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25 建前と本音


作戦1 アルヴィンにチクる。

利点 上手くすれば解放。

欠点 最悪の場合親子揃って脅迫してくる。

(アカンアカン! それはアカン!)


作戦2 マルクスにチクる。

利点 アッサリ解決する可能性が高い。

欠点 口封じに殺害という案が出そうで怖い。

(いくらなんでもそれはナイわ)


作戦3 ルキアにチクる。

利点 なし。

欠点 姉弟揃って脅迫される。二人の友情に亀裂が入る。最悪祝福される。

(ダメだ。これが一番ダメだ)


作戦4 第三者(アレハンドロ等)に相談する。

利点 頭がいいので策を授けてくれる可能性大。

欠点 イカレているので「殺せば?」で済まされる可能性大。

(アレハンドロ様なら、邪魔になったら殺すだろうな……)


作戦5 諦める。

利点 円満解決。

欠点 多少の我慢は必要。

(どう考えても一番リスクが低い……。ていうか最早作戦じゃない)


 翌日の夜。明日もまたデートだ。明日は普通に学校が休みらしい。部屋のソファでゴロゴロと悶えながら悶々と悩むものの、これだ、という案が浮かばない。仮に浮かんだとしてもデメリットのダメージに圧倒されてしまう。

 別にセザリオが嫌いなわけではないが、そもそも「俺の女」というのがイメージが湧かない。デートしたいだけなのか、彼女にしたいのか、それとも。

(なに考えてんの本当。ていうか私の事好きで言ってんのかな?)

 記憶を探っても、アルヴィンと女の好みは一緒と言われた覚えはあれど、好きだと言われた覚えはない。結局よくわからない。

 そもそもセザリオの前で怪我を見られなければこんな事にもならなかった。今思うとあの時、口説くのをやめようとしていた。それを引き留めたせいだ。

 が、今更後悔しても仕方がない。覆水は盆に返らない。が、敗北宣言を出すのも悔やまれる。

(や、ちょっと待って)

 ソファからガバッと起きた。

(そもそもバラすって言って、信じる人なんかいるのかな。それこそ人前で刺される位しないと、誰も信じないでセザリオが変人扱いされるだけなんじゃ……?)

 そう考えると光明が見えてきた。怪我をさせられそうになっても、心の準備さえあれば回避は可能だ。何と言っても身体能力自体は人間の比ではない。


作戦6 強気に出る。

利点 脅迫が白紙に戻る。

欠点 セザリオとは決別。

(ルキアには後ろ暗いけど、もうこれで行くっきゃない!)

 そう思ってガッツポーズをした時だった。


 コンコン、とドアをノックされた。返事をすると入って来たのはルキアで、なんだか浮かれた様子でソファに腰かけた。どうしたのか尋ねると、ルキアが嬉しそうに言った。

「おねーちゃんセザリオと付き合いだしたんでしょ?」

 耳を疑った。

「んぎゃー! なんで知ってんの!?」

「セザリオに聞いたよー。決死の想いで告白したら了承してくれて、おねーちゃんが人狼だって事も素直に話してくれたから、それが反って嬉しかったって。勿論誰にも言わないって言ってたし、出来る限り化け物の為に発生する不都合は回避するって言ってた。今更セザリオに隠すこともないと思って、明日城に呼んだ」

 思わずセルヴィは頭を抱えた。

(なんじゃそりゃ! 初耳なんだけど! ていうかしまった! 先手を打たれた!)

 恋愛でも政治でも、本命を攻略するなら周りを突き崩すことも忘れてはならない。セザリオの将来性の高さに愕然とした。

 ついに別世界にダイヴしてしまったセルヴィには気付かない御様子で、ルキアは嬉しそうだ。

「セザリオ父はちょっとアレだけど、セザリオっていい奴だし基本真面目だし。アイツならオレも文句ない。人狼って知っても友達だって言ってくれるしさぁ、態度変わんないしさぁ、本当セザリオって寛大だよなー」

(騙されてる。弟よ、アンタは騙されてる)

 案の定喜ばれて、萎えた脳でそう呟くしかできなかった。



 別問題として、城への訪問は許可できないと思う。住んでいるのが自分達だけならまだいいが、そもそもこの城はマルクスとポリシアものなのだから、二人に許可を貰うべきだ。

 それもそうだと納得したルキアと、マルクスにセザリオの訪問の許可を戴きに話すと、やっぱり断固拒否。

「ルキアはあちらには何度もお邪魔しているし、わかるのだが……」

 これまで2000年以上息を殺して生きてきたのに、こんなことで人間側と無闇に交流が発生するのは、正直少し恐ろしいところだ。

「いえ、すみません。俺が軽率でした。セザリオには断っておきます」

 というわけで、来訪は免れた。ルキアが電話でその旨を伝えると、ルキアとアナスタシアも一緒にデートしようと誘われたのだが、それも断って結局はセルヴィ一人でセザリオとデートすることになった。

 アナスタシアは寒くなると、人の姿を保っているのが大変らしい。体が少し半透明になるのだ。だからクソ寒いロシアではほとんど人に姿を見られることはなかった。これから時期的に寒くなるので、そう言った理由もあってアナスタシアは暖かい季節以外は人前に出ない。

「アナスタシア様は妖精だしね」

「もうなんか妖精って響きがイイよね」

 そう言うルキアはメロメロの御様子だ。ラブラブな弟が羨ましい。

 反してこちらは脅迫協定だ。しかし、強気に出る作戦を思いついた以上は、諦めるのはまだ早い。

 

 デートは、アルヴィンに見つかるのはセルヴィも不本意なので、少し遠出して映画を見に行くことになった。

 映画は今を時めく俳優が主演のサスペンスアクションだった。ジャンルとしてはセルヴィの好物だ。突然謎の組織に追い回されることになった青年が、道中で出会った女性と共にその追手をかいくぐり謎の組織とその陰謀を暴く、と言ったシナリオで、シナリオ自体はありがちだが、描写や台詞なんかがすごく斬新で、とても楽しめた。

 映画を見てカフェに入って、二人で映画の話をする。

「主人公がさ、敵地に乗り込んで行って情報を掴んで、いつの間にか形勢逆転してたところとかスカーッとしたよね!」

「ガンアクションなのに死者が出ないってすごいコンセプトだよなぁ」

「確かに。でも最後ヒロイン死んじゃったのはなんか泣けた」

「泣けた!」

 なんだかんだで盛り上がって、はた、と気付く。

(しまったぁぁぁ! うっかりペースに乗せられてる! これじゃ普通のデートじゃんか!)

 やっとのことで気づいて、映画の話が落ち着くのを見計らって、小声で話を切り出した。


「ねぇセザリオ」

「ん、なに?」

 飲んでいたカップを下ろして微笑まれる。微笑まれるのは本当に反則だ、と思いつつも奮い立たせる。

「そもそもさ、セザリオの女になるって何?」

「そりゃ彼女って事だよ」

「それが、わかんないんだけど、どうして彼女? ウチお金あるし、お金とかの方がいいんじゃないの?」

「お金なんかいらないよ。セルヴィの方がいい」

 正直そこが一番わからない。思い切って聞いた。

「なんで?」

「ずっと好きだったから」

 そう言って手を伸ばして、テーブルの上に置いていたセルヴィの手を握った。

「最初は普通に可愛いなって思ってたけど、明るくて優しいし、たまにドジなところもあるけどなんかほっとけないし。ルキアがシスコンなのもわかるなぁとか思って。彼女作ってもなんかセルヴィと比べたりして、最初はわかんなかったけど、多分父ちゃんと同じ。俺も最初からセルヴィ好きだったんだってわかって。本当はこんなんじゃなくて普通に好きだって言って、セルヴィにも好きになってもらえたらよかったかな。実は今少し後悔してる」

 そう言って、少し申し訳なさそうに笑った。それを見るとなんだか居たたまれない気分になる。

 そう言う風に言われると、すごく言い出しにくい。本当にセザリオはズルい。結局言いだせなくなってしまう。

「脅迫は単なるきっかけで、本当はそんなことどうでもいい。ただセルヴィと一緒にいたくて、ちょっと調子乗った。父ちゃんがフラれたと思って、なんかいてもたってもいられなくなって。本当は誰にも言う気なんて、ないよ」

 更にとどめを刺された。自分に好意を寄せてくれる人がいる事は、素直に嬉しい。脅迫云々を差し引いて、セザリオ本人を見れば、好きか嫌いかと言えば好き、というのはウソにはならない。

 だけど、形はなんであれアルヴィンには知られたくない。彼が今どう思っているのかわからないし、とっくに興味なんかなくしてしまったかもしれないけど、それでも。

「まぁ、魔が差した? ていうか。父ちゃんには悪いかなぁとか思ってたけど、今はそうは思わないし」

 今はそう思わない、それがとても、気になった。

「あの、アルは……?」

 尋ねると、セザリオは握っていた手を引いた。

「父ちゃん? 彼女出来たよ」

「あ、そうなんだ。それは良かったね」

「うん、だからセルヴィがちゃんと俺の彼女になる気になってくれたら、父ちゃんにも話すから」

「あ、うん」

 ちゃんと、笑えていただろうか。普通に返事を返せていただろうか。

 もうセルヴィの事は吹っ切れて、彼女が出来てしまった。

(まだ好きでいてほしかったなぁ、なんて。バカみたいだな。自分でフッといて、傲慢)

 よく勘違いすることだが、フラれた後縋り付いてきたからと言って、相手がいつまでも好きだと思っていたら大間違いだ。


 だけど事ここにいたって思う。似た顔立ちのセザリオが傍にいると、余計に。手を伸ばせば届く、その距離にいた時は自分で拒絶したのに、そうで無くなってから欲しくなる。

 セザリオと一緒にいて、想うのはアルヴィン。こういうのを、すれ違いと言うのだろう。つくづく運がないと、溜息を吐いた。



 今日はアルヴィンの店に来た。

 近頃セザリオとデートすることが多くて、アルヴィンの店に来るのもかなり久しぶりだ。中々緊張する。

 ドアを開けると、いつもの様に笑顔でお出迎えしてくれた。笑顔がいつもと変わらない、それに喜んでいいのか、どうなのか少し複雑な気分になりつつもセルヴィの指定席についた。

 店には他にもお客さんは結構いたりする。商店街の人たちもたまに来るらしいが、意外に女性客が多く、どうもアルヴィン目当てのようだ。

 セルヴィの席にはいつもガーベラの植木鉢が置いてあって、セルヴィが来るとそれが避けられる、カウンターの端っこ。いつもここを確保してくれているように思って、嬉しい。

 だけど、セザリオから彼女が出来たと聞かされた後だ。勘違いだと言い聞かせて頭を振った。


「忙しい?」

 店内を見渡した。テーブルの数は少ないが、それが全部埋まっている。過半数が女性だ。

「ちょっとね」

「バイトとか雇わないの?」

「人件費勿体ないじゃん。平気、夕方からセザリオも手伝いに来るから」

「そっか」

 ここで働きたい、という女性がたまにいるらしい。絶対アルヴィンの傍にいたくてそう言う事を言うのだ、とセルヴィは邪推している。

 だから誰も雇わないと言ったアルヴィンの言葉に少しホッとして、ならば自分は何なのだ、とガッカリする。

「最近さ」

 俯いているとアルヴィンが語ったので顔を上げた。

「セザリオがなんかムカつくんだよね」

「ムカつくって?」

 尋ねると腕組みをして頭を傾けている。

「いやなんかわかんないんだけどね、たまに勝ち誇ったような顔すんだよね」

「……なんだろうね」

「なんだって聞いても、べっつにーとか言って。意味わかんないんだけど」

「……若い頃って、色々あるしね」

「まぁねぇ」

 居たたまれない。

 だけど、ふと考えた。セザリオが勝ち誇った顔をする。アルヴィンには彼女がいるのなら、そんな態度をとる必要はないはず。父親を超えてやった、というアピールをしているだけなのか、それとも。


思い切って尋ねた。

「ねぇ、アル」

「ん?」

 カップを拭いていた手を止めて顔を向けてくれる。こういう些細な優しさが好きだ。

「アルは、今彼女いるの?」

 その質問をした瞬間、店内の会話がピタリと止まって、視線が注がれたのが分かった。

(あたしもそれ聞きたかった!)

(なにあの人勇者!?)

 そんな雰囲気を背中にひしひしと感じる。それに気づいてか気付かずか、アルヴィンは首を傾げた。

「え? いないけど。なんで?」

「え? そうなの? 彼女出来たってセザリオくんが言ったから、そうなんだって思ったんだけど」

 そう言うとアルヴィンはハッとした顔をした。

「そーか! アイツそれで勝ち誇った顔してたのか! んなウソ言って、アイツ本当ムカつくな!」

 その言葉を聞いて背後は俄かに歓喜で沸き立って、セルヴィはひどく安心した。対照的にアルヴィンは腹を立てながら落ち込んだ様子だ。

「なんでアイツそんなウソ言うんだ……何の嫌がらせだよ」

「セザリオくんお母さん想いみたいだから、その仕返しなんじゃない?」

「……あぁ、なるほど」

 アルヴィンは少し納得がいった顔をして、セルヴィは自分で言った言葉にハッとした。


 好意じゃないのかもしれない。その方がウソなのかもしれない。もしかして、母親の復讐の為に自分に近づいたのでは、そんな考えが頭をよぎる。

 政治家になるなんて言うなら、そのくらい計略性があってもおかしくない。自分がアルヴィンの元恋人、セザリオの母親に加担してやる理由があるだろうか。セザリオの復讐に利用される理由があるだろうか。そんな理由はない。

 勿論今は想像の域は出ない。本当に好意があるのかもしれないし、ただ利用されているだけなのかもしれない。

 好意があるにしても、利用するにしても、セザリオはセルヴィ達が人狼であることを知っている。それを知って尚近づいてくるという事は、セザリオの事だから他に裏がありそうな気がする。

 セザリオが何を考えているのか、確認する必要がある。セルヴィはそう考えた。

 もしセザリオの考えが一族の命運を左右するような物ならば、マルクスもポリシアもルキアもアナスタシアも迷惑を被る。アルヴィンにはセザリオの抑止力になってほしい。その為には、アルヴィンの意志を確認して、協力を仰ぐ事も必要だ。


 だけど、その為にはアルヴィンに事実を話さなければならない。アルヴィンがそうしてくれたように、自分がぶつかっていく事は怖い。化け物だと打ち明けなければならない時は、必ずやってくる。それなら最初から言うべきだ。それを実行に移すことはすごく勇気がいる。

 少し元気を取り戻した様子のアルヴィンが、セルヴィに耳打ちした。

「セザリオが言ったのはウソだから。忘れないで、俺はまだセルヴィが好きだから」

 友達でも好きだと思うのは自由のはずだ、となぜか得意げにする。その様子で、セルヴィも腹を括った。自分も勇気を出さないと。

「ねぇ、今度お家お邪魔していい?」

「うん、いいよ」

「セザリオくんがいない日、いつ?」

「え? えーと、金曜ならアイツ学校終ったあとバイト行くから、夜中まで帰ってこないよ」

「じゃぁ、その日に」

「わかった。その日は早く店閉めて待ってるから」

「うん」


 決戦は、金曜日。

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