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54 またもやドラクレスティ一族がやらかした 1


 選挙が終わってしばらくした頃。短期間ではあるがバカンスの時期になって、アルヴィン達は党の本拠地である、クレタ島の別荘で過ごしていた。党員たちもみんな集まって、別荘の庭でプールを取り囲んでパーティ中である。

 アルヴィンは酒を飲みながら、ご満悦だった。


「嬉しいなぁ。やっとセルヴィをファーストレディに出来たよ」

「でも1年で国のトップに立つなんて、本当にアルはすごいわ」

「いやいや、俺単独なら無理だからね。前回は国のトップになるのに20年かかったんだから。持つべき者は友達だよ」


 そう言ったアルヴィンに微笑まれた党員たちは、一様に「いやぁ~」と嬉しそうに後ろ頭を掻いている。

 その中でグリヴァスもホクホク顔で、酒を飲みながらショーを楽しそうに眺めている。


「いやぁ、しかし大統領。大統領のお仲間は素晴らしいな」


 グリヴァスの視線の先では、水魔法を使った曲芸や、獣人のダンス、人魚のシンクロナイズドスイミング、飛べる種族の飛行ショーなども行われている。グリヴァスを初めとした、人間の議員たちはそれに釘付けになっていた。


「そうだろ? 自慢の仲間たちだよ」

「いや素晴らしい。多芸多才で、しかも美しいときたもんだ。妖怪と言うのは恐ろしいものだと思っていたが、ふむ、悪くない」

「気に入ってくれて嬉しいよ」


 とっくに籠絡(ろうらく)されているので、人間たちの人外に対する受け入れは難しくなかった。中にはあの占拠事件の日に、アルヴィンやマルクス、イヴァンに助けられて、彼らに惚れ込んで党に参加した者もいた。

 なぜかあの日以来、アルヴィンは若い男性から「アニキー!」と呼ばれることが多くなって、不思議に思っていたが、セルヴィにネットの掲示板を見せられて納得したところだ。

 アルヴィンの人気は勿論若い男性のみならず、女性ファンも爆発的に増えた。また、中高年でも愛国者からは賞賛を送られたし、おば様方からの熱狂ぶりなど、鳥肌が立つレベルだ。

 そして、国の事を本気で心配していた学者や識者のおじ様達からも、概ね好意的に見てもらえているし、他国からの評判もいい。


 これからが本番だが、きっと前途は明るい。みんながそう思って、無理をしてでも全力でハジケきったパーティ。

 そこに、うるさいのが嫌いなので、部屋にいたはずのアナスタシアがやってきた。


「君も混ざる気になったの?」

「いいえ。メールが来たから、伝えに来たのですわ」

「へぇ? 誰から?」

「アンジェロ・ジェズアルド。ドラクレスティ一族の名代として、お話があるそうですわ」


 アルヴィンの中では、ドラクレスティ一族はちょっと厄介な一族である。アンジェロの事は気に入っているが、あんまり関わりたくはない。


「あー……悪いけどルキアよろしく」

「俺かよ」

「折角パーティ盛り上がってるのに、なんで邪魔されなきゃいけないのさ」

「俺は盛り下がっていいのかよ!」

「頼むよー」

「あーもーしょうがねぇな!」


 ルキアはブツクサ言いながら、アナスタシアと共に別荘の中に戻っていった。

 ルキアが覗く画面の向こう側で、金髪金目の顔の整った男が、こちらを見ていた。他の参加者を見ると、いつの間に抜け出したのかニコラスもいるし、久しぶりにアレハンドロの姿も見れて、少し嬉しくなった。

 秘密結社トワイライト、人外の集会に顔を出したアンジェロは、仕事用の営業スマイルを浮かべた。


「トワイライトの皆様、はじめまして。私はヴィンセント・ドラクレスティ伯爵の名代を務めます、アンジェロ・ジェズアルドと申します。今回は皆様にご助力いただきたく、お時間を割いていただきました」


 アンジェロの挨拶に一応ルキアは頷く。頷き返したのを見て、アンジェロは営業スマイルを絶やさぬまま、話を続けた。


「先に本題から話します。皆様にご助力いただきたい目的は一つ。トワイライトで結束し、魔術師と神の化け物を倒すこと。つまりは、戦争です」


 ひゅっと息を飲むルキアの息遣いは、外のパーティの歓声にかき消された。

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