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39 第11回国会 政治資金規正法改定案


 第11回国会。議題「政治資金規正法改訂」


 発案者であるセザリオが壇上へ上る。そして、改訂法案を一通り論述する。セザリオが下がった後、各所からの代表者が質問や意見を述べる。

「社会平和党ゾタキス君」

 議長の声で立ち上がったゾタキスは壇上に登り、セザリオを見ながら質問する。

「政党が直接運営する事業からの寄付等のみ認められる。この条文の「寄付等」という表記を改め、「寄付」とすることの意義を尋ねたい」

 ゾタキスが下がった後、議長に呼ばれたセザリオが壇上へ上り答弁する。

「では逆にお尋ねしたい。「等」とは一体何を示すのか、具体的にお聞かせください」

 ピクリとゾタキスの眉が上がる。等という言葉が何を示すのか、誰だってわかる。こんなグレーな表記をするからには、善事もあれば悪事もある。

「例えば、接待だとか差し入れや贈り物などだ」

 わかってはいるが、ちょっと可笑しくなる議員たち。とはいえ、勿論それらも等に入る。単純に労いのつもりで差し入れや贈り物をしてくれる人もいるので、そう言った善意まで禁止にするには、一体どういう反論をするのか。セザリオに視線が集まる。

 セザリオは壇上に上がり、半笑いで答弁する。

「なるほど、よくわかりました。ではやはり等という表記は削除すべきかと考えます。もし菓子折りの中敷きの下に、思いがけず大金が詰まっていたら、こちらが犯罪者になってしまいます。それに、食中毒になるかもしれませんし、贈り物に爆弾が仕掛けられているかもしれませんし、接待された先で美しい女性とスキャンダルになるかもしれません」

 議員たちが苦笑する。ハッキリ言って言いがかりだが、スラスラと息つく間もなく反論できる物だ。勿論賄賂の欲しい議員は言いがかりだと反論を唱えるだろうが、セザリオが言ったことが絶対起きない保証はあるのかと返されると何も言えない。この件に関してはセザリオの勝ちだ、と誰もが思った。


「確かに「等」という表記は削除した方が良さそうだ。あぁそう言えば君は入国管理局の局長と懇意にしているようだが、君も「等」を使ったのではないかね? 自由への賛歌は帰化人が多く見えるが」

 ゾタキスのこの発言で、流れが一気に変わった。ゾタキスは部下に指示して、セザリオやアルヴィンの身辺を洗わせていたのだ。さすがに反汚職主義なだけあって犯罪行為は見つからなかったが、その人間関係に目を付けたのだ。それが、セザリオの友人である、入国管理局局長との関係だった。

 ギリシャは人種差別が激しい。帰化して国籍を取得していれば参政権も投票権も得られるが、国民の意識として外国人の参入を許さない感情はある。

 確かにセザリオは入国管理局の局長と懇意にしている。だがそれはセザリオが法務省に入った時の一番最初の上司が、後に異動して入国管理局の局長になったというだけだ。ゾタキスの方が余程言いがかりだった。

 セザリオが不正に入国させた証拠はない。だがその可能性も否定できない。ただただ疑惑だけがある。彼はこの問題に対して、どう対処するのか。全員が疑惑の眼差しでセザリオをねめつける。


「我が党の党員たちは、いずれも正規な手続きを経て帰化したギリシャ人です。それは調べて頂ければ、すぐにわかることです。私が彼らと初めて顔を合わせたのは、初登庁したこの議事堂です。それ以前で彼らとの接点はありませんから、彼らを優遇する事は不可能ですし、そんな権力があったとしても優遇などしません。局長とは確かに懇意にさせていただいております。私の後援会の会員としても助力いただいております。それは局長が私の元上司で、色々と目をかけて頂いていたからです。局長とは金銭的な関係は一切ありません。彼は友人であり、私達の間にあるのは信頼だからです。彼の信頼に対して金銭をさしはさむというのは、彼の信頼を裏切る行為ですから、私はそれをしません。ですが、貴方は他人の友人関係を一々癒着と呼ぶのですね。あなたの友人と言う関係の概念には、必ず金銭が絡むのでしょう。信頼や絆で結ばれた友人の一人もいないなどと気の毒な人だ、貴方には心から同情します。なんなら私が友人になって差し上げますよ、勿論金銭抜きでね」

 またしても息つく間もなく、大袈裟なジェスチャーを伴ってスラスラと反論するセザリオ。幾人かの議員がクスクスと笑い、ゾタキスは顔を真っ赤にして怒りに震える。


 答弁を聞いてアルヴィンは唸りながらルキアにコソコソと話しかける。

「アイツ、性格悪くなったなー」

「ある意味アレも成長だろ? アンタならなんて返す?」

「断っても受け入れても恥をかくのは目に見えてるからなぁ。全然関係ない話題に逃げる」

「解決になってねぇ……ていうかそれ既に敗北じゃねーか」

「そ。アレには勝てない。でも帰化問題は別問題だな。どちらかが証拠を出さない限り、いつまでも追求できる」

「それってただの時間の無駄だな」

「そうなんだよねぇ」

 そう言いながらアルヴィンは傍に置いていたケースをゴソゴソと漁り始める。たいていの議員は必要な書類しか持ってこないのだが、何故かアルヴィンは毎回大きなケースを持って会議に臨むのだ。

 ルキアが不思議に思って覗き込んでいると「あったあった」とアルヴィンはフォルダファイルを一冊取り出した。そして挙手して議長の元へ行き、そのフォルダファイルを渡す。

 ざわざわとやかましかった議場を静かにさせた後、議長が告げた。

「自由への賛歌党員の帰化については、ここに資料がある。それぞれの党員が各地域で正式に申請し、受理されていることが証拠として提出された。党員は正式に帰化し、現在はギリシャ国民である。よって、自由への賛歌党員への帰化問題については、今後問題提起しないことを進言する」

 ゾタキスを初め、幾人かの議員は悔しそうにその資料を睨みつけていたが、ルキアがアルヴィンにコソコソと耳打ちした。

「用意してたのかよ?」

「セルヴィが心配性でさぁ、念の為持って行けって、いつも資料を大量に持たされるんだよね」

「あぁ、だからいつもそのケース持ってんのか。さすが俺の姉貴」

「11回目にしてようやくだけどね」

「なんにしても役に立って良かっただろ」

 念の為と予防線を張っているセルヴィは、他にも色んな資料を大量にアルヴィンに持たせている。恐らく今後も活躍の機会はあるだろうが、その機会は多分資料の量に比例しない。アルヴィンは大荷物なのでちょっと面倒臭い。


 その後国会は通常運転に戻り、政治資金規正法改定案は、いくつかが通っていくつかが棄却され、いつも通りに閉会された。

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