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14 夏の海と宝石

またしてもBL注意!

苦手な人は以下略

ある時、セルヴィに言われた。

 キトカはルキアにすぐちょっかいをだしたがる。きっとルキアを好きで、仕方がないのだと。

 ルキアも“死後の恋”の話を聞いた時はそんな気がしたものだったが、セルヴィにそう言われた時はそんな事じゃないと否定した。

(そうだったら名前、教えてくれたっていいはずだよ)

 キトカと言うのはつまりは呼称であって、名前ではない。聞いても教えてくれないし、恐らくマルクスたちは知っているのだろうが、本人以外の人物に聞くことは失礼な気もしたし、出来る事なら本人から聞きたい。

 少しは話を聞いたが、ルキアは実のところ、キトカの事を何も知らない。聞いても

「聞いてどうするの?」

「君に関係ある?」

 だの質問で返されて、まともに答えられないでいると

「じゃぁ必要ないね」

 と、ぴしゃりとシャットダウンされてしまうのだ。もし好意があるのなら、キトカに“死後の恋”という望みがある以上は教えてくれるはずだ。


 その死後の恋にも、ルキアでは役不足だと思う。キトカと違って自分は高貴な身の上ではないし、将来人狼になる予定はある物の、今は人間の少年だ。

 何よりあの指輪や宝石たちが持つ役目は、血統を絶やさないこと。最初に言っていた使命とはその事なのだろう。

 (男同士で子供出来るわけないんだから。いくらなんでもそりゃ無理だ)

 そう言った使命があるのなら、仮にキトカにBLのケがあったとしても、それでは一生使命を果たすことはできない。そんな不毛で無駄な事をする人物にも思えない。

 (キトカはオレのことどう思ってるんだろう。友達、かな)

 結局ルキアには、キトカの意図が読めないでいた。



 3年生が終わり、4年生に進級する直前、18歳の夏。キトカが海に行きたいと言い出した。

「やっぱり夏は海だよ」

 と言って珍しくもはしゃいだ。セルヴィがお弁当を作ってくれて、小さめの日傘とビニールシートを持って、バイクに二人乗りして海に行った。

 海は人が多くて賑わっている。潮風の香りが鼻について、容赦なく太陽がその強烈な日差しを照射していた。白い砂がそれを反射して、地面からも光と熱が強烈に放たれている、夏の海。

 はしゃいでいたし、てっきり水遊びしたいのだと思っていたが、キトカは水着を持っていないと言った。

「買いに行く?」

「いらない。なくても海は楽しいよ」

 シートの傍にサンダルを脱いで、裸足になって波打ち際に歩いていく。ショートパンツから延びるキトカの脚は白くほっそりしていて、太陽光を反射する金髪が輝いている。

 波の隙間を縫って拾い上げる貝殻や珊瑚。それを海水で洗って、白く小さな手にそっと乗せ、ルキアに「綺麗」と見せてくれる。貝を差し出した顔は笑顔で、太陽よりも眩しく見えた。そう言った仕草がいちいち優雅で、高貴さと言うのはこうしてにじみ出るモノなのだと思った。


 波打ち際で、膝まで海に浸かって遊ぶ。と言っても何をするわけでもなく、キトカはただ海の温度と圧力を感じている、と言った感じだった。時折立ち止まって、海の遠くの方を眺めたりして、水を掬ってルキアにかけてきて、ルキアが仕返しに水をかけると猛烈な勢いで怒られた。

 かと思えばカニを見つけたと上機嫌になって、ルキアがヤドカリを見つけると悔しそうにした。が、砂を掘ってシジミらしきものを発見すると、すごく偉そうだ。キトカの生き物ランキングがイマイチよくわからなくて苦笑した。

 桜貝、サザエ、珊瑚、綺麗な貝殻を拾ってビニールシートの上に置き乾燥させた。珊瑚を手に取ったキトカはそれを指先でつまんでルキアに差し出した。

「珊瑚くらいなら君にあげてもいいよ」

 と言うので、有難く受け取っておくことにした。

「信じるって言ったのに、オレは宝石を貰うには値しないんだ?」

「しないよ、君みたいな子供じゃね」

 子供は何でも信じてしまうから、という事なのか。それともただバカにされただけなのか。わからないがとにかく、拒否された事だけは間違いなかったので、残念に思った。

 別に宝石が欲しいわけじゃなかった。だけどキトカと共有するものが欲しいと思った。だから珊瑚を貰ったのは嬉しかったけど、宝石を貰えないという事は、ずっと傍にいる資格はないという事だ。そのことがとても、胸を締め付けた。

(なにこれ。なんでオレこんな嫌な気分になってるんだ)

 しばらく考えたが分からないし、キトカはとっくに別の話題に変わっている。考えるのはやめた。


 海岸の端っこに敷かれたビニールシート、日傘の下。セルヴィが作ってくれたお弁当を二人で開けた。パニーニやフォカッチャのサンドは、それだけで既に主役級だし、ルキアの好きなオカズが詰まっている。飲み物で持たされた紅茶はキトカ用の高級茶葉で、

「随分淹れ方が上手になったね」

 とキトカが褒めてくれたので、ルキアも嬉しくなった。

「おねーちゃん料理上手だろ?」

「そうだね。庶民の料理も、慣れれば美味しいよ」

 一応褒めてくれたので苦笑した。


 キトカが一口パニーニを頬張って、それを満足そうに咀嚼して飲み下した後、ルキアを見た。

「前から思ってたけど、君かなりのシスコンだね」

「そうだね」

「開き直ってる」

「まぁね」

 完全に開き直っている。セルヴィが大好きだ。優しいし面倒見が良くて、時々ドジなところもあるけど、そこに自分がツッコみを入れて掛け合いをするのは楽しい。

「君さ、セルヴィがお姉ちゃんじゃなければよかったって、思ってる?」

 そう思ったこともあった。セルヴィに喜んでほしくて勉強も頑張っているし、セルヴィの夢見る自分でありたいと思う。

 自分がセルヴィにとって一番近い存在だと思ってる。

「前は、ね。でも今は」

「姉離れする気になったんだ」

「まぁそんなところかな。いい加減オレももう、大人になるし」

 4年生になって高校を卒業したら大学に行く。大学を卒業したら社会人になる。これから一人前の大人になるのに、いつまでもセルヴィに面倒を見てもらおうとは思わない。立派な大人になって安心させたい。

 これでセルヴィのやるべきことは終わったのだと、自分の幸せを見つけてくれたっていいと思い始めた。

 やっぱりシスコンだと笑われたが、羨ましいと笑った。



 “死後の恋”の話の中で出てきた。

「キトカ、姉弟いたの?」

「いたよ。姉が3人と弟が一人。みんな仲良しで、直ぐ上の姉とはすごく仲良くて、弟も可愛がった」

 それなのに家族を置いて一人で逃げだして、その家族が殺害されたという知らせを聞いたことは、酷く辛かったんじゃないかと思った。ルキアも祖母が死んだ時は悲しくて泣いたし、セルヴィに死なれた時はこの世の終わりだと思ったものだ。人が死ぬという事は、とても悲しい事だ。

「キトカは人間じゃないから、周りの人は安心だよ」

 死なないから、誰も悲しんだりはしない。

「君もその内人間じゃなくなるなら、安心だね」

 ルキアも死ななくなるなら、周りも安心するだろう。そう考えて、少し気になって、緊張気味に聞いた。

「キトカはオレが死なないこと、安心してくれる?」

 問うと、キトカははにかんだ笑顔で

「さぁ、どうだろうね」

 とはぐらかしてしまったので、質問をした事が酷く恥ずかしくなって、ただでさえ暑いというのに、顔や耳に血が集まって余計に暑くなってきた。

 そんなルキアを見てキトカは可笑しそうに笑って、

「勿論安心するよ」

 と言ってくれたものだから、こっちが安心したやら情けないやら恥ずかしいやらで、なんだか泣きたい気分になった。


 夕方になると海に日が沈みゆく。徐々に空がオレンジ色になって、海も砂浜も、隣に座って夕日を眺めるキトカの白い肌も、オレンジ色に染まった。

 キトカの青い瞳は海の色に似ていて、綺麗だと思う。金色の髪は襟足からくるりと巻いて、キトカは綺麗だし伸ばしたら女の子と見分けがつかないんじゃないかと思う。

 髪に触れると、金色の髪は細くて柔らかい。まるで子供の髪のようだ。

「なに?」

「髪。クルッてしてふわふわだ」

「母上の遺伝だよ」

 特に嫌がる素振りも見せなかったので、安心して髪を撫でた。 

 巻いた髪をくるりと指に巻きつけて見たり、梳いたりする。太陽光で暑くなった髪に、潮の香りが移っている。

 髪を撫でていたら、キトカがこちらに振り向いた。その顔を見て突然、ルキアの中で何か化学反応が起こって、心臓が跳ねた。


 綺麗なサファイアのような瞳、小さい顔は真珠の様に滑らかな肌、ぷっくりとした小さなコーラルピンクの唇。

 心臓が暴れまわって、ある感覚がまるで軍馬の様にルキアの体の中を駆け抜けて、それが全身に到達した時には、既に行動していた。

 髪を撫でていた手で頭を引き寄せて、珊瑚色の唇にくちづけをした。


 それはほんのひと時の事だった。唇を離して、自分のしたことに驚いた。

(何してんだオレ! もしかしてオレBLの人!? ウソだ! )

 激しく自己嫌悪と後悔に駆られながらも、ここはまず謝罪をすべきだと思ってキトカに振り向いた。

「ご、ごめ」

「いいよ別に。初めてじゃないだろ」

「そだけど、あの、オレ、どうかして」

「本当のルキアはどんな子?」

 急に話題がすり替わるのもいつもの事なのだが、動揺して話についていくことが出来なかった。

「え、なに」

「君は今何を考えてるの?」

「何って、なんかよく、わかんな」

「落ち着きなよ。僕は全然気にしてないから。あんな子供みたいなキスじゃね」


 ショックだった。自分はこれほど動揺しているのに、キトカは平然としている。ルキアにとってとんでもないことが、キトカにとっては大したことじゃない。子供みたいなキスじゃ、キトカの心を動かすことはできない―――――。

(待って、オレはキトカにどうしてほしくて、キトカとどうなりたいんだ)


 考えて、頭を抱えた。キトカに振り回されるのは今に始まったことじゃない。キトカの行動や言動に振り回されて、悩まされて、いつもかき乱されるのはルキアだけ。

(オレ、好きになっちゃったんだ……キトカ男なのに……)

 まさかのBL展開に一層落ち込んだ。

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