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どえむじゃしかたない

 しばらく微妙な空気が流れたが、動画を止めて10分もしないうちに、ごりはけろっと元に戻った。

「あーいかん、わりいな。あれかな、更年期障害とかかな」

 おどけたように額を叩く。

「もしくは多い日!」

 心配して損したような気分になりながら

「なにが多いんだよ……」

 と俺は力なく突っ込んだ。



「ところで俺は衣装を考えてきた!」


 一度床に投げ出した鞄を拾い上げるごり。いつもの鞄と、もうひとつ大きなトートバッグを持っていた。


「えっとね、まずはこれな」

 鞄からいろいろ出しながら、半兵衛に魔女帽子を渡す。

「オーソドックスに魔法使いってわかる記号だ」

 ごそごそ。

「あとキャラ付けが必要かと思って、バナナね」

「え、はい」

 手渡された半兵衛は少し困って、スポンジのバナナをふにふにと触る。

「そのバナナを魔法の杖的に仕立てるつもり」

「はあ……」

「あとこれな」

 もふっ。


 茶色と薄茶色のしましまの物体。

 レッサーパンダのふさふさしっぽである。


「いやー、真っ先に思いついたのは猫耳とかなんだけど、俺ちゃんそろそろ猫耳とかは、みんなやりすぎてて食傷気味なのよね。

 時代はレッサーパンダだと判断した」


 制服のスカートの上から、半兵衛の腰にベルトを巻き、後ろにキーホルダー形式でかちゃりとしっぽをつける。

 しっぽはふさふさの厚みの分、跳ねるように持ち上がってほわんほわんと揺れた。

「ええやろ、どや!」


 うむ。たしかに。なかなか悪くない。


 と一瞬納得してしまったが、魔法使いとしてそれは必要なのかは甚だ疑問ではある。


「あ、順番間違えたな、待てよ……ズボンが先だろ……」

 ごりはしゃがみ込んで、床に置いたバッグを広げたり手を突っ込んだりしながら散らかしはじめた。

「えーっと……どこだ? その前にこっちか……あれ? ああ、これか、これな」

 裁縫道具やガムテープ、なんかいろいろと出てくる。


「文はとりあえずこれな」

 ジッパーバッグに入った布を文に投げる。

 受け取って文は中身を広げる。はぎれのようだ。

「え、これを私がどうするって?」

 不審げに訊ねる文。


「どうって、巻いて胸を隠すはぎれだよ……あれ、半兵衛の服どうなってんだこれ」

 ごりは文に背を向けたまま黒い布を何枚か鞄から出している。


 文がはぎれをぜんぶ広げてみたが、長さは2メートルくらいだろうか、だが幅が指2本分ほどしかない。ほぼ紐だ。


「こんなので隠れるわけないでしょ!?」

「えっ、おまえそんな乳輪でかいの?」

「どんなサイズを想定してるのよ!?」

「えーでもそんなでかいのちょっとショックだわー。

 あ、色とかは俺も黒いから気にしないんだけどさー」

「聞いてねえよ」

「だがものの本によると、乳輪のサイズはSが小さくてMがでかいらしいぜ! 占いの本に書いてあった!」



【ちなみに参考文献:sweet占いBOOK別冊 手相SPECIAL BOOK

   「にゅうりん占い」でわかる恋愛傾向 のページ】



「そっかー、文はどえむかーどえむじゃしかたないなー」

 わざとらしく大きくため息をついてみせるごり。

 なにがしかたないのかはよくわからないが。

 でもまあしかたないよな、どえむじゃ。それはしかたない。


「あっ、てか真子の衣装がまじこれしか決まってねえんだ」

 と、真子の方にもジッパーバッグを投げる。


 ゴムが1本だけ入っている。

 シンプルな紺の髪止め用のゴムだ。


「ああ、ポニーテールの」

「もっと派手な方がよくねえの?」


「ハッハ〜ン、貴様はポニーテールの美学がわかっておらぬようだな……

 束ねられた揺れる髪、それ自体が究極の装飾品なのにそれ以上が必要か、いやない」


「あ、はい」

 そのこだわりはもう俺の理解の範疇の外だ。


「だが俺ちゃん女子の服に詳しくないから、私服の方がさっぱり見当がつかん。家にいるのに制服はさすがにねえよな」

「だな……俺もわからねえな。真子の私物持ってきてもらうか?」

「え、私ぶっちゃけまともな私服ほとんど持ってないですよ、家帰ったらパジャマに着替えちゃうし……」

「むしろパジャマか?」

「やめてくださいよはずかしいですよ」

「困ったな、まず体操着ならいちばん似合うと思うんだが」

「それはいろいろと違う」

「違いますね」


「お約束的にメイド服とか?」

「メイドも最近みんな着すぎじゃね?食傷気味、食傷気味だよおお」


 ごりは真子の服の案をホワイトボードに書き出していくが、どれもピンときてないようだ。ごりの「ピン」がどのポイントなのかもよくわからないが。


「あ、で半兵衛の服がさ、とりあえず魔法使いっぽく、黒い布そのままのマントは持ってきたんだけど、あと仮の黒いズボンは俺のだけど」

 渡す。


 半兵衛、と真子の隣に書いていく。

「かなり重たい布ですねこれ」

「これかぶったら暑そうだな」

「そうなんだよなあ、こっから暑い時期にかけて撮影やるつもりだけど……これかぶって体動かすとけっこう地獄の暑さになりそうなんだけど、ぺらぺらの布だと安っぽくてどうにもなあ」

「たしかに涼しそうな布使うと魔法使いっぽくないですね」

「そこで俺がいま思いついてるのこれなんだけど」


神父


と書いた。


「おお!」

 真子が目を輝かせる。

「イケメン神父、萌えです!」

「だろ?だろ?」

「見たい!半兵衛さんの神父コス!魔法使いそうだしいいと思います!」

「つくり方とかわかんねえから案だけなんだけど」

「ぐぐれば載ってるんじゃないですかね、私調べますよ」

「おう、じゃあ神父服は真子神にいったん預ける」

「はい!」



「ねえ!私のは!」

と文が焦った声をあげるので、やっとごりがそちらを振り返った。


 紐を持っている文を見て、

「あれっ」

 ごりはやっと気付いたようだった。

「ごめんそれじゃねえわ、胸はこっち」

 別のジッパーバッグを出してきて、はぎれを広げた。

 今度はジグザグに切られた布で、幅は狭いところでも10センチ以上はあるだろう。

「なんだ……はやく言ってよ!めっちゃ不安になったわ!!」

「ああすまん。それは隠れないわな……いや……待てよ……」

 眉根を寄せて、ごりはまじまじと、紐を両手で持って広げてぴっと目の前に張り、その紐の幅と文の胸を見比べた。


「まじまじと見比べてサイズを想像しないでくれる!?」


 ごりは腕組みして空を仰ぎ、目を閉じた。なにか脳裏に焼き付けているのだろう。


「非常によいインスピレーションをもらった。

 今夜のおかずは文のでか乳輪になるであろう。

 細い紐で縛られてはみだしている素晴らしい乳シチュである」


 文は呆れたように

「はいはい。報告しないでいいからそれ」

 華麗に流した。


 その報告は露骨過ぎて俺でもちょっと引くぜ!


 だが、ごりは文に好かれようとしていないし、文が自分を好きだとも思っていない。

 その点において、文が自分を好きだということに甘えた要求はしない。ただ自分の欲求がそこにあるだけだ。

 だから文はごりのことを「いいやつだ」と言ったんだろう。


「あーーー、女子の胸揉みてえーーー

 揉ませてくれる優しい女子はいない?」

「「いませーん」」

「あたしあたし!」

 いませーん、の中、どきんが空気を読まずに挙手する。

「ごめんおまえはいい」

「ええ〜」

「胸っていうか筋肉じゃん、おまえの、胸部のふくらみは、それ」

「女子の!胸よ!」

「だったらまだ半兵衛の揉むわー!」

「私の胸……ですか?」

「駄目!駄目!絶対駄目ぺんちゃん断って!!」

「あー半兵衛の胸揉みてー……いや、でも実際触ると現実を突きつけられてショックかも知らん……それとも逆に男の娘にはまるんだろうか俺……見た目完璧美少女な分、まじ予測不能だぜ俺のデリケートな童貞心……でも俺、半兵衛ならいける気がする……」

「いける、とは……?」

「なやみどころがよくわからん」

「私も半兵衛さんならいける気がします!いろいろと!」

「え、仁多さんの同意の意味まじでわからないんだけど」

「駄目!駄目だって言ってんでしょごりら!離れてぺんちゃん!」


 いや、どうかな。



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