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11 誘拐犯に奪われた

BL注意!

苦手な人は即ブラバだ!

 高校に通う時に免許を取った。バイクも買ってそれで通学した。セルヴィの送迎からは解放されて、放課後好きな時に好きなところへ行ける。

 セルヴィはそれをとても残念そうにしていたけど、年ごろの男の子が友達と遊べないのは可哀想だと察してくれたようで、特に何も言わなかった。


 ルキアが高校に行く直前、少し変化があった。その変化の為に、高校デヴュー時からルキアは調子が悪い上に機嫌も悪い。

 城に客がやって来た。どうも化け物コミュニティと言う物があるようだ。

 “トワイライト”。だれが言い出したのか、化け物のコミュニティはそう呼ばれているらしく。

「中途半端な死に損い、昼でもないし夜でもない。ピッタリだね」

 とセルヴィは暢気に笑っていた。

 最古参の化け物に類し、比較的安全な居住を構えているマルクスの元には、滞在を希望する者が度々やってくるそうだ。

 その度々というのも複数が一度に押し寄せる事もあれば、100年間誰も来ないと言ったこともあって、基本化け物は放浪して暮らすものなので、マルクスにもよくわからないらしい。

 しかも今回は長期滞在。以前都会に住んでいたので、長閑なこの地域に飽きない限りは何十年も居座るつもりらしい。要するに客と言うより、同居人がやって来たわけだ。

 その同居人の存在がルキアを腹立たしくさせる。


 ルキアの不満を著すとこうだ。

・音楽好きなためにピアノの音がうるさい。

・出来ないと言っているのに強制的にダンスに誘われる。

・セルヴィの料理にケチをつける。

・セルヴィとルキアを小市民と見下す。

・生前の地位を振りかざす。

・ルキアを子ども扱いしてバカにする。

・ルキアが人間だというだけでバカにする。

 主な理由はこう言ったものだが、細かいところを列挙していけばきりがない。

 要するに、この同居人はとにかく、ルキアのお気に召さなかった。


 同居人は3人でやって来た。一卵性双生児と思しき少年と少女。それと、恐ろしく美しい少年。ボスはこの美少年のようだった。理由はわからないが自分には使命があるから、これ以上配下の者は作らないのだと言った。

 彼らは美少年を“最後の血統”と呼んだ。美少年自身はキトカ(誘拐犯)と呼ばれた方が好ましいなどと言うものだから、セザリオが警察官になったら逮捕してもらおうと思った。


 キトカがやって来た初期の頃は、高校に入学したばかりだったのでまだよかった。腹立たしいキャラクターも我慢できたが、我慢ならないのはテスト期間中に喧しいこと。なぜかルキアの部屋の近くにされてしまった為に、余計に苛まれる。

 この日もまた聞こえる、ベートーヴェンのテンペスト。

(あーもう! 明日からテストだってのに! )

 勉強の邪魔であることは説明不要だ。内心で不満を爆発させながら、一つ隣に設えられた音楽室に踏み込んだ。


 優雅にピアノを弾くキトカは金髪が揺れて、青い瞳は譜面を見ることなく瞼を閉じている。音に酔っているかのようにして、ルキアが入ってきたことに気付くと、邪魔をされたと感じたようで酷く不機嫌になった。

「邪魔をしないでくれる」

 少し高い、凛とした声で文句を言われる。

「それはこっちのセリフ。オレ勉強してるから、うるさいと集中できないんだけど」

 素直に文句を垂れると、キトカはルキアに体を向けて座り、ピアノに肘をついて笑う。

「君は大戦中の軍人か? 僕からピアノを奪うなんて、無粋な軍人と同レベルだ」

 腹が立つ。

「いやオレ今まで文句言ったことないだろ。今勉強してるから邪魔だって言ってんだよ。宝石も音楽もキトカの趣味にケチつける気はないけど、少しは気を遣えって言ってんの」

 腹立たしい余り声が震えそうになるのを抑えて、何とか落ち着かせながら文句を言う。キトカはルキアの言葉を聞きながら退屈そうに溜息を吐いた。

「君は学校とか勉強するの、楽しい?」

 話の流れに沿わない質問に、更に苛立ちが募る。ピアノの件に関してわかったのかわかっていないのか。それを問い詰めたいところだが、この我儘美少年は自分の好きな事しか会話をしたがらない。それは今までで散々わかっていた。

「多分君がピアノを弾くのと同じだよ」

「昔ある男がね、自分の“死後の恋”を終わらせてほしいと言ったんだよ」

(全然会話がかみ合ってねぇ! 宇宙人か! )

 こういうところもルキアをイラつかせる。それを知ってか知らずか、キトカはルキアに手招きする。

「そんなところに立っていないで、こちらにおいでよ」

 そうして手招きをされるものだから渋々近くまで行くと、ぐいと腕を引かれて隣に座らされた。


 近くで見るといよいよ美しい。キトカの髪は短く切ってあるけども、伸ばしたら見事な巻き髪になりそうだ、と襟足を見た。

「ルキア」

 呼ばれてキトカを見た。小柄で、ルキアよりも視線は下にある。

「もし君が“死後の恋人”になったら彼の様に、自分の話を信じてもらえるまで、狂ってしまったようになる?」

 何のことかさっぱりわからないので、その旨を素直に伝えると、結局不機嫌になる。

「君は子供だから、まだわからないか」

 そしていつも通りバカにされる。実に腹立たしい。

 相手が自分よりうんと年上なのは分かる。だけど見た目が同年代にしか見えないから、大人しく引き下がってやる気になれない。それもまた子供だと思う。

「ガキ扱いしないでくれる」

「子供じゃないか」

「そんなことな……」

 勢いよく反論しようとしていたのを遮られた。ぐいっとネクタイを引っ張られて、当然相手は化け物で叶う筈もない。引かれるままに前に傾いたところで、キトカの顔が目の前にあって、キスされたのだと気付いた。

「―――――っ!」

 声にならない声を上げて、反射的に立ち上がって距離を取った。それを見てキトカは笑う。

「初心だね。やっぱり子供」

「な、な、な」

 更にバカにされて怒り心頭になって、口元をごしごしとこすると、キトカは無表情になって手の甲を向けて払った。

「ピアノ、我慢してやるから。勉強しないの?」

「―――――っ、するよ!」

 なんとなく今の精神状態で勝てそうになくて、その場から脱兎のごとく逃げ出した。背中越しに笑い声が聞こえた。


(あり得ない……オレのファーストキス……。 )

 男にファーストキスを奪われて、あまりのショックに勉強に手が付かず、ルキアの学期末テストの成績は散々だった。

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