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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
285/313

285.狙われる

 王都を出発して13日、西に点在するアルスト教団施設を目指している中、途中の村に立ち寄ったのだけれど、現在とっても面倒な事になっている。


「だから! あたしらは知らないって言ってるだろ!!」


 村の周辺で商人や旅人が襲われているとかで、巨大な荷車で移動している自分達が犯人扱いされていた。


「平民の分際でこんな高価な馬車を買えるものか! 奪った金品で手に入れたのだろう!!」


 商人の男は全く聞く耳を持たず、兵士を呼んで大声を上げ続けた。要するに牽引用ゴーレムは非常に高価だから、平民には買えないので盗みや強盗を働いたのだろうとのことらしい。

 モヒカン商会は結構な金額の支払いを要求されたけれど、それでも別に平民に売ってくれないわけじゃないし、要求された金額も今まで稼いだ中から払えない金額と言うわけじゃなかった。貴族じゃなくても豪商なら買えるくらいだし、王都ではたまに商人の人が所有しているのも見た。

 だけど目の前の商人の男はただの平民だからと話を聞く素振りさえ見えない。というより怒っているようで。


「正当な持ち主には私が責任を持って探す! まずは盗人どもからとりあげるのだ!!」


 理由を付けてとりあげて自分のモノにするのが目的な気がする。なんとなく兵士の人達もわかっているのか乗り気ではないし、逃げられない程度に道を塞いでいるだけで特に何かする様子が見られない。

 一応ソミールレイル侯爵の焼き印入りの看板もあるのだけれど、大きなものではないし傷まないように荷車と屋台車の中側にあるし、ベレッタ男爵令嬢は無暗に話が広まらないよう、手に負えなくなった時に出てもらうよう中に居てもらっている。

 カイは自分の上に座りながら様子を見ているけれど、剣の柄に手こそかけていないものの機嫌は悪い。


「イルレ、話しても無駄だ。 書状を見せて終わらせろ」


 カイの言う通り自分もこのまま話したとしても、相手側が話を聞こうとしていないので平行線と言うか、無理やり捕縛と言う事になりそうだと思う。


「仕方ないね。 これを見なよ」


 カイに言われてイルレさんが荷物の中から丁寧に丸められた羊皮紙を取り出すと、縛っていた紐を解き内容を兵士長らしい立派な兜を付けている人に見せる。

 中を見ると兵士長の人は青ざめた。


「も、申し訳ございませんでした! お前ら敬礼をしろ!!」


 兵士長の人はたたずまいを治し、イルレさんに頭を下げる。

 何事かと兵士の人達は首を傾げていたけれど、敬礼と言われて慌てて体制を整える。


「何をやっている! とっと捕まえんか!!」


 商人の男がいくら怒鳴っても兵士の人達は動こうとはせず、兵士長は振り返ると持っていた槍を商人の男に向けた。


「侯爵様の書状を偽造すれば縛り首! 何よりも侯爵様の印が為された正式なものなくらい私でもわかる!!」


「どっ、どうせ偽物だろう! こんな、奴らが持っているはずがない!!」


 商人の人が青ざめながらも怒鳴るが、兵士長の人は槍を向けたままだ。


「全員この痴れ者を捕えろ!」


 兵士長の命令に従って兵士の人達は商人の男を乱暴に捕まえ、地面に押さえつけて縄で縛っている。


「大変失礼いたしました。 何卒ご容赦を」

 

 兵士長の人は青ざめながら頭を下げ、兵士の人達も必死に頭を下げている。

 侯爵と言う上級貴族のお抱えでお気に入りの程度によっては、兵士くらいならどうにかできてしまうかもしれない。だからこそ怯えているのだろうか。


「別に侯爵様に何も言わないよ。 少し懲らしめてくれればそれでね」


 イルレさんが割と怖いことを言うのだけれど、そこはやっぱり面倒をかけられたことに対するお返しだろうか。

 それにあまりソミールレイル侯爵の力を当てにするつもりは、カイもイルレさんもあんまりない。

 あくまでこういう事態を避ける為であって、実際に提示する必要があることは起きて欲しくなかったんだけど。起きてしまった以上は出す事で大事にならないように終わらせるしかない。


「わかりました! では失礼します!!」


 イルレさんに言われて、商人の人を引っ張り兵士の人達はたぶん詰め所に帰っていった。これからあの商人の男はこの世界での常識である範囲で懲らしめられるのだろう。


「やれやれ、この村では買い物したらすぐでようかね」

「それがいいよ。 あいつはきっと面倒を起こすよ」


 イルレさんの考えにハスタルさんも賛同し、村で露店を開く予定を中止して、急いで食料を買い込み村を出る事になった。

 侯爵家の傘下と言うかお抱えということで、悪質な方法を取ろうとしても、ごたごたを起こさずに対処できるようになった。

 カイは車体から降りて車内に入ると短剣の手入れを始めた。


「リョウ 油断せずに注意しておけ。 ああいう手合いは逆恨みをしてくる、何事もないならそれでいいがな」


 こっそりとした実力行使を警戒する必要があるのは、もう避けようがない事だとは思っていたけれど、さっそく面倒な手合いに絡まれてしまうのは大所帯になってしまった以上仕方のない事なのだろうか。

 大所帯と言うか商隊としてもそこそこの規模になったからかもしれないけど、人が増えれば荷車が増えるのは仕方ないことだし、やっぱりもっと護衛の人を増やしたりソミールレイル侯爵の傘下であることをはっきりと明示したほうがいいのだろうか。


 村を離れて翌々日の夜営している最中にステアーが起き上がり、唸り声をあげずに周囲を見回している。

 自分もステアーと同じように周囲を見回すと、今夜は星明りも余りないというのに、松明さえ持たない集団が街道からこちらに向かってくるのがみえた。以前と同じ、襲ってくるような人達と同じ行動。


「みんな起きな!」


 ハスタルさんが気付き、斧を掴んで起き上がると雇った護衛の3人も各々武器を持つ。

 自分は、どうしよう。雇ったので見ているだけでいいのか、それとも何かしら対応したほうがいいのか。念のため鎖で出来た投網をいつでも投げられるようにしておこうか。

 夜道からはっきり見えてきたのは8人、真っ当というべきなのか、しっかりと革の防具と磨かれた槍や剣を持っている。いままで見かけた盗賊の人達と違って、ちゃんとした兵士の人のように見えるのだけれど、まさかプロと言うか襲うのに慣れている人達かも。


 急いで鎖投網を車体から持ち上げると、唸り声をあげずに反対側を見るステアーは車上から飛び降り暗闇に紛れる、その視線の先を見ると3人がこっそりと反対側から向かってきているのが見えた。

 カイはすでに気付いていたらしく、小さな短剣を2本手に持ち投げる準備が出来ていた。


 街道からは武器を手に走りこちらに向かってくる8人、狙い定めつつ念動力で投じた鎖の投網は上手く広がるように投げる事が出来たので、3人が鎖の投網に頭から絡み取られ地面に倒れる。鎖投網の端には石のおもりが付いているので、そう簡単に逃げる事が出来ないはずだけど、念のため車上に積んである丸太もついでに倒れた上に載せておもりにしておく。


「一気に終わらせるんだよ!」


 イルレさんは残りの5人に向かい、なんだかんだとフサフサクラブのトーラスは馬車の御者席で爪を掲げていた。

 カイが持っていたナイフを投じると悲鳴を上げず、頭部に深々と突き刺さり二つの人影が倒れる。残る1人は走りこちらに向かってこようとするけれど、ステアーは暗闇に紛れて背後から飛び掛かり武器を持っていた腕に喰らい付いた。

 骨が砕けるにぶい音がした後、地面に引き倒され何かが引き千切れるような音が何度も響いてからステアーは戻ってきた。

 血まみれで片足を引きずっているようにみえるけれど、切られたような痕はみえないし殴打でもされたのだろうか。

 カイはしゃがんで戻ってきたステアーに触れて状態を確認しているみたい。


「折れては、いないが無理をしたな。 ゆっくりと休め」


 カイはそのままステアーを抱え上げて車内の中に寝転がせる。


「そのまま寝ていろ」


 ステアーは大人しく尻尾と耳を垂らすと車内で横になった。


 街道では鉄同士がぶつかる音や断末魔の声と共に、護衛の人と襲撃者の戦いが始まった。

 どうしようかとあたふたしている間にイルレさんによって2人が斬り倒され、護衛の人達と小競り合いというか激しい戦いになっている。

 TVでプロレスとか格闘技を見た程度の自分じゃ、どのタイミングでゴム弾を撃てばいいのかわからない。皆に当たってしまいそうだし、邪魔になってしまうかもしれない。


「捕えるなど考えずに仕留めろ! リョウは投網の3人を抑えろ!!」


 カイに言われて投網で捕まえた3人、重りと追加の丸太の重さからまだ逃れられていないようだけれど、念のためもう一本積んである丸太を念動力で持ち上げて抑えておく。


 そのまま残りの3人も護衛の人達に倒され、護衛の女の人が少し怪我をした様子だけれど、今後の護衛依頼にも問題はないらしい。


「さて、襲った理由を聞かせてもらおうか」


 自分が抑えていた襲撃者の3人はカイとイルレさん、そしてハスタルさんで投網で捕えた3人から情報を聞き出したのだけれど、正直見るに堪えない方法で1人が死んでしまったので、目が覚めた皆には荷車から出ないように、かつ声が聞こえないように離れた場所で行われた。

 彼らは商人に今回雇われて襲ってきたわけではなく、元々商人に雇われているそう言った事をする人達、侯爵の書状や庇護があっても避けられない悪人、それがこんなに早く起こるなんて思わなかった。


「罪人は次の町で突き出し、詳細はソミールレイル侯爵に伝えよう。 それでなんとかなるはずだよ」

「字はあたしが書けるから」

「町で兵士の詰め所を通そう。 明日の夕方にはつけるはずだから」


 直接対処しなくても、侯爵に状況を知らせる書面と約束の献上品を送れば、自らに反攻したものとして片付けられる。

 良くも悪くも今は傘下にある商会だから、襲うように命じた商人は侯爵にとっては明確に権力者であり支配者に逆らった相手、たぶん商人の取り潰しどころか最悪一族全員縛り首や奴隷落ちなんて事になるかもしれない。

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