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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
286/313

286.アルスト教団 西部支部

 教団の支部からもっとも近い町 ローレム。

 支部が近いと言っても自分が走っても数日かかるくらいのはずだから、近いとはあんまり言えないかもしれない。

 それに手に入れてある教団の地図も、羊皮紙に絵のように目印や町の名前が簡単に掛かれたもので、大雑把にしか場所と距離が分からないので、何日かかるかまではわからない。

 それにこの町はアルスト教団員の影響は意外とないらしく、町に勧誘に来ている様子も見られないので特にすることはないかな。

 すぐに向かいたいところだけど、まずは襲われた件をソミールレイル侯爵に伝える為、この町の領主を通して書面を送ってもらわなきゃいけない。

 町の入り口で兵士の人にイルレさんが事情を話して襲った人達を突き出し、代表して羊皮紙に書いた書状と新しくできたお味噌の壺、そして届けてもらうために賄賂とお願いを兼ねた金貨を持っていく。


「行ってくるよ」


 今までのリンド商会なら商業ギルドを通すだけでいいのだけれど、やっぱり貴族が相手となると商業ギルドと言うわけにもいかず、領主と言う相応の立場がある人を通さないといけないらしい。

 そしてその為には、屋敷の門番に家令と合わせてもらうための謝礼、家令への謝礼、書面を送ってもらう謝礼とお金尽くしになるとのこと。

 結局昼前に町について、それから書面を書いて領主の下にイルレさんが行ったけれど、戻ってきたのは夕方になってからだった。


「思ったより沢山お金を持ってかれて、ここの領主は余り良くないね。 明日には商業ギルドと冒険者ギルドにいかないと」


 イルレさんは少しため息を付き、疲れた表情でみんなと夕食を取っている。


「今日は早く休みなよ。 そのためにあたいらがいるんだからね」

「すまないね。 そうさせてもらうよ」


 出発予定を変更し、ハスタルさんら護衛の人達ともに今日は残って夜警。

 明朝には危険かもしれないので商業ギルドに話を通し、冒険者ギルドから防犯の為に護衛を追加で雇ってから出かける。


「それじゃここで待っているから」

「気を付けて」

「怪我、しないでくださいね」

「カイさん、がんばって」


 皆が見守る中町を出て出発、半日ほど進んだ後に地図に掛かれている目標を元に街道を外れてあぜ道を進む。

 それなりに荷車や人が歩いているようで、雑草こそあるけれど道を通るのに邪魔な木々は切られて使われている事は分かる。

 あぜ道に入って丸一日経ってから車体をAAV7からマウスを選び、ティーガーⅡとティーガーⅠを遠隔操作。地面を締固め轍を作りながら進んでいく中、二日目の昼頃に一団と遭遇した。


「くそ! こんなところまで来やがったか!!」

「ドラゴンだ! ドラゴンをだすように言ってこい!!」

「残りの奴らはかかれ!」


 警戒していたらしい教団員に見つかり、馬に乗った1人が踵を返し教団施設があると思われる方向に走り出した。

 もう戦いたくないとは言わない。非致死性ゴム弾で機銃で馬に乗った教団員を撃ち抜き、馬から落ちてうめき声を上げている。


「この化け物! 悪魔め!!」

「邪悪な者よ! アルスト神様の神罰を受けて地獄に落ちるがいい!!」


 見ていた教団員に浴びせかけられる罵声、それでも躊躇していたら命を奪えないし教団を倒せない。照準を合わせ、襲い掛かってきた教団員は実弾によって射殺する。

 命を奪った辛さは消えない。それでも躊躇はしないよう心に決めたから。


「さて、お前には支部の事を話してもらおうか」


 カイは馬から落ちてうめき声を上げていた教団員を捕まえ、支部の情報を聞き出し始めた。最終的にはカイによって止めが刺され、教団はここから馬で一日くらいの場所にあること、そして周辺警戒に当たっている教団員も多く居ること、警戒している教団員も夜には全員戻る事がわかった。

 これで攻撃する時間は夜に決まったので移動時間を考えて暗い間だけ移動し、さらに二日後にそびえたつ崖に面した支部が見えてきた。

 積み上げられた石でできた防壁は崖まであるので囲まれた砦、夜なので警戒している教団員が防壁の上で松明を持って巡回している。


「助けられる人は、おねがい」


「わかっている」


 カイは暗闇に紛れて大回りでアルスト教団支部に向かっていくのを見届け、自分は正面から車体のライトを付けて向かう。

 光を見てこちらに気付いた教団員は防壁の上から矢を放ち、出入口らしい門からは声を上げてこちらに向かってくる小さなドラゴンが11匹、そして馬に乗った教団員達が武器を持って迫ってきていた。

 教団の思想によって、恐れても向かってくる下っ端や戦士の人達、彼らは洗脳されているだけかもしれない。それでも教団員である以上、自分が出来る事は撃ち倒すだけ。

 車体と車上機銃の狙いを定め、向かってくる人達も、防壁の上の人達も、小さなドラゴンも銃撃によって体に穴をあけ血を流し倒れていく。


「レッドドラゴンはすぐに出るぞ!」

「聞いていた化け物と違うぞ!?」

「全員に武器を持ってこさせろ! ゴーレム用のハンマーも持ってこい!!」

「戦闘用ゴーレムもあるだろ! 全部出せ!!」


 教団員が慌ただしく対処しようとしている中、主砲で防壁を破壊し、崩れた石積みの残骸を踏みつぶしながら乗り越えるとそこは綺麗に整えられた庭園。

 噴水はさすがにないけれど、綺麗な花や彫像によって整えられているので、教団と言うよりもソミールレイル侯爵の庭園の様に整えられた、まるで貴族のような立派な屋敷で今までと異なる。

 屋敷から出てくるレッドドラゴンはいつも通りだけど、教団員の人達は今まで見てきた町などの兵士よりも、磨き上げられ立派な武具を身に着けている。


「あのゴーレムを壊せ!」

「全員かかれ! 倒した者にはアルスト様の御加護が得られるぞ!」

「我が主は偉大なり!!」


 レッドドラゴンを先頭に向かってくる教団の人達の表情には、なぜか恐怖らしいものが見えない。だけど何故か肉塊を見た時のような恐怖は感じない。

 3台の戦車の主砲をレッドドラゴンに合わせ同時に発砲。今まで通り距離がある為か1発はドラゴンがその牙でかみ砕くも、残りの3発は体に食い込み絶叫の声を上げてその場に倒れる。

 前戦ったときは機銃は効かないし真正面から一発撃ってもかみ砕かれた、だから同時に撃ったのは正解だった。


「アルスト様の御加護を!」


 レッドドラゴンを倒したのに、教団員達は止まることなく向かってくる。

 その中でも10体の戦闘用ゴーレム、戦闘用と言っていただけに動きは馬に乗った人よりも早く、車輪を回転させ先端に付けられた大きな槍を向け突撃してくる。

 まだ主砲の再装填が終わっていない為、マウスの7.5cm副砲の狙いを定め発砲。

 戦闘用ゴーレムは砲弾を受けて砕け散るが、残りの9体はそのまま向かってくると車体にぶつかり大きな音を立てた。

 大きなひしゃげる音、戦闘用ゴーレムの槍はねじ曲がるかへし折れてしまう。

 念動力でゴーレムを3体持ち上げ、再装填が終わった主砲弾で粉々に撃ち砕き、飛び散った残骸に巻き込まれた教団員が数人倒れるけれど、止まる事なと突撃してきた数名のハンマーが車体を叩く。


「硬いぞ!?」

「もっと力を入れて叩き壊せ!」

「火だ! 火も使え!!」


 教団員が火矢を放ったりハンマーで殴ってくる中、遠隔操作で互いの車上機銃で狙いを定め、実弾で自分ごと撃ち仕留める。飛び散った血などが車体にこびりつくけれど、それでも構わず教団員を機銃で撃ち続け、念動力でゴーレムを捕まえては主砲で撃ち砕く。

 それでも数十人、そのほとんどが皆恐れずに向かってきて次々と物言わぬ姿に変わった。でも、この人達はたぶん下っ端とか中堅くらいの人で責任者とかではない。

 いつだって重要な役割を持つ人は出てこずに逃げようとしていた。だからカイは助けられる人を助ける事も兼ねて別行動で捕まえて情報を聞き出す、そうやっていつのまにか分担していた。


「我々は死してもあなた様の敬虔な信徒です!!」

「アルスト様の為にこの命を!」


 アルストという教祖へ信仰を示しながらも向かってくる教団員。

 人を撃ち殺すという苦痛が続き、全てのゴーレムを倒した頃には、向かってきた人も逃げようとした人も、みんな物言わぬ姿に変えてしまった。


 大きな咆哮に周囲に目も向けるもなにも居らず、真上に視線を向けたとたん車体を焼かれた。

 すぐ真上、いつの間にかというか崖の上から見下ろすように一匹のドラゴンが立っていた。


「我がかわいい子よ! ゴーレムを破壊し尽くしてやるのだ!」


 こちらまで聞こえるほどの大きな声。後方に下がりながら照準に合わせようと防壁まで下がるものの、崖から飛び降りた上から襲い掛かってくる。 

 マウスの車体に飛びつかれてしまい機銃を両腕の爪で引きはがされ、砲身を噛みつかれ徐々にひしゃげていく。

 ドラゴンの背中にはしがみついている男の姿がある。もしかしてこの男が今までドラゴンが命令を聞くようにしてきた人かもしれない。


「そのまま壊してしまえ!!」


 その言葉に従うようにレッドドラゴンは組み付いたまま炎の息吹を浴びせてきた。僅かに車内にまで入り込む炎。戦車の体になってから味わう体が焼ける感覚、前にも味わったけれど冷静になんていられず、視界全てを覆う炎は恐ろしい。

 必死に叫び声をあげるのを我慢しながら下がり続け、遠隔操作しているティーガーⅡとⅠの間に移動し自分ごと主砲で撃つ。

 体に走る強烈な衝撃と焼かれるのとは違う鋭い痛み、それと同時に上がる絶叫の雄たけびが聞こえる。

 それでも構わず機銃と装填の終わった主砲で撃ち続けると、視界から赤い炎が消えレッドドラゴンが地面に滑り落ちて動かなくなった。 


「わ、私のかわいい子が……」


 上に乗って居た男は巻き込まれなかったようで、息絶えたレッドドラゴンから横でしゃがみこんでいる。そしてこちらをじっと見たあと突然頷いた。


「ゴーレムの中に人がいるほうが、ドラゴンよりも力を得られる、そんな方法にまけるとは」


 何か勝手に誤解してくれているならそのままでも構わないので、自分自身で話しかける。


「どうしてドラゴンを従え、酷いことをしている教団のために」


「良いだろう。 この私が偉大であったことをおしえてやろう」


 そしてこの人はアルスト教団がどこからか手に入れてきた卵から、ドラゴンを育てて沢山従属させ、そして今倒したのがその母竜、とはいえすでに若く新しい母竜が教団本部で次の卵を産み、そして育てているという。


「なんでそんなこと」


「アルストの考えなどワシにはわからん。 ワシは卵から竜を育て従える、それさえできればなんでもよい」


 他の人達と違って教祖の事を呼び捨てにしているから、たぶん教徒ではなく協力関係にある人なのだろうか。それでも自由にできるドラゴンを増やす事さえできれば、自分が思い通り研究とかできれば、他人がどうなっても気にしない人。


「しかし、30年かけたことが、ゴーレムの中に入り制御する方法に劣るとは。 我が研究は無駄であった」


 そのままナイフを取り出すと自分の首に突き刺してドラゴンの横に倒れた。色々理解できないけれど、協力しなければ普通の人達でも対処できたかもしれないし、もう少し広がらなかったかもしれない。

 アルスト教団の教祖は一体何を目的にしているのだろう。





「屋敷が広く少し時間が掛かったが、こちらも全部終わらせた」


 自分だけに戻って辛い気持ちのまま待っていると、屋敷からカイが引きずってきたこの支部を預かる人達はすでにこと切れている。

 カイだけで他に誰も居ない。


「誰も、助けられる人はいなかったの?」


「全員手遅れだった。 残念だがオレでは助けられる者はいない」


 カイが屋敷内を探し回るも、生存者は誰も居なかった。クスリもなくなって洗脳と暴力だけで従えるから、助けられないほど体と心を壊され、誰もまともに話す事も動くこともなかったとカイが教えてくれた。

 もちろん数が少なくなったクスリを使用されたらしい女性達も居たそうだけど、みんなそれなしでは生きられないほどに中毒になっていた。だから、カイは魔法で眠らせ安らかに命を絶ったと。

 そしてカイが支部の責任者から聞き出したのは、北と東と南の支部が全てなくなった事で、周辺の小さな支部から教団員やドラゴンを集めたとのこと。

 ただし自分が理由ではなく、以前に肉塊の化け物になったアノ人、その人が仕留めきれなかった教団員が逃げて知らせそれに対する対策として集められたらしい。

 放棄された支部には何も残されていないこと。そして連れてこれない者は皆処分されたと。

 人間の価値は低い。それは文明程度とは関係なく、自分が生きていた地球だってそんな扱いだったけど、それでも殺したのではなく 処分 したと言えてしまう事が腹立たしい。

 そして彼らの考えが特別ではなくて、この世界にとってはそれほどおかしくない事も。


「リョウ 片付けるぞ」


 少し悩んでいたけれど、カイに言われてまだ無事な屋敷に主砲の狙いを定め、十数発も撃ち続けることで屋敷も防壁も瓦礫の山になった。

 そして念動力で穴を掘り、教団員とドラゴンを埋めていく。そのままにして置いたら野生生物が集まるだろうし、病気が広がってしまうかもしれない。


「ここも、誰も助けられない。 これからは、そうなるのかな」


「もう難しいだろう。 対策された以上、もう居ないと考えるほうがいい」


 誰も助けられなかった、でも残ったアルスト教団全体に話が広がっているなら、これからも誰も助けられない。小さな支部から集められた男女問わず、誰かが犠牲になるのを自分は止められない。

 悔しさよりも虚しさが増していく。前の時もそうだったように、自分が出来る事は限られる。分っていても割り切ることはできそうにもない。


「さぁ、戻ろう。 皆が待っている」


 カイは今まで掘っていた木像を瓦礫の上に並べ終えるとこちらに歩いてきた。死んでしまった人達には、冥福を祈るくらいしかできない。出来れば安らかに眠れますように。

 車体をマウスからAAV7に変更し、カイが車内に入ってからローレムの町へと向かう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 竜は腐らない部分だけ持っていったりしないのかな?
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