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4 2年前 3

さぁ上がって上がってと何故か自宅に恭しく招かれて帰宅した。

 人が帰った頃にルキアが尋ねてきて、自分が死ぬに至った顛末を話すと、驚いていた。

「えぇ? なにそれ? 血吸うなんて吸血鬼みたい」

「でしょー? 私適当に言ったけど、吸血鬼になっちゃったかもぉ……」

「えぇー!」

「それでね、私やっぱりこの家を出ようと思うの」

 そう言うとルキアは目も口も目一杯開けて、思い切り叫んだ。

「ダメだよそんなの! 僕どーすりゃいいんだよ!」

「ちょ、うるさいよ」

 なんとか宥めて説明をした。家に帰る道中に考えていた。

 どう考えても医者が死亡と診断した人間が生き返るなんて、あり得ない。中世の迷信深かった時代ならともかく、現代の医療の発達した時代ではそんなバカげた誤診はあり得ないのだ。

 近所の人たちはその場にいたから知っている。セルヴィが生き返ったなんてセンセーショナルな話題はすぐに広まるだろう。そうしてマスコミなんかがやってきたり、変な団体に追い回されるようなことになったら、どの道普通には生きていけないのだ。

 かといってルキアを置いていく気はない。仮に誰かに預けたとして自分がいなくなってしまったら、余計に噂話を盛り上げる。そしてルキアは白い目で見られながら、影で妙な噂を囁かれて生きて行かなければならないのだ。それは余りにも可哀想だ。

「だからね、もう少ししたら二人でどっか行こうか。誰も、私達を知らない土地に」

 諭すように言うと、渋々と言った感じだったがルキアは頷いた。


「ならば私の城へ来るといい」

 突然声がした。ギョッとしてルキアと声のした方を振り返ると、リビングのドアの前にマルクスが立っている。店のドアが開くベルの音は聞こえなかったし、リビングのドアが開かれる音もしなかったというのに、突然現れた。

 セルヴィは驚いて硬直したが、ルキアは食って掛かった。

「オイ! お前おねーちゃんになんてことすんだ! 責任取れ!」

「だから、城に来いと言っているだろう」

 マルクスは溜息を吐いて、服を掴んだルキアの手をやんわりと剥がし、元の位置に座るように促す。やっと我に返ったセルヴィがマルクスにも座るように促すと、ソファに腰かけたマルクスが簡単に説明をしてくれた。

 どうやらマルクスは吸血鬼と呼ばれるのは嫌いらしく、そもそも微妙に違う人狼らしい。だから昼間も起きていられるとのこと。勿論食料は人間。人間が食べる飲食物も食べることは可能だが、栄養にはならない。

 マルクスには自分の血族の生死なんかが分かるらしく、血族が増えてしまったと気付いてあちこち近隣を探し回り、セルヴィの噂を聞いてやって来たようだ。

 本来ならセルヴィを人狼にする気などさらさらなかった。世話をするのが大変だからだ。しかし誤算だったようだ。

「ちゃんと、考えていたつもりだったんだがな……お前顔は美人だし、早まった。まさかその歳で処女とは」

 どうやら処女・童貞は同族に変化するらしい。それもあってルキアは見逃してもらえた。

「……それは、すいません。色々忙しくて、彼氏とか作って遊んでるヒマなかったんですぅ」

「それもそうだな……はぁ、すまない」

「まぁ、ルキアを独りぼっちにしなくて済んだから、いいですけどぉ」

「ぜんっぜん良くないし。結局おねーちゃん人狼だっけ? になっちゃって、ここも出て行かなきゃいけないんじゃん。マジムカつくこの化け物め」

 生意気なルキアの言い分に聊か機嫌を悪くしたようだったが、マルクスは溜息で誤魔化した。

「だから、私の城に来いと言っている。食料も生活も保障してやる」

「本当ですか?」

「あぁ、当然このくらいの責任はとる」

 生活保障を宣言してくれたおかげで少し光明が見えて、笑顔でルキアに振り向いた。

「良かったねールキア」

 しかしルキアは般若のごとく顔を歪めて声を荒げた。

「だから良くねーつってんだろ! このアンポンタン! ウスラバカ!」

「なによ、さっきはおねーちゃんと一緒に寝るとか言ったのに」

「うるさいバカやっぱ死ね」

 ヒドイ弟だと思う。口が悪く育ったのは何故だろう。しかしこれはこれで可愛く思うので頭を撫でると、手をはたかれた。



 それからこまごましたことを済ませて、マルクスの城にやって来たと言う訳だ。マルクスは人前で名前で呼ばれるのが嫌いらしく、旦那様と呼べと言った。

「綽名のようなものだ。戸籍もないし」

「戸籍ないって、この国の人じゃないんですか?」

 城について城を見上げた。 山と海に囲まれた半島の、岬の森の崖の上。そこにある石灰質の白い古城、クゥイントス城。

「いや、この国で生まれ育った。昔からこの城は私のもので、他の誰の手にもわたらない」

「昔って?」

「ずっと、ずっと昔だ。だが、これでも一応昔は正真正銘貴族だったんだぞ」

 その瞳は遥か彼方を見つめて時空を流離う旅人のようだと思った。

 セルヴィを人狼にしてしまったマルクス。

 赤い髪、赤い目。それは燃え上がる彼岸花のような。

 (此岸にも彼岸にも渡れずに、岬の先の崖の上で右往左往する。それがきっと、私達なんだわ)

 何とはなしに、人狼と言う化物をそう定義した。

登場人物紹介


マルクス・クウィンタス


 紀元前から生きている人狼、ルー・ガルー種。この土地(仮想ギリシャ)のこの城にずーーーーっと住んでいる。半端なく辺鄙な場所にあるので、今の所人間に見つかることは滅多にない。

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