第七話
調停者、実験する。
ふとした切っ掛けから魔力の新しい使い方に至った俺は色々と試してみる事にした。
先ずは効果範囲。
視界内なら問題無く操る事が出来た。
見えない部分も手探りのような形でなら動かせた。
あまり遠くまで動かすのは怖いので、洞穴の入り口までで止めた。
あの熱い感覚は溶岩の滝だろうし。怖いよ。何があるか解らないんだからね。俺にダメージが入る可能性だってゼロでは無い。
次に数。
これは大体100本くらい魔力の糸を放出出来た。
多いのか少ないのかの判断は難しいが、あまりに増やすと、俺の頭の方が厳しい事になってしまう。
同時に複数の魔力の糸の出力、認識、操作。特に認識が難しかった。
どれだけ魔力を有していても、魔力操作に長けていても、脳の働きは普通のままなのだから。
「あー」
一応掛け声みたいな物を発しつつ実験を続ける。今度は魔力の糸に属性を付与する。
ずっと白の属性だけで念話や操作を行っていたので、他属性を試した経験が無い。
結果。
卵の中での魔力実験と変わらなかった。つまらん。
赤や白だと自由自在、黄色や緑だと数は多く出せるが操作が難しい。青だと操作は楽だが数は少ない。黒は無理。
多分、地水火風の四属性と光、闇なんだろうなあ。
仮にも神鳥とのハーフだから、火や光が得意で闇が苦手と考えればしっくりくる。
「あうあー」
次の実験開始。
魔力を今までは糸というイメージでしか放出していなかった。
一度だけ水を出して死にかけたけどな。あんな死に方は避けたいよな。
⋯⋯フラグじゃないからな、絶対。
始めは太い縄状。うん、問題ない。板状。いける。丸、三角、四角。楽しい。
「あーう、あんあう、いあーうー♪」
思わず歌い出してしまうが、言葉になっていない。
「おおーあいー、えいあーいー♪」
段々テンションが上がって来た。このまま一番試したかった事をしよう。
魔力の形を操作する。人間の手をイメージ。
形は作れた。
さて、ここからだ。
ゆっくりと指を動かす。関節は意識していないのに、関節があるように動かせる。
イメージしやすいんだろうな、きっと。
わきわきわきわき⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯。
はっ!何か変な気分になってた。いけないいけない。
魔力の手を伸ばし、置き去りにされた服を掴み持ち上げる。
⋯⋯よし、いける。自分の手を使っているかのように問題無く持ち運び出来るぞ。
そのまま俺の側に持って来て、服を着せる。
「あーあー」
何せ寝返りしか出来ない俺の身体。
腕や脚を上げるのも苦労する。
魔力の手を使い服が着やすい体勢に修正したり袖を通してみたり。
「ふやあーっ!」
半ば無理矢理ながら服を着用。ズボン履くのめちゃくちゃ苦労したわ。
突然服が淡い光を放つと俺の身体に合わせて変化した。
「あーっ」
なるほど、これがこの服の特性か。地味だが魔法のアイテムを装備するのは初めてなので非常に喜ばしい。
凄い達成感に満ちている。やり遂げた感があるが、まだ終わらない。
魔力の手でそっと自分を持ち上げる。後ろから脇に手を入れて、肩が外れないよう慎重に⋯⋯よし!
浮かんだ!浮かんだぞ!
ゆっくりなら移動も出来る!激しい動きだと俺の身体にダメージが入るかもしれない。何せ俺は赤ん坊。貧弱なのだ。
そこでイリクさんが運んで来た荷物に目がいく。換金用の物は持って行ったが、実用品は残されたままだ。確かその中に⋯⋯あった!揺り籠!
「あーうー」
ずりずりと揺り籠を取り出して俺の身体を降ろす。そして魔力の手で揺り籠を⋯⋯。
出来た!揺り籠に寝たまま移動!まるでサイボーグ戦士のようだ!
と言うか、前世の記憶が無い筈なのにどうしようも無い事は覚えてるのな。
あくまで個人的な記憶だけ消えちゃってるのか。まあ、楽で良いか。
そうやって揺り籠を浮かべながら実験を続けているとファニーさんが帰ってきた。
他に誰も来なくて良かったよ、本当に。
ちなみに魔力操作実験は、揺り籠を浮かべながら他にも水を出したり魔力の糸を出したり出来るようになった。満足。
「ただいま、坊やー。って、あらあら。凄いわねえ。そんなに出来るようになったの」
あまり驚いているようには聞こえない口調だが、きっと驚いているんだろう。何やら考え込んでいるみたいだし。
「これなら坊やもお仕事出来そうねえ」
なんか不穏な発言が聞こえたのですが⋯⋯。
ここに書き込むのは初めてです。
初めまして、作者の猛禽類です。やっと主人公が動けるようになりました(・_・;
ストーリーが動き始める予定です。
お目汚しの乱筆乱文ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次の更新は今日もう一回か、明日になる予定です。