53 新政権樹立
「あぁん、地味子アタシもうダメェん。海の向こうでママが手を振って……」
「何を言ってるんですか。ボードレール先生、党首も頑張ってますし、頑張ってください」
メソメソ泣き言を言うボードレールを励ましながら、党員全員でせっせとお仕事。政府の与党となってから、殺伐とした仕事が大量に配給されてきて、全員で取り組まないと、とてもではないが終わらなかった。
他の、今までの議員たちなら終わっただろうが、アルヴィン達は現状のほとんどを改革する気でいるので、実質仕事量はそれまでの数倍になっていた。
なので、とくに非戦闘系の種族などにとっては、過労死寸前のオーバーワークである。ボードレールだって母親の幻覚くらい見る。
とにもかくにも、まずは経済。EUを初めとした国家が、ご親切にも融資+外政干渉をして来ようとしたが、それを全力で拒否。ニコラスの資金のうち400兆をかけて新国庫銀行を設立し、その資金でなんとか財政を立て直したところだ。
とりあえずこれで、対外的には大丈夫なのでお気遣いなく、と辛うじて言えるだろう。それでもEU諸国は、ギリシャの悪いところはこういうところだから、この辺を治してちょっと反省しなさいと言ってきたりもした。
その他国からのご意見は、本当に本当にご尤もだったので、その辺りは比較的素直に言う事を聞くよう努めている。
アルヴィンが真っ先に取り組んだのは、行政がやっている事業の民営化だ。ギリシャは国民の10%が公務員であるほど、本当に公務員が多い。政権が交代する度に、一々要るのかわからない公務員を増やしていて、その為に人件費がバカにならなかった。
ギリシャの公務員は給料も非常にいいし、これだけ給料をもらうのであれば、もっと仕事をして欲しいものである。だが、基本的にギリシャ人はあまり仕事に対して真面目ではないので、ハッキリ言って大半の公務員が、国家の穀潰しである。
かといって全員解雇となると批判が起きるので、しばらくは第3セクターとして行政がバックアップしてやるから、民営化してただの社会人にしてやろうという腹積もりだ。
これには全国の公務員が怒り狂って抗議をしてきて、役所でストライキを起こされたりしたものだが、公務員のストに対して、今度は国民が公務員にブチギレして、公務員削減デモや暴動が起きたり。
この国は仕事はしないが、デモには熱心である。
また、アルヴィンはテレビでも汚職はいけない事、誠実に真面目に労働する事の大切さ、レイシズム批判を訴えかけ、国民全員でギリシャ国力の向上をしていこうと熱く語った。
「我々政治家は、国民の道しるべです。この国を豊かにするために、何をしたらいいのか、それを考えるのが我々の仕事です。ですが、国を本当に豊かにするためには、国民の皆さん、一人一人の生き方改革が必要です。国民の存在なしに、我々だけで国を運営する事は出来ません。国をもっとよくしたい、自分の生活を豊かにしたい、家族を幸せにしたい、そう言った願いが、国の発展の基礎となるのです」
アルヴィンが真摯に訴えかける姿は、多くの人の胸を打った。勿論、テレビで散々似たような事を刷りこんできた効果が表れたというのもある。
そして、セルヴィがお願いして、ディーヴァにも道徳教育楽曲を作曲してもらい、それをリリース。
やはりディーヴァ・エフェクトは絶大で、ディーヴァファンを中心に、勤勉で真面目で、誠実な国民に変わっていった。
国民が頑張ってくれているのだから、アルヴィン達も頑張らないわけにはいかない。
ニコラスの銀行のには、1か月遅れでやってきたダンテを頭取に置いた。国内経済に関しては、ダンテにガチンコ指導を頂けるので、これ以上悪くなることはないはずだ。
そして雇用改革を行った。リストラ対象を、法律で定めた。不正を行った者、会社に著しく損害を与えた者、無断欠勤の多い者、人事考課で評価の低かった者。
また、社内全員が人事考課を行われることになり、上司の評価は部下が行うというルールを作った。その為、全国の中間管理職は真っ青になって、途端に仕事を真面目にやりだしたというのだから、中々効果的だった。
そして、ギリシャ人の特徴として、いつも口手八丁で切り抜けようとする悪癖も、役に立たなくするルールを随所で作った。
例えば税金などの申告の際は、必ず領収書などの証拠の提出が必要になった。何かに登録する時は身分証必須。何かにつけて証拠の提出を求められる。
色んな手続きが面倒臭くなったと批判はあったが、実際トラブルは激減したので、国民たちも「これでよかったのかも」と思い始めているところだ。
そんなこんなで迎えた7月15日。改めて選挙である。自由への賛歌からの候補者数は、前回から人員激増で126名。ディーヴァ・エフェクトとニコラスの情報操作のお陰で、全員が当選。
ちなみにグリヴァスなど、元与党の傀儡議員も数十名自由への賛歌党員として当選している。
アルヴィンが議事堂の階段を下り、その最前列の中心に立ち止まる。右隣りには首相となったマルクス。左隣には官房長官となったセザリオ。
「新政権、与党自由への賛歌!」
「ディシアス大統領ばんざーい!」
「ばんざーい!」
国民が歓喜して歓迎する。まばゆく焚かれるフラッシュ。
歓声と光を一身に浴びたアルヴィン達。
ついにこの日、化物たちは自国の国土を手に入れた。




