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17 キケンな父兄


 恋人が出来ました。

 そんな報告をしてきたルキアが恥ずかしそうで、それでいて大人びた表情をしているのを見て、セルヴィはもだえ苦しんでポリシアにしがみつく。

「奥様、私達の可愛いルキアが、大人になってしまいました!」

「……ルキアもシスコンだけれど、あなたも大概よね」

 そんな事を言われても、ショックなものはショックなのだ。ルキアがアナスタシアと恋人同士になるのは祝福するし、アナスタシアが嫌いなわけでもない。だが、それとは別次元で、小さい頃から面倒を見てきた可愛い弟が、とうとう自分の手から離れると思うと寂しいのだ。

 セルヴィの様子を見て、ポリシアは残念なものを見るような眼をして溜息を吐く。

「そう言うあなただって、ディシアスさんだったかしら? いい感じみたいじゃない」

「うぐ」

 ポリシアのツッコミに言葉が詰まったが、そこにルキアが口を挟んできた。

「はぁ!? ちょっと待って! まさかと思うけどセザリオのオヤジと!? あの男はやめろって言ってるだろ!」

「でもぉ~」

「でもじゃないよ! オレがセザリオと気まずくなるし、それ抜きにしても、あのオヤジは絶対ダメ!」

 ルキアに反対される理由も、ルキアやセザリオから聞いているし、セルヴィも一応わかってはいる。


 セザリオの父親と知り合ったのは、ルキアとセザリオが仲良くなってすぐの事だった。

  ルキアがまだ中学生だった頃、いつも送迎をしていたのはセルヴィだった。その日もそろそろルキアを迎えに行く時間だ。この日は昼過ぎに一回学校まで迎えに行ったのだが、ルキアがセザリオの家で友達数人と勉強するというので、20時という約束でセザリオの家に迎えに行くことになった。

 セザリオ作画の地図を頼りにやって来たのは、こぢんまりとした一軒家。ウォルナットで塗装された外壁の中から賑やかな声が聞こえる。友達同士で盛り上がっているのだろうと考えつつ、車を停めてもらった。

 車から降りて芝生の前庭を通ってインターホンを押す。

 プィーというなんだか頼りない電子音が鳴った後にドアを開けたのは、銀髪にグレーの瞳をした若い男性だった。

 セザリオの兄だろうかと思いながら、使用人らしく愛想よく挨拶をする。

「初めまして、クウィンタス家の者です。ルキア坊ちゃんが世話になっております。坊ちゃんのお迎えに上がりました」

  男性はドアに手をかけたままセルヴィを無表情で見下ろしていたが、挨拶をするとはっとした顔をしてドアを開け放ち、柔和に微笑んでくれた。さすがに美少年のセザリオの身内らしく、爽やかスマイルだ。

「いーえ、こちらこそウチの息子が世話になってるようで」

 ひくっと息を呑んだ。

「えっ、息子? セザリオくん、息子さんでいらっしゃいますか?」

「あんま親子に見られませんけどねぇ」

 どう見てもこの男性の容姿は20代にしか見えない。

 ―――――ものすごい若作り顔か、相当若い時にできちゃった子なのねぇセザリオくん。

 そう考えて、先ほどのリアクションは少し失礼だったと考えて一応謝罪をした。セザリオ父は相変わらず微笑んでそれを快く許してくれた。


 挨拶も済んだことだし、そろそろルキアを呼んでくれてもいいところだ。しかし男性はそこに立ったまま動かない。早く呼んで来いと言えるはずもなく、仕方なくセルヴィもその場に立ち尽くして困っていると、セザリオ父は満足そうな顔をしてドアの横に体を持たれた。

「なるほどなるほど。あなたが家庭教師の先生ですか?」

 何に納得されたのかは知らないが、自分の自己紹介をきちんとしていなかったことにようやく気が付いた。

「あっ、失礼しました。ルキア坊ちゃんの家庭教師でアナスタシア・エヴァンジェリスティと申します。坊ちゃんの送迎などは私が仰せつかっておりますので、お宅に坊ちゃんがお邪魔した際はお迎えに上がらせていただきますので、今後もよろしくお願いいたします」

 改めて自己紹介をすると、ふいにセザリオ父が覗き込んできた。少し驚いて硬直していると、顔の真正面でじっと見つめられる。真正面でそう凝視されると視線をそらすわけにもいかないし、緊張してしまった。

「アナスタシアさん、オッドアイ?」

 尋ねられてようやく緊張の糸が解けた。

「あ、よく気が付かれましたね? 同系色だから普段気付かれることは余りないのですが」

 オッドアイは遺伝によるもの。母から譲り受けた。右目は榛色、左目は鳶色。

「えぇ、綺麗な瞳ですね。とても、魅力的で」

「ありがとうございます」

 母を思い出して嬉しくなるから、オッドアイのことに気付いてもらい、褒めてもらえるのは好きだ。

 そこで一旦興味が引いたらしいセザリオ父は「少々お待ちを」と家の中に引っ込んで、少しするとルキアとセザリオを連れてやって来た。

「あ、坊ちゃん、セザリオくんこんばんは」

「アナさんこんばんはー」

「もー遅いよ」

「すみません」

 自分のせいじゃないと内心で反論しつつ、ルキアに友達が出来て親しくしてもらっていることを嬉しく感じたので、笑って謝罪した。

 そのままセザリオ父とセザリオに礼を言って、ルキアを連れて車に戻った。



「父ちゃん、どう?」

 車に向かっていくのを見送りながら、セザリオが父に聞いた。父は最後までそれを見送らず、ふいと回れ右をして家の中に引っ込んでしまう。

 お気に召さなかったのかと思いつつセザリオが扉を閉めてそれを追いかけて父の横に並ぶと、父はご機嫌だった。

「いいね、あの子。ありゃ男いるってのは嘘だね」

「あ、そうなんだ。じゃぁなんで引き留めなかったんだよ?」

 晩御飯でも誘えばよかったのに、とセザリオはつまらなそうにする。

「そりゃ保護者同士だし初対面だし、急にそんな事言ったら警戒しちゃうだろ?」

「おぉ、そっか」

「街でナンパする子とは違うからねぇ。まずは警戒心を解いて、俺が安全で爽やかな美青年だと思ってもらわないと。デートとかはそっから」

「珍しっ。父ちゃんいつも瞬殺するのに」

「そう言うの出来る相手じゃないって事」

 こういう話をしているとき、たまにセザリオは思う。

 (父ちゃん、なんでこんな人なんだろ)

 親子らしからぬ会話をしていることを客観的に見て疑問に思う事はある。だけど父は気付いたらこういう人だった。昔からとっかえひっかえ女遊びをして、3股4股は当たり前。父の歴代の恋人は多すぎて大半は忘れてしまった。恐らく本人も覚えていない。

 だから、ルキアと友達でいる以上は心配だ。

「あのさぁ、アナさんルキアの家の人だし、あんまり変な付き合い方しないでよ?」

 セルヴィが泣く様な事になって、折角友達になれたルキアとの友情を壊したくはない。

 父はやっぱり爽やかに笑う。

「大丈夫だって。俺が泣きたくないからちゃんとする」

「……は? 父ちゃんが泣くって何?」

 顔を覗き込むと、父は足を止めて真剣な顔で言った。

「アナスタシア、可愛い」

「え? う、うん」

「俺一目惚れしちゃった」

 想定外の言葉に目を剥いた。

「えぇっ!? 父ちゃんが!?」

「そう父ちゃんが。すごくない?」

「すごいっていうかあり得ないんだけど」

「だぁろ? オッドアイの目が綺麗で、目もキラキラしてて、つい見惚れちゃったよ。なんていうの? 清楚で純朴な感じ? 顔も好みのタイプだし、声も可愛いし。ひっさびさに本気出す!」

 父の宣言を聞いてセザリオは半目になる。

「今まで本気じゃなかったの?」

「本気で付き合った女なんて、今まで3人位しかいないよー」

 やはり目を剥かされる。

「あんだけいたのに!?」

「そう。やぁ、多分ね。今までの彼女はアナスタシアと出会うための予行練習だったんだね」

 歴代の恋人たちのとの経験は、アナスタシアをオトす為に活用していく、ありがとう。と感謝を述べる父。


 リビングに入ったところで、父は急に車のキーを取った。

「どしたの?」

「出かける!」

「どこに?」

「女! 全員縁切ってくるから、その間に晩飯作っといて! じゃ!」

「え、あ、うん」

 性急な父に驚きを孕みつつ呆れて溜息を吐いたものの、なんだか父が楽しそうなので、セザリオはしばらく様子を見守ることにした。

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