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9 夏のお嬢さん


 照りつける太陽!

 白い砂浜!

 青い海!

 夏のお嬢さん!

 Hi! お嬢さんオレ達と遊ばない!

 どこの中学校? 友達なろうよ!

 オレら? 今14歳!

「いや、セザリオ実はね。僕お前達より1歳年上なんだよ」

「今それ打ち明ける!? お前スゴイな!」

 友人たちは爆笑した。


 今日ルキアはセザリオと友達数人と海に遊びに来ていた。入学してから1年と少し。今度3年生で9月から新学期。今はバカンス中だ。

 普通科のクラスは1クラスしかないので、3年間ずっと一緒で、みんな仲良くやっている。通っている学校は私立のエスカレーター校だし、科が違わなければ高校でも4年間一緒の可能性はある。

 ナンパの最中に打ち明け話をしても、みんな驚きつつも笑い飛ばす。バカな友人だと思うけど、そう言う屈託がないところは好きだ。

 元々ルキアの住む城やセザリオ達の暮らす町は海辺の街で、暑い時は海に遊びに来るのが慣例になっている。

 セザリオ達がナンパしているのは同学年くらいの少女たちで、親同士が友人で少女たちも友達同士。少し離れた地域に住んでいるのだが、バカンスを利用してこの町に遊びに来たという事だった。

 遊びに行った先の知らない土地で友人が出来る事は嬉しかったらしく、少女たちも誘いに乗って来たので、一緒に遊び始めた。

「おりゃっ」

「痛っ! おい! ワザとだろ!」

「アハ、バレた」

 ビーチバレーをしてセザリオの顔面にわざとスパイクを撃ちこむと、顔面を押さえて怒られる。それを見て少女たちも腹を抱えて笑う。


 少しすると既に飽きてきて、さっさとその輪から抜けたルキアは、日傘の下で休む少女の隣に腰かけた。

 少女は金髪の髪を二つに結んで、白地に小花柄のビキニの水着を着ている。その顔は妖精のように可憐で、そしてどこか儚げな美しさがある。憂いを帯びた青い瞳が海のようで、何となく見つめてしまった。

「なに?」

 それに気づかれてしまったようで、みんなの様子を眺めていた少女が尋ねながらルキアに振り向いた。

「あ、いや。君は混ざらないの?」

 ビーチバレーをしている輪を指さすと、少女は首を横に振る。

「子供らしくって、バカバカしいわ」

 そう言って結った髪の片方を手で背中に払う仕草とその横顔は、高飛車そのものだ。

「子供じゃん君」

「貴方もね」

 負けじと言い返してくるのが少し憎らしい。

「君いくつ?」

「15。貴方は?」

「オレも」

「じゃぁ貴方もガキね」

 やっぱり憎らしい。

 喋らなければ可愛いのに、勿体ないと思う。

 なんだか居心地が悪くなったが、このタイミングで立ち去るのも失礼な気はするし、それこそガキっぽくて嫌な気分になる。我慢してその場に座り続ける。


 友達と他の少女たちはキャッキャと遊んでいる。その様子を隣の少女はひたすら見つめている。その表情は特に寂しそうと言ったわけでもないし、羨ましそうでもない。かといって軽蔑しているようでもないし、楽しそうでもない。

「じろじろ見ないでくれる。失礼よ」

「……ごめん」

 つくづく高飛車な子だと思う。条件反射で謝ってしまった。


 すぐに謝ったことを後悔して、段々悔しくなってくる。

 (そりゃ気味悪いかもしんないけど何だよこの態度。かっわいくねぇな)

 そう思っていると、悔し紛れに攻撃したくなってくる。

「君さぁ、混ざりたいなら混ざれば?」

 砂遊びを始めた友人たちを指さして顔を見て見る。少女は本当に不思議そうに首を傾げる。

「私、混ざりたそうな顔してた?」

 全然していなかった。

 返事に詰まったのを見て、少女はニコリともせずに視線を前に戻す。

 更に悔しいので攻撃を繰り返す。

「君友達いないだろ」

「いないわね」

 素直に返事が返ってきて、かえって驚いた。少女は驚かれたことは不服だったようで、眉を寄せた。

「なによ文句ある」

「ないけど。学校とか淋しくない?」

「別に。子供に付き合ってあげる趣味はないわ」

 やっぱり小憎らしい。

 この少女は自分が特別な存在だと思っていて、自分は他人とは違うと思っている。だから他の子なんてバカバカしくて相手にしたくないと思っているんだろうと結論付けた。

 そうすると疑問がわいた。

「じゃぁ、なんできたの? 他の子たちとつるむのヤなんだろ?」

 少女は「別に」と短く返事をして、海を眺める。

「夏はやっぱり、海を見たいじゃない」

 その返事に思わず吹き出した。肩を揺すって笑うルキアを、少女は訝しげに見ている。

「なによ、貴方ムカつくわね。文句あるの?」

「あは、は。ないけど。子供みたいな理由だと思って。アハハ」

「バカにして。ムカつく」

「はは、君もムカつく」

 それからルキアは思い出し笑いをしたが、少女は終始機嫌が悪そうだった。


 夕方になって日が暮れはじめると、人々は帰路に就く。当然セザリオ達も帰ろうとしていたので、ルキアも帰り支度を始めた。少女も水着の上から青いワンピースを着て、荷物を持って立ち上がった。

「ねぇ」

 そのまま立ち去ろうとする少女の背中に声をかけると、やっぱり少し不機嫌そうに振り向かれた。

「なによ」

「名前は?」

「聞いてどうするのよ」

「や、別に……」

「じゃぁ必要ないわ。さよなら」

 そう言うとさっさと少女は歩き出してしまって、他の少女に混ざり両親たちも合流して帰ってしまった。


 やっぱりムカつく子だと思ってイライラしていると、セザリオがやってきて肩を叩いた。

「フラれてやんの」

「違うし。ちょっと面白い子だと思ったから」

 ふぅん、と噛みしめるように言ったセザリオがニヤニヤしていった。

「あの子たちあと1週間はこっちにいるんだって。また海くるんじゃない」

「ふーん。どーでもいい」

「ウソ吐け」

「どーでもいいって、あんなムカつく子」

 ふん、と鼻から息を吐いて荷物を取ってさっさと歩きだすと、笑いながらセザリオが追いかけてきて、

「今度は名前聞けるといいな」

 と励まされた。余計ムカついたので、セザリオの足を踏んだ。


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