第六話
調停者、置き去りにされる。
さて、残念ながら自力で着替えるのは不可能だったわけで。かと言ってファニーさんが着せてくれる事もかなわず。
「燃えないようにする事は出来るのだけど。爪だと上手く扱えないわ。やっぱり人化を覚えるべきかしらねえ」
あくまでのんびりと語っていた。
おかげで俺はファニーさんの羽根、かなりのサイズである。それを毛布代わりに乗せられていた。
この羽根、軽いし暖かいしで中々優秀である。まあ、こんな使用法をしている奴は居ないだろうが⋯⋯。
「大体は魔法薬か武器や防具に使うか、魔法儀式の触媒にされるみたいよ。まあ、此処はそんな設備も技術も無いのだけれど」
神鳥の羽根だからなあ⋯⋯。
気をつけないと俺も毟られる羽目になるのかも。怖い。
そんな話を『聖血』を飲ませてもらいながらしている。俺からは念話だが。
後は産まれる前からの日課⋯⋯凄い表現だな。
日課の魔力操作を繰り返し数日が過ぎた。頭や羽根、尾を自覚したおかげで非常にスムーズに出来て結構楽しい。
「坊やは魔力操作が上手ねえ。これならかなり細かい調整も出来そうね」
(調整ー?)
「ええ、例えば魔法の範囲や威力の加減をかなり自在に操れるはずよ。他にも追尾や時間差での発動と言うアレンジも将来的には可能な筈よ」
(便利ー。嬉しいー)
ストレートに感情を伝える。
「私は細かい操作が苦手なのよね⋯⋯。魔力操作だけでは無く出力強化も覚えていかないといけないわね。そっちは場所を考えないとならないわねえ」
やっぱり小首を傾げて俺に語りかけてくるファニーさん。絶対癖だ、これ。
(解るよ、かかさまー。段々魔力が大きくなってきたからー。操作出来ないくらい力を込めるのも出来そうー)
思ったままの感想を念話に乗せる。この念話も魔力の大きさや調整で色々出来そうな気がする。画像イメージなんかも伝えられるかもしれない。
それ以前に念話と水魔法しか使った事がないから不安は残るが。
次からは体内での操作だけでは無く、外に魔力を放出する練習が必要かもしれないなあ。そうなると確かに練習場所が必要になりそうだ。
そんな事を考えているとファニーさんが何かに反応し、顔を洞穴の入口方面に向ける。伸ばすと凄く長いのな、あの首。
さらに、普段の柔らかい物腰が緊張感溢れるものになる。
「坊や、ちょっと出てくるわね。仕事が入ったみたい。此処で大人しくしていてね。無いとは思うけど、万が一誰か来たら物置に隠れるのよ」
言うが早いとはこの事か。言い終わると同時に飛び立って行った。
その姿は正に神鳥と呼ぶに相応しい神々しさがあった。
が、しかし。
(自力で動けないんだってばー!)
何という放置。誰か来たら人生詰みかねない。
必死で念話の為の魔力の糸を伸ばすも見えない場所では手探りになってしまう。
そもそも既に魔力の届く範囲にファニーさんは居ない。
(仕事って何だろうか。えらく急いでたな。それこそ俺を放置するくらいに。いや、それは元々天然だからか)
魔力の糸を伸ばすのを諦めてため息を一つ。『聖血』の影響かいつの間にやら首が座り、寝返りまでマスターしていた。
明らかに成長が早い。早過ぎる。
不死鳥のハーフというのも関係があるかもしれない。
(なんと言っても卵から産まれたしな)
不死鳥自体は寿命も長いみたいだが俺はどうなのか。
成長スピードからするとむしろ短いのかもしれない。
だが俺にだって『聖血』は流れている筈だ。若干薄まっている可能性は高いが。
つまり、結論は。
(なるようになるか)
投げっぱなしな答えだがデータが足りない。感覚的に解る日が来るのかもしれないが、今は正解に辿り着けない。
もう少し魔力操作を練習しようと思い、糸を確認する。念話の為に伸ばしていた魔力の糸は俺の服の上に落ちていた。それを自分に向けて引っ張ると、服も付いて来た。
「あううあぁぁー!?」
思わず叫ぶ。え、これってひょっとして。
魔力の糸を操作して服に巻き付けて宙に浮かせると、当然のように服も浮かんだ。