10.夜番と襲撃者
「トイレも便利だったけれど、その小さな天幕もよさそうね」
「それは一つしかないからあなたが使うのでしょうけれど、少し見てもいいかしら?」
設置したテントを覗いたりしている。2人くらいは余裕で寝転がれる広さと出入り口をテントと同じ素材で塞げるもので、小さいけど地べたや板の上よりは寝心地が良いと思う。
「あぁ、使いたいなら先ほどと同じように幾らか支払うなら2人で使っても構わない。 オレはこいつの中で眠る」
寄りかかりながらカイが車体を軽く触れた。車体の中で眠られるのはなんていうか、生身の目の前に居られるような錯覚を覚えてしまい、緊張してしまう。だけどカイは気にせず、ハッチを閉じられるため安全に眠れると言う事で有無を言わさなかった。
「ゴーレムの中で眠れるなら安全ね。 あなたが一人で依頼を受けた自信が少し分かったわ」
「それなら天幕の中を見せてもらうわ」
女戦士の話し方だと、どうもあんまり良い依頼じゃなかったみたい。たぶんそれを分かっていて硬殻のギルド長がカイと自分を見て決めたんだと思う。
そんな事を考えている間も女戦士2人は天幕の中を確認している。一応民生品で、中に敷かれるシートもほんの少しだけ柔らかい。男達を見る限り、地べたに毛布のような物を持ってきてるみたいだけど、それだけよりはずっと良いと思う。
「リョウ、荷物を降ろしてくれ」
車体後部に積まれていた食料をカイの前に降ろす。元々人形だったカイも、半分?なのかどうも大きくなっただけではなく人間になったらしい。その為カイも食事もするしトイレにも行く。ただ戦争が日常という世界に生きていたせいで厳しい生活をなんとも思わないだけで、干し肉や干しパンに野外トイレもなんとも思っていない。
「前から聞きたかったけど、そのゴーレム? 何でも言う事聞くんだね。 あたいの言う事も聞くかな?」
なにかいわれた気がするが今も黙っておく。何か価値があるとか色々言われて捕まえられたり売られたりしたくはない。
「相棒だからな。 オレの話なら聞いてはくれる」
「ふ~ん。 聞いてくれるなら便利だと思ったんだけど」
「戦えるの?」
「戦える。 だが消極的で戦力としては数えられない」
一応カイも配慮してくれてはいるようだけど、正直余り戦いたいとは思わない。前世は平和ボケといわれている日本人だったっていうのもあるけど、攻撃されたなら身を護る為にどうこうする気はあっても、率先して戦うつもりは全然ない。
「まぁいいわ。 天幕は寝心地がよさそうだし、2人で使わせてもらうわね」
銀貨1枚、1000ビタを支払い女戦士2人は夜番になるまでテントで眠るそうだ。カイは車体に上るとハッチを開き、中の椅子に座って眠りに着いた。
夜になると明かりがない為真っ暗になる。小さな焚き木の光のみが周囲を照らし出してとても静かな夜。戦車になってから生命体じゃないので眠らなくていいのは助かるけど、実はする事がないので非常に暇でもある。
今は夜番の男達がヤグラの上で周囲を警戒していたのだけれど、静かに弓を掴み何か起きようとしているみたいだ。戦車になってからかなり夜目が利くようになってはいるものの、やはりライトをつけない状態では20m以上見えない、ライトをつけると大騒ぎになりそうなので使えないのがちょっと悔しい。
「カイ、何か起きかけているみたいだよ」
「わかった」
カイは眠っていた状態から即座に目を覚まし、ハッチを開けると音もなく出て行く。そしてテントで寝ている女達を起す頃には男達も焚き木の火を消し、身を潜め襲撃者に備えているようだ。なんていうか、カイと女戦士2人は戦力として見ていないのかまったく声をかけていない。
「火を消した事から考えて、相手は恐らく野盗だろう。 問題はどの程度の数だが、事によっては馬車と荷馬車を守る為に動いてもらうかもしれない」
「う~ん。 危険な目に会わない限り自分は攻撃したくないかなぁ」
大砲と言う概念が恐らくないだろうこの世界、一発撃てば大事になりかねない気がする。でも、砲身の同軸機銃か車体の機銃だけなら、馬車の人達が危ない時は撃とうかな。
「来るぞ!」
リーダーの男が弓を放つと同時にヤグラから飛び降りた。
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異世界に転生者は不要
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