第八話
調停者、置き去りにされる。
「さて、行くわよ坊や」
(やー)
不穏な発言をした直後に俺に話しかけるファニーさん。即座に拒否する俺。嫌な予感しかしない。
「大丈夫よ、ちょっと練習がてら遊ぶだけよー。楽しいわよー」
(かかさま、さっき仕事って言ったー。僕行きたくないー。疲れたー)
魔力操作に慣れたからか、念話も今まで以上に負担なく、正確に伝えられる様になってきた。まあ、一人称や口調は子供のそれになってしまうが。
「あらあら。なら休んでいても良いわよ」
そう言うとファニーさんは翼を一度だけ動かす。途端、猛烈な眠気が襲ってくる。
(え⋯⋯かかさま?)
「良く眠るのも赤ちゃんの仕事ですからね」
その言葉を最後に俺の意識は遠ざかっていった⋯⋯。
目を覚ますと、そこは洞穴ではなかった。空が見える。ただ、明らかに赤い。太陽のせいではない。何か他の要因だ。赤黒い、とも言える。血の色だ。
「起きたわね、坊や」
ファニーさんの声が聞こえたので、魔力を使ってそちらに顔を向ける。
「これが神鳥の一族の任務よ。相性最高だから問題はないわ」
それでも厳しい表情を俺に向ける。鳥の表情が理解出来る日が来るとは前世では考えもしなかったな。
「とりあえず火と聖の魔法打っていたら大丈夫だから。頑張りなさい」
いつもと違う真剣な雰囲気でファニーさんは俺に語りかける。雰囲気に呑まれて念話を使う事すら忘れていた。
「じゃあ、一人でやってみなさい。後で迎えに来るからね⋯⋯これが子供に対するスパルタ!谷から突き落とす感覚!私も立派な母親ね!」
後半にとんでもない本音をぶちまけつつファニーさんは飛び去ってしまった。そもそも親子じゃないよね。いや、俺も『かかさま』っと呼んでるけどさ。
改めて周囲を確認すると元々住んでいる火山とは別の山のようだ。魔力を探ると遠くに見える山が家のある火山だろう。ファニーさんの魔力というか気配もそちらに感じる。
「あー」
揺り籠もない。これだと激しい動きが出来ないな。一体何が起きるかも解らないから不安で仕方がない。
そして今居る空間は不自然にだだっ広い。軽く野球場くらいあるぞ、これ。一応山頂みたいなのだが。
山をスパって切ってしまえばこうなるのかな、という感じだ。自然には出来ない空間。まあ、この世界は魔法があるんだけどさ。
ちょっと現実逃避してみたが、明らかに注目しなければならない存在が一つ。
扉。
ただ、地面に立っている。
ちょっと斜めに傾いているのがお洒落。
何やら不可思議な紋様が刻まれているが、それよりも留意すべきは禍々しさ。
前衛的な芸術と言えなくも無い。
それは赤黒く、脈動しているのかとも思える不可思議。怨念や邪念といった負の感情が漏れてくるのが解る。魔力に近いが少し違う。
力としては多少の差異なのだろうが、存在としては明らかに異質。
新しいエネルギー源とか言い出す輩が居そうだな。
色々と視点を変えながら観察してしまったが。
あれは存在してはいけないモノだ。見たくないし、意識してはいけない。呑み込まれてしまいそうになる。
空だって、赤黒いのではない。これが放つ何かが空気を、空間を血の色に染め上げているのだ。
いや、染め上げるなんて生易しいものではない。無理矢理に塗り付けて、他の存在を殺しているのだ。
限界だ。どれだけの時間扉を見つめていたか解らないが、これ以上は俺にとって危険だ。気が狂いそうになる。世の中の悪いモノを濃縮したような扉を見つめていると、こちらが侵食されそうな気すらする。
「ふえぇぇ⋯⋯」
泣きたい。逃げたい。生きていたくない。こんなモノが存在する世の中なんて絶望しかない。
俺の思考も塗り潰されていく。
逃げよう。
そう決心した。
しかし、俺が逃げる決意をした途端、扉はゆっくりと開いていった⋯⋯。
本日二度目の更新です。一話一話は短いので申し訳ないのですが、これくらいが書きやすいもので。力不足を痛感しています。
さて、皆さまに感謝を!総合評価が10pt越えました!
いや、それだけなんですが凄く嬉しいです!
これからも頑張ります!
次の更新は2.3日後を目指しています!