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6 姉弟で生きるには

 城での生活は、楽しいし裕福と言えるが大変だ。

 未だにルキアはマルクスがセルヴィを殺害したのだと若干根に持っているらしいが、当の本人がのほほんと暮らしているので、近頃は怒るだけ損な気がしている。

 が、そのフラストレーションの為にルキアはマルクスに対して微妙に態度は悪いし、学校に行きたいという申し出も当然ながら却下されてしまった為に一層鬱憤を溜めこんでいる御様子だ。

 家庭教師と言う選択もあるのだが、学校とは教育を受ける場所ではなく、教育を学ぶ場所だ。要するに上下左右の人間関係を学び、他者に対して弁舌指導交流する事を学習する場所なのであって、勉学の為に行く場所ではない。勉強というのは突き詰めて行けばすべて、独学に行きつくものだからだ。

 つまり、学校は子供の人間社会を求めていく場所、という事だ。


「学校行きたい」

「私も行かせてあげたいけどさぁ、学校行くってなったら保護者とか戸籍とかそう言うのがさぁ。お城からだと遠いしさぁ」

「やっぱ出ようよ城」

「無理だよぉ、私人間の血液なんて調達できないもん。それに私達移民だし、どこに行っても差別されちゃうし」


 二人揃ってルキアの部屋のソファにゴロゴロしながらぼやいていると、ルキアが起き上がった。


「わかった、出よう」

「はぁ?」


 セルヴィも起き上がる。ルキアが真剣な顔をしてセルヴィを見る。


「あのさ、血って毎日必要?」

「毎日はいらないかな」 

「飲むときはどのくらい必要?」

「私はこのくらいかな」


 両手でティーカップくらいの大きさを作る。

 それを見てルキアは一層真剣な表情をする。


「じゃぁさ、オレの血飲めばいいよ」

「えぇ!?」

「それなら二人で生きていけるよ。たまにちょっとずつなら大したことないし」

「えぇでもぉ、ダメだよ。ルキア貧血なっちゃう」


 ルキアは首を振る。


「いいよそのくらい。オレは人間の生活をしたいし、おねーちゃんはオレがいれば食料には困らない。おねーちゃんだって嫌がってるじゃん。泥棒の手伝いさせられるの」

「そう、だけど」


 セルヴィにとって一番気を揉んでいるのは犯罪行為だ。この城にある金、マルクスたちが裕福なのは、金を泥棒しているからだ。

 盗む先は都市銀行なんかの大手の銀行や、犯罪者や政治家の邸宅だ。

 血液も大概は泥棒している。たまには人間を襲うが、ほとんどは赤十字や病院から輸血用血液なんかを盗んでいる。

 多くの場合銀行などに設置されているセキュリティは、動く温度のある物を感知するタイプ。

 人狼には体温はなく人肌に比べると冷たい。正確には体温がない訳でも変温なわけでもなく一応恒温ではあるが、その温度が極端に低いため、セキュリティには引っかからない。

 そこで荷物持ちや見張りとして、しょっちゅうセルヴィが同行する。ちなみにルキアは人間なので、ルキアの足だと逃げても追いつかれてしまう。

 飛躍的に身体能力が発達したセルヴィなら、マルクスと共に一瞬で退避できるので、助手にするには適任なのだ。


 そう言った犯罪行為に加担することは喜ばしいことではないが、セルヴィは思う。


「昔は戸籍なんかなくたって仕事出来たし、学校だって紹介で通えたけど、今はそうはいかないでしょう? 仕方ないんじゃないかなって思うの。それに、人間を殺せって言われない分、まだマシかなって」

「そうだけどさ」

「もし城を出て後ろ盾がなくなったとしてさ、私がどうしてもお腹が空いて、ひもじくて仕方がなくなった時、きっと私はルキアを殺しちゃうんだよ? そんなの嫌だ」


 ルキアの手を握って切実に訴えかけた。それでもルキアは構わないと言って譲らない。


「おねーちゃんに人狼にされるなら別に殺されてもいいし、もしオレがおねーちゃんと同族になったら、オレが人間を狩るから」

「そんな事ダメだよ!」

「人間だって牛や豚を食べるだろ。食料にするために殺すことを、悪いことだと思ってる人間なんていないよ。家畜に対して感謝する奴はいるだろうけどね。オレらも同じように考えればいい。人間が餌になってくれるお陰で生きていけるってね」


 ルキアの言っていることは確かに、そうなのかもしれない。肉屋に並ぶ肉を見て、可哀想だなんて思ったことはない。家畜の牛や豚を見て、殺されることを憐れに感じる事はあっても、その事を悪だと感じたことなど一度もない。

 人狼や吸血鬼、化け物にとって人間は、家畜と同等の生物。捕食対象の順番が人間に回ってきた、ただそれだけのこと。

 それは頭ではわかっているが、理屈ではどうしようもなかった。


「でも、嫌なの。私ルキアにそんなことして欲しくないよ。そんな事になる位なら一生ここにいて、泥棒だって何だってする。一生他の人間と交流できなくたっていい。じゃないと私きっと、ルキアの前で笑えなくなるから」


 言いながら少しだけ目頭が熱くなった。縋るように手を握って言うと、ルキアが空いた手で後ろ頭を掻いた。


「……わかったよ。わかったから泣きそうな顔しないでくんない。オレが泣かせたみたいじゃん」

「うん、ごめんね、ありがとう」


 納得してくれたのに安心して、うっかりタガが外れてしまい、泣くなと言われたのに涙が出た。


「オレの話聞いてた? 泣くなつったんだけど?」

「聞いてる、ゴメン。あはは」

「ほら」


 ティッシュを差し出されて、それで顔を拭いた。


 ていうかさぁ、とセルヴィしかいないのをいいことに喫煙を始める13歳。


「オレはダメで、旦那様と奥様はいいわけ?」


 ふぅと煙を顔に吐き出された。煙たくてパタパタと顔の前で手を振り、煙を退散させる。


「だってあの二人は年季入ってるっていうか、格が違うって言うか」

「まぁ、だね。年齢不詳すぎ」


 何歳かは教えてくれないのだが、聞く限り1000年以上は生きている。多分それよりももっともっと長生きだろうと思う。


「おねーちゃんも、その内オレもそんな長生きすんのかなー」


 指から煙草を取り上げて勝手に消してやった。


「なにすんだよ」

「未成年喫煙は大きくなれないよ。ていうか私死んでるようなものだしね」

「生きてるじゃん」

「生きてないよ、ほら」


 ルキアの手を取って、左胸にあてた。


「私の心臓動いてないでしょ」

「……うん」


 ルキアは俯いて小さく答えると、鼓動を確かめられなかった手を引いて、ぎゅっと握りしめた。


「旦那様が言ってたよ。私達は生者でも死者でもなくて、“死に損ない”なんだって」


 ルキアはふぅんと噛みしめるように呟いていた。


「じゃぁオレもその内、死に損なうわ」

「うん。でも気が変わったら言ってね」

「変わらないよ」


 ルキアの返事は本気の目をしていたので、そう、とだけ返事をして部屋を出た。



 セルヴィが部屋から出た後、ルキアはソファにもんどりうって転げた。


 (うわー! ねーちゃんのオッパイ触っちゃった! 柔らかかった……じゃなくて! なにすんだあのアマ! さては姉弟だから何してもいいとか思ってるな!? んでオレがいつまでも子供だと思ってる! もう危険! 本当危険! あの人野放しにしてはおけないや! )


 思いがけずシスコン魂に更に火をつけられてしまって、ソファでモガモガと悶えるルキアだった。


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