第五話
調停者、姿見を確認する。
鏡に映っているのだから自分の姿なのだろう。他に赤ん坊も居ないし。
いや、もしかしたら鏡そのものが魔法の品で何か別の人物が見えているのかもしれない。
「うん、曇りもなくしっかり映っていますね。普通の鏡なのですが品質は非常に良い物なので持って来ました」
イリクさん、いきなり俺の希望を砕かないで下さい。鏡割るより呆気ないよ。
まあ、現実に向き合ってみようか。そこに映る姿を一言で表現してみると。
『お遊戯会』という言葉がぴったりだ。
髪は黒色。右眼は赤。いや、紅という方がしっくりくる。左眼は銀。まさかのオッドアイ。全力厨二設定じゃないですかやだー。
だがしかし。これは前座。俺が思わず叫んでしまった理由はこれからだ。
まず頭。赤い鳥の頭が乗っかっている。小さな子供が鳥を模した帽子を被っている感じ。デフォルメされて可愛らしい。触るときっとふわふわしているに違いない。
続いて身体の陰からチラチラ見える物体が二つ。一つは尻尾。鳥の尾、かな?こちらも赤。細長く、翡翠色の円状が連なり周囲を真っ赤な羽毛が覆っている。
もう一つは翼。絶対飛べるサイズじゃないよね、飾りだよね。
実用性あるの?って聞かれたら、あんなの飾りです。って答えるレベルだよね。しかも無駄に可愛らしいときたもんだ。
そりゃ叫ぶよ。色々文句も言いたい。
(僕、人間じゃないの?かかさまー)
うーむ、一人称が僕に変わってしまっているな。と言うか随分と言葉も成長している気がする。やっぱり『聖血』には成長を促す効果がありそうだ。
「あら坊や。関係性が解っても、私を母親と呼んでくれるの?何だかくすぐったいわね」
柔らかく微笑むファニーさん。鳥なのに身に纏う雰囲気や口調で仕草の意味も伝わってくる。もしかしたら念話の為に魔力を繋げているから、言葉だけではなく、感情なんかも伝わっているのかもしれないが。
「私は坊やが人型だとは言ったけど人間だとは言ってないわよ?」
そう言うと小首を傾げた。
この仕草は癖なのかもしれない。地味に可愛い。
「あ、鏡を見て驚かれたんですね。確かに不完全な人化みたいな状態ですものね」
荷物の山の向こうからイリクさんの声が聞こえる。本当、純粋な腕力だけでも驚異的ですよ、この美人さん。
「多分、このままなら自然に人化出来るようになりますよ。元々が人間寄りみたいですし、そうでなくても人化がほぼほぼマスターされてる外見ですから」
「ねえ、イリク。坊やは鳥型には成れるのかしら?」
小首を傾げた状態から、更に深く首を傾げながら尋ねるファニーさん。あの首って結構柔らかいのな。ほぼ直角に首が曲がっておりますが。
「どうでしょうか?不可能ではないと思いますが、時間はかかりそうですね。これからの成長次第かと」
うーん、鳥型になりたいとは思っていないが、将来的に必要になるのかもなあ。
それより、魔力を体内で巡回させていた時の違和感の正体はこれかな。
確かに人間ベースの身体より大きいと言うか、余分なパーツが付いているのだから。
逆に言うと、この頭や羽根にはかなりの魔力が込められているわけだ。
いざと言う時の切り札になるかもしれない。これも要確認だな。
「あ、後は便利な服がありましたよ。自動的に着用者のサイズに変更される魔法の品です。修復機能もありますので、消滅でもしない限り大丈夫です」
そう言ってイリクさんが渡してくれたのは白を基調としたワイシャツと黒いスラックスのような服だった。多分着たらクールビズみたいな感じになるだろう。ネクタイ無いみたいだし。
「さあ、若君どうぞ」
そう言われても自分じゃ着れないぞ、俺。
「では、私は人里に行って色々換金したり必要な物を買って来ますね」
言うが早いかイリクさんは鳥型に化身すると大量の宝石や芸術品を背中に乗せて飛び立ってしまう。
後に残されたのは俺とファニーさん。服に鏡、ゆりかごやベッドといった生活用品。
「じゃあ、早速着てみて坊や」
嬉しそうにファニーさんが言うが。
「うやあぁぁ⋯⋯」
俺の戸惑いの声が響くだけだった。