうしてきた。

 それはきっと孤独で無意味な事なのだろうけど、それで出来る事もある。前世でそうしていたように、同調しないし何かに飲まれない流されない。

 自分は理由があっても他者の命を奪った自分を許さない。覚えていられる限り、ずっとずっと、悔やんでそれしかできなかったことを、誰が何を言おうと決して自分を許さない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ