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第一話

調停者、産まれる

動けなかった。

恐らくは転生したのだろう。赤子なら動けないのも当たり前かな。

こうやって考える事が出来るだけで凄い事だと思う。

しかも『彼』との会話も覚えている。これだけでも新しい人生にとって大きなアドバンテージだ。

いや、そもそも本当に赤子に転生したのか?

ラノベ展開だと幼少期に病気や怪我をして、それがキッカケで前世の記憶を思い出すパターンだってあった。

⋯⋯幼少期どころか、老人だったりしたら、どうしよう。


意識を持ってからしばらく経った。

外が見えないから具体的な時間経過は解らない。

ひょっとしたら、まだ母体から産まれてない状況なのだろうか。何も口にしてはいないが飢えも渇きも覚えない。

死の床に臥せっていて、動けません、とかだったら泣くぞ。

時々無意識に身体が動くが、何か柔らかいような固いような曖昧な感触が伝わるのみ。


(目も見えないしなあ。いや、ひょっとしたら見えているかもしれないが視界に変化が無いもんなあ)


実際に出来ているかは解らないがため息をつく。意識を持つのが早過ぎたのだろう⋯⋯赤子だったら。

このまま徒らに時が過ぎるだけというのは中々に苦痛である。しかも、いつ終わるのかも不明ときたものだ。

気分的にため息を吐いて自分の身体に意識を移す。自由には動かないが、何となく手や足があるのが解り安心する。


(何か一つでも解る事があるのは嬉しいね)


そうやっていると、身体の中に固まりを見つける。異物感は無いが何やら温かい気がする。

そっと意識を向けると「それ」は水のような不定形なのだと何故か解った。

伸ばしてみたり、圧縮してみたり。

全身を巡らせてみたり。中々面白い。

もしかしたら血液なのかもしれない。間違い無いのは「それ」は自分のモノであり、ある程度自由に動かせるという事だ。

夢中になって弄んでいると、外から物音が聞こえる。声のような気もするが良く解らない。

多分、胎内で動いているので母体に影響が及んだのだろう。

所謂、赤ちゃんが蹴った、とかいうやつなのではないか。

だと、良いなあ。切実に。

痛かったら申し訳ないな、と思いつつも「それ」を動かせる喜びと楽しさには勝てず、眠るまで遊んでいた。



「それ」はイメージだ。様々な形、大きさに変える事が出来る。尤も、限界はある。

ただ、その限界もイメージ次第だ。

例えば「それ」に色を想像すると限界が変わった。

赤や白だと自由自在に動かせるし、黄色や緑だと大きさはそれなりだが、動かし難い。青だと動かし易いが、大きさに限度がある。黒に至っては何も出来ない。

複数の色を同時に操作も出来ない。これに関しては動かそうとすると、一つの色になってしまった。


「それ」遊び以外にも変化が表れた。

外からの声が認識出来る時があった。


(産まれる前から力が強いのねえ)

(早く外に出たいのかもしれませんね)


声は二つ。おそらくは両方とも女性の声だ。

とりあえず、自分はまだ産まれていない!確定!万歳!

寝たきり老人の側で話している可能性も捨て切れないが、多分大丈夫だろう。

⋯⋯多分。


片方は母親かもしれない。優しい印象。

ただ、不安も伝わってくる。出産なんだ、当然だろう。

この世界の出産事情も知らないしな。もしかしたら非常に危険なのかもしれない。日本はそういった意味でも良かった。色々とニュースになったりもしていたが、医療の発達は母子を共に守る事にもなる。


と言うか、父親はどうした。

たまたま声を聞く機会が無いのか、忙しくて不在なのか。

ひょっとしたら、既にこの世に居ないのか。


前世では、自分は何歳で死んだのか。

生憎、家族構成なんかも覚えていない。ひょっとしたら子供がいた可能性だってある。

ただ、知識と人格だけが残っている。

向こうでは自分が死んで悲しんだ人も居るかもしれない。逆に喜ばれるような人間だったかもしれない。

考えても仕方がない事ではあるが、嫌でも浮かんで来る想いだ。


(前世の自分を知りたい)


これから新しい人生を送る事になるのに、いつまでも引きずるわけにはいかない。

新しい人生では、後悔しないように生きるしかない。


いつ死んでも、良いように。




そう決心したものの、まだ産まれてすらいないわけで。

死ぬ為の前提すらクリアしていない。正しくスタートラインにすら立っていないわけだ。

まあ、死産とか考えたら違うのだろうが。

いや、そもそも老人だったらスタート即ゴールの可能性もあるぞ。

⋯⋯どんどん思考がおかしくなっている。

自分も不安なのだろう。「それ」遊びも集中出来ず長続きしない。

そんな鬱憤もあったのだろう。「それ」の操作が雑になっていた。イメージも荒々しくなってきた。


(爆発させたらどうなるかな)


思っただけではなく実行してしまう。

内から外へと広がる力の爆散。

風船が破裂するような映像を思い浮かべる。

「それ」を恐らくは手であろう箇所へ集め、赤色でイメージ。

それは呆気なく、滞りなく行われてしまった。


軽い音がして、世界に光が満ちる。苦しい。

だが、五感がはっきりしている。

熱い程の空気も、慌てるような声も、周囲の状況が知覚される。


(まさか、今ので産まれたのか!?)


驚くが、身体が上手く動かない。いや、赤子なら当たり前か。


「どうして⋯⋯ 」


声がはっきりと聞こえる。呆然とした女性の声。

どうにか視線をそちらに向ける。

そこには、信じられない光景が広がっていた。

神秘的なまでの存在感を備えた真紅の大きな鳥。

そして、自分の周りに散らばる虹色の破片。


それは、どう見ても卵の殻だった⋯⋯。

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