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8 学校と初めての友達、ついでに父兄

 初等学校と前期中等学校は一応義務教育だ。なので、空白の2年間の履歴は捏造されることになる。この国は家庭教師と言う制度もあるので、空白の2年は家庭教師がついていたという事にした。

 あとは適当に、保護者が死亡したため別の後見人、マルクスに預けられたための転校、という筋書きだ。

 ちなみにセルヴィは一度社会的にも死んでしまっているので、戸籍上は死者になっている。

 年度の開始は9月中旬。現在は4月だ。

「どうする? すぐに転入の手続きをするか? それとも新年度まで待つか?」

 学校はここから一番近い学校に行くことにした。この城は森の中にあるし、森を抜けるだけで5kmは歩かなければならない。あまり遠いと不便過ぎるのだ。

 学校のパンフレットを見ながらルキアが唸る。

「うーん僕ブランクあるから学校の授業について行けるか心配なんですよね」

「そうか、入学するだけならすぐにでも構わないと理事長に言われたんだがな」

「えっ!?」


 ルキアと二人マルクスを覗き込むと、ポリシアの方が説明をしてくれた。

 戸籍云々などはマルクスの化け物仲間に頼って誤魔化したようだ。入学に関しては理事長に賄賂を贈って、無試験でいつでも入学できるように取り計らってくれたらしい。

(すごい。コレが噂の裏口入学って奴ね! 黒い政治の渦を感じるわ! )

 マルクスは正確には正義の男と言うより、優先すべき事項の為に大義を掲げ感情を殺すことができるタイプだ。物事によっては結果正義ならそれが悪でも手段を厭わない。

「どうする?」

 重ねて尋ねられてルキアも唸る。しばらく考え込んで、すぐに入学するという事になった。

「あと1年で卒業になっちゃいますけどね」

「なんなら年齢を詐称するか? 1歳くらいなら大差ないだろう」

「……出来るならお願いします」

「わかった、そうしよう」

 ルキアの為にあらゆる手を尽くしてくれるマルクスに心底感謝した。両親が生きていたらこんな風に一緒に考えてくれたのか……そう思ってしまいそうになる。

(案外旦那様も奥様も、ルキアを息子みたいに思ってるのかも)

 そう考えると家族の絆のような物が見えた気がして、胸が躍った。



 そんなこんなでやって来た、“アミルカレシェイナ中学校”。

 ヘルメットにゴーグルを被せて、スッキリした顔で校舎を見上げる。

「ついたよルキア。楽しみだね」

「あぁ? なんて?」

「楽しみだねって!」

「あ? うん」

 ルキアが少し機嫌を損ねているのは、送り迎えをすることになったセルヴィのせい――というより、その乗り物のせいだ。

「うるっさいんだよエンジン音」

「それがハーレーじゃない」

 なぜかハーレーで送迎。ドッドッド、と低い大音量のエンジン音が見事に会話を妨げてくれる。お陰様で入学初日からルキアは注目の的だ。勿論送迎の為に急遽ハーレーを購入したので無免許運転だ。


 ハーレーを停めてルキアと一緒に理事長室へ行く。廊下は生徒で溢れかえっている。この学校の生徒数は600人以上。これほどの人間を見るのは、ルキアもセルヴィも久しぶりだ。

 理事長室に着くと、白髪の禿げたおじ様から歓迎を受けた。どうもこのハゲが理事長先生のようだ。

「旦那様の代理で参りました、家庭教師のエヴァンジェリスティと申します。今日から坊ちゃんをよろしくお願いします」

 念のため家族関係も名前も捏造した。セルヴィの偽名は“アナスタシア・エヴァンジェリスティ”。名前の由来は、テレビで見かけた女子プロレスラーの名前を合わせただけで適当だ。意味はない。

 坊ちゃんと呼ばれてルキアは不服そうにしているが、それが面白いので継続する。

「あのハーレーはエヴァンジェリスティ先生が?」

「はい」

 理事長はハーレーに乗る家庭教師なんて見た事無いぞ、という顔をしているがそこはスルーだ。

 理事長の話によるとルキアは年齢を詐称した為に1年生のクラスからスタートできる。残り4か月ほどだがそれでも貴重な時間だ。

 クラス分けは入学時に選択したコース別のクラスになっている。

 コースは外国語(英語とフランス語)・コンピュータ・音楽・環境が各2クラス,普通科が1クラス。

「普通科コースを選択と言う事で、1組になります」

「わかりましたぁ。ありがとうございます!」

 理事長が別の教師を呼んで、ルキアをクラスまで案内してくれた。その後を着いていきたく思ったが、そんな事をするとまたウザいと怒られそうだったので我慢した。

(ルキア、頑張るのよー! )

 心の中でエールを送って、理事長先生と2・3話をしてから帰路についた。


 この学校の授業は半日で、昼過ぎには終わる。たまに課外授業(体育や音楽などの選択科目)はお昼を挟んで昼からになるが、今日はその授業はなく昼過ぎには迎えに行った。

 校舎の前でアイドリングをしつつ、ハーレーに寄りかかってルキアが出てくるのを待つ。

「あのハーレー姉さん」

「転校生の家庭教師だって」

「えーオレあんな綺麗な姉さんがカテキョやってくれるなら学校こねーよ」

「お前年上好きだな」

 中学生たちがそんな話をしながらセルヴィを見ていた。ルキアを知っているという事は同じクラスか同学年の子だろうと思い笑顔で挨拶をした。


 すると一人が寄ってきた。栗毛に灰色の目をした少年。なんとなく顔立ちが異人種ミックス顔だが、美少年。

「お姉さんルキアんトコの家庭教師?」

「そーですよ。エヴァンジェリスティと言います。よろしくどうぞ」

「よろしく。オレはセザリオ。名前は?」

「アナスタシア」

 へぇ、と呟くように言ったセザリオ(推定12歳)はセルヴィの長い黒髪を一筋とってキスをした。髪へのキスは思慕の意味。

 子供の癖になんてませた行動をするのだと驚いていると、セザリオはセルヴィの髪を梳きながら言った。

「ねぇ今度さ、デートしない?」

「え、えぇっ?」

「オレがガキだと思ってる?」

「え、いや、あの……」

 あたふたとして戸惑っていると、後方から咳ばらいが聞こえた。

 セザリオの背後を覗くと、腰に手をやって仁王立ちしたルキアが睨んでいた。

「セザリオ、何してんの」

「ナンパ」

 悪びれる風もなく、セザリオは笑顔で即答した。

「噂通り軽いね、君。無駄だよ、その人男いるから」

「ウチの父ちゃんが言ってたんだよ。美人に声をかけないのは罪悪だってさぁ」

「せめてもう少し大人になってからじゃないと美女でも大人だと相手にされないだろ」

「あは、確かにそれはある」

 セザリオはルキアの登場で意外にあっさり引いてくれたので、安心してホッと息を吐いた。

 話を聞くと同じクラスの子のようで、席が近くて話しかけてきたらしい。

「えー? じゃぁ初めてのお友達? 良かったですね、坊ちゃん」

「坊ちゃん言うな」

 坊ちゃんと聞いてセザリオ達は腹を抱えて笑っている。金持ちの坊ちゃんも気の毒なものだと言って、からかいながらルキアをバシバシと叩いて手を振って帰って行った。

 ルキアは叩かれた背中をさすりながら口をとがらせる。

「痛てーなー」

「よかったね」

「ん、まーね」

 少し照れたようにした顔を隠すように、ルキアはズボッとヘルメットをかぶる。その様子がまた可愛らしくてからかいたくなったが、あまりからかうと機嫌を損ねてしまうので我慢した。



 城に帰ると夫妻がどうだったと聞いてきた。その様子はさながら息子の初登校を見守る両親のようだ。

「勉強はもう少し頑張らないといけないかな、と」

 アミルカレシェイナ中学校は知識の習得と表現力の上達に力を注いでいる。なので学業成績はこの界隈でも高い方だし、何かしらの企画やイベントも多く、試験ですら口述の物が多いのだ。

「そうか。クラスの方は?」

「うーん、女子がキャピキャピうるさかったですね。男子はギャーギャーうるさかったです。しょうもないことで笑っててガキだなーと」

「まぁ。ルキアは普通の子供に比べると随分スレた子ねぇ」

 今まで周りに大人しかいなかったのでそれも致し方ないが、その内その雰囲気にも慣れてしまうのも子供ならではの柔軟さだ。

「でも楽しそうでよかったね。友達も出来たみたいだし」

「うん、まぁね」

「お前のタイプの子でもいたか?」

「うーん、そこまで見ませんでした。明日チェックしておきます」

 その話題でセザリオの事を思い出した。夫妻に話すと愉快そうに笑った。

「ははは、面白い影響を享けそうだが、お前女タラシになるなよ」

「なりませんよ」

「そうかしら。ルキアはタラシの才能がありそうよ。ねぇ?」

「そうだな。お前ちゃんと童貞守り抜けよ?」

「わぁかってますってぇ。大人になるまではソロ活動しますよ」

 セルヴィには意味不明だったが、夫妻はルキアの言葉を聞いて爆笑した。



 その頃、自宅に帰宅したセザリオもチャラ男の師匠である父に報告していた。ソファに座って足を組み、新聞を読む父に後ろから話しかけた。

「今日さ、転校生が来たんだよ」

「へぇ女の子?」

 父はそのまま首を倒して尋ねてくる。顔を隠していた銀髪が避けて、柔和な顔が覗いた。

「んーにゃ、男」

 返事を聞くとまた首を元に戻してしまった。

「ちぇっ、残念」

「なんで父ちゃんが残念なんだよ」

「お前が友達になってウチに連れてくりゃいいだろ? そしたら俺が仲良くなるから」

「ストライクゾーン広すぎだよ。ていうか友達に手出されたらオレが気まずいんだけど」

「アッハッハ、まー気にすんな」

 セザリオの父は普段からとにかく、とにかくチャラい。しかも若いので余計だ。

 セザリオは早くもこの父を超えることは不可能だと思っている。

 さすがに肩をすぼめていたが、思い出した。

「けどね、そいつお坊ちゃんでさ。家庭教師の先生がいるんだよ、女の」

 それを聞いて体ごとセザリオに向けてきた。興味津々だ。

「へぇ、何歳くらい?」

「20歳前後くらいかな」

「ほうほう。可愛い?」

「結構可愛い」

「マージーでぇ?」

「マジで。でも男いるらしいし、ルキア――転校生のガードが堅い」

 それを聞いて父はグレーの瞳を細めて笑う。

「いーじゃんいーじゃん。そうこなくっちゃねぇ。そっちの方が燃える」

「会ってもないのに落とす気なの」

「そりゃね。お前と俺は女の趣味似てるから。お前がいい女だと思ったら、俺から見てもいい女だ。お前転校生と仲良くなれよ。んでそのカテキョ家に呼べ。あー楽しみ。どうやって口説こうかな」

 セザリオは誓った。彼女や好きな子ができても、絶対に父には紹介しないと、ロマンスの神様に誓った。

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