18 それは心配の裏返し
帰宅したセルヴィは、キッチンに入って夕食の支度をしていた。少し遅くなってしまったので、大急ぎで作っていると、ルキアも手伝いに来た。
「セザリオ父どう思った?」
尋ねられて、少し思い出して考えてみる。
「うーん、優しそうな人で、若かった。ビックリした」
「あ、それは僕もビックリした。27歳だって」
「27!? 若っ! ていうか本当の親子だよね? 歳近すぎじゃない?」
セザリオは12歳だ。単純計算だと父が15歳の時の子供だ。明らかに若気の至りの産物だ。
「ちゃんと実の親子らしいよ」
「お母さんは?」
「病気で死んだんだって」
「そっかぁ。じゃぁルキアとお揃いだね」
「お揃い……」
今は後見人としてマルクスとポーラの夫妻が親代わりになってくれているが、最近まで親無しだったのだ。セルヴィにも覚えがある。そう言う家庭環境の人間は、どこか惹かれあうところがある。だからセザリオはルキアに話しかけたのかもしれない、と推測した。
「お母さんいなくて、セザリオくん淋しくないかな?」
「最近はそうでもないけど、小さい頃はセザリオ父が女遊びばっかしてて淋しかったってさ」
「そうなの? そんな人には見えなかったけどなぁ」
「見えるだろ。あのセザリオの父だよ?」
言われてみれば初対面のセザリオはチャラかった。どうやら父譲りのようだ。
「まぁ今淋しくないならいいか。でも意外。誠実そうな人だと思ったけど、人って見かけによらないのね」
「それで女は騙されるんじゃないの」
「あ、なるほど。ていうかルキアは本当賢いね。本当に13歳?」
「おねーちゃんがバカなだけだよ」
折角褒めても貶される。思いやりの欠片もない弟だと思う。
気付くとパルミジャーノ・レジャーノはかなり小さくなっていたので、それをタッパーに詰めて、今度はアジを捌いていく。
「セザリオ父、すっげぇモテるんだって」
「へぇ、そうなんだぁ」
「おねーちゃんも引っかからないように気をつけてよ」
「そんなわけないじゃん。ルキアの友達の身内なのにさぁ、そんなに誰彼構わず手出したりしないでしょ、あっちも」
「……最近は少し落ち着いたらしいけど、昔は父兄から総スカンされてたらしいよ。クラスの半数以上の嫁を寝取ってたから」
「マジで!?」
「マジで」
驚いたはずみに、アジが掌で踊った。
セザリオも中学校進学と同時に引っ越してきたらしい。その話は以前聞いていた。
(まさかそのせいで居づらくなって引っ越したとかじゃないよねぇ)
少し引いた。が、そのせいだとしたらこちらでは大人しくしているはずだ。
「ていうかそれは、セザリオくんが気の毒ね」
「確かにね。まぁセザリオは慣れたって言ってるけど」
ルキアはニンニクを剥き終わったらしく、今度はナイフを持って芽を取り始めた。
「おねーちゃんただでさえ恋愛経験ないんだからさ、あっちにその気がなくても雰囲気にヤられたりしそうで怖いんだよねぇ」
真のモテ男とは、顔以上に会話や雰囲気でモテるものだ。それくらいはわかるが、ルキアの物言いは心外だ。
「そりゃ普通に出会ったらわかんないかもしれないけど、ルキアの友達のお父さんはさすがにナイよ。ルキアにもセザリオくんにも変な心配かけたくないし、折角できたお友達とギクシャクしてほしくないもん」
それが一番のネックだったはずだ、と顔を覗き込むと、小さく溜息を吐いている。
「まぁ、しっかりしてくれるならいいけどね」
「おねーちゃんしっかり者だけど?」
16歳からルキアと二人で暮らして、子供だったルキアの面倒を見ながら働いているのだ。しっかり者には定評がある。
しかしルキアは「いや全然」と素っ気なく返事をして、信用を置かれていないらしい。
つくづく、ヒドイ弟だと思う。