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閑話 コードネーム:Ⅰ 前篇

 コードネーム「モノ



 俺の名前はコクトー・ラカハリス。24歳で軍人だ。と言っても、採用されたばっかりの新兵で、それまで引きこもりのもやしっ子だったから、毎日しごかれて死にそうだ。それでも、俺は絶対に諦めないって決めている。


 以前勤めていた会社を首になった。理由は、上司に反抗したから。反抗と言っても殴ったりしたわけじゃない。ただ、企画の方向性のことで意見が食い違った、それだけだ。

 それだけの事で首になって、辞める時にジジィ達から人格否定の罵声を浴びせかけられた。同僚たちは見て見ぬふり。自分に火の粉が降りかかるのは嫌だし、それはわかるけど、やっぱ辛かった。


 それでちょっと人間不信みたいになって、しばらく引き籠ってた。1年くらいして、ある人が議員になった。テレビでもよく見てたし、結構好きだったから、当選したの見た時は嬉しかった。

 それから色々あって、あの議事堂占拠事件が起きた。あの事件の時の兄貴の映像、今でも目に焼き付いて離れない。


 俺は心の底からシビれた。男に惚れるってこういう事なんだってわかった。絶対この人に大統領になってほしいって思った。

 だから俺はあちこちの掲示板に顔を出しては、兄貴のカッコいいところを吹き込みまくった。

 たまにはハッキングして兄貴を中傷してたやつのサイトを書き換えたり、バグらせたりしてやった。そのくらい俺には楽勝だ。実は昔サイバー関係でちょっとやらかしたことがあるけど、これはヒミツな。


 俺はネット上ではスレ立てて1を取ることが多かったから、イッチって呼ばれることが多くなった。なんとなく国内政治関連で毎回顔を出してたら、それで馴染まれた。

 その頃にはもう兄貴は大統領になってて、色んな政策を打ち出してどんどん国を変えていった。

 不思議と兄貴が大統領になってから、真面目に働く人が増えた。働き口も増えてきたし、どこの世帯も相対的に収入が伸び始めたんだ。これってすごいことだよな。

 そんで、ウチの母ちゃんとかも、何かっちゃぁ井戸端会議して、近所のセレブママの陰口言ったりしてたんだけど、母ちゃんだけじゃなく、街全体でそう言うのを目にすることが減った。

 なんか、母ちゃんも他の人も、家の事キッチリやってから、時間を決めて遊びに行くようになった。今までは時間の概念の通用しないお喋りが、延々と近所で繰り広げられていたのに、一体どうしたのか。これが母ちゃんだけじゃなく、近所中がそうなんだから、本当に不思議だ。これも兄貴効果だろうか。


 そんなある日、ネットで軍人募集の広告を見つけた。なんと兄貴は徴兵制度を廃止して、職業軍人を育成しようって考えているようだった。それってスゴイ考えだと思った。

 アーミーオタクの友達に聞いてみたら、付け焼刃の兵士よりも、職業軍人の方が10倍役に立つから、軍事的には職業軍人の方がいいんだって言ってた。

 どうやら大統領は本格的に軍事補強に乗り出したみたいだね、とも言ってた。たしかに近頃きな臭いし、防衛のためには軍事補強は大事だよな。

 それで、俺は議事堂占拠事件の時の、兄貴のカッコよさに憧れてたのもあって、応募して軍人になったってわけ。



 で、今日もしごかれながら訓練をしてたら、普段は厳しい顔ばっかりな隊長が、真っ青な顔してすっ飛んできた。


「ラカハリス二等兵!」

「はい!」


 敬礼をして直立不動。真っ直ぐに隊長を見て返事をする。本当は息が上がってクタクタだけど、それを態度に出したらお仕舞だ。頑張れ俺。


「客人が来ている! 至急面会せよ!」

「サー! イェッサー!」


 お客さん来てるよってだけで、なんだろうこの大仰さ。こういうところも慣れなんだろうけど、まだ慣れないよな。


 とりあえず俺は返事をして、大急ぎで応接室に向かった。お客さんって誰だろう。友達とか、母ちゃんとか色々考えながらドアをノックした。

 男の人の声で返事が返ってきて、軍曹がドアを開けて敬礼をした。俺も軍曹に敬礼を返して、応接室のソファに座るお客さんに、びしっと体を向けた。

 だけど俺は、直立不動のまま、動けなくなった。


「やぁ、コクトー・ラカハリス二等兵。それとも、イッチと呼んだ方がいいかな?」


 超美人な秘書を連れた、俺達の兄貴がそこにいた。

ギリシャ数字の読み方

1. モノ (mono)

2. ジ (di)

3. トリ (tri)

4. テトラ(tetra)

5. ペンタ(penta)

6. ヘキサ(hexa)

7. ヘプタ(hepta)

8. オクタ(octa)

9. ノナ (nona)

10. デカ (deca)

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