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まじょっこぺろりんちょ

「なあ、真子……俺さっきから思ってたんだけど、この声どっかで聞いたことあるなあって……」

「……実は私も思ってました。この声、まさか……」

 明らかに《極北紅玉》が動揺したのがわかった。

「や、やめて黙りなさいあんたたち! それ以上幼女の話をしたら、き、切り刻むわよ!」

 両手に取り出した六双の刃の切っ先が震えている。

「この声は……ムフフン❤幼女村パソコン版ではストーリー上の重要なキャラとして登場したにもかかわらず、プレステ版移植の際には忽然と、跡形もなく消えていたあの幻のキャラ……」

「唯一移植されなかったキャラとして当時話題になった……まじょっこぺろりんちょの声だ……! 声優のクレジットはたしか、赤井いも子」

「ぎゃー! ぎゃー! なんで芸名まで覚えてんのよあんたたち! ぎゃー!!!」

 《極北紅玉》が頭を抱えて叫び出した。さきほどまでの威厳と威圧感は消えてしまっている。

「本物なのか……まじょっこぺろりんちょ、主人公のおねえさん的幼女として立ちはだかる強敵。その移植されなかった理由は……ボイスがえろすぎるから」

「敵キャラは5連鎖までしかボイスがなく、その後の連鎖時は同じボイスが連続して使用されます。まじょっこぺろりんちょでは『ああ~ん』というボイスが連続で再生されますが……敵キャラは運がよくてもせいぜい10連鎖くらいまでしかしません、ちょっといやらしくなるネタ、として終わるはずでした……」

「だがプログラマの悪ふざけで、シークレットコマンドによってプレイヤーとして使用できることが発覚した。当時のオタクの実力はすさまじく、30連鎖まで組めるやつがざらにいた……まじょっこぺろりんちょは、延々と喘ぎ続けることとなってしまった……」

「まじょっこぺろりんちょの過度にセクシーな演技があだとなりました。正直、やり過ぎておばさんぽかった、というのが大半のファンの印象でした。『誰だ還暦の声優起用したスタッフ、名乗り出ろ』と言われ……」

「某匿名掲示板には『ぺろりんちょ30連鎖が完全に熟女AVの件wwww』というようなスレが乱立した……」

「いやあああああ! もうやめてえええええええ!!」

「むしろこれは熟女AVからサンプリングしてきたんじゃね?と囁かれさえもしました……その赤井いも子が……あなたなのですか……?」


「ああそうよ! もうやってらんないわ! 当時お金が欲しかったから必死でアルバイトしてたの! あの時あたしまだ中学生だったのよ!? それが一生懸命セクシー幼女を演じてたの! それがネットで全国で熟女AV呼ばわりされる苦しみがわかる!? ついたあだ名が『いもばばあ』よ! 無名ゲームメーカーだと思って甘く見てたわ……こんなに流行るなんて思ってなかった。しかもあんたたちみたいなオタクが! ずっとずっと覚えている! あたしは永遠に辱められ続けるのよ……あたしほんとは進学したかったの。だから学費が欲しかった。親バレしたくなかったからいも子は絶対に顔出ししなかった、でもそれが、声の主は人妻熟女だから顔を出せないんだっていう噂に拍車をかけた……結局家族にはばれて、一族の恥さらしとまで言われたわ。進学も、大学どころか高校にさえ行かせてもらえなかった……それでずっと殺し屋稼業やらされてるの。ねえ、何がいけなかったの? あたしこんなに頑張ってるのに、何がいけなかったの?」

「そう言うなよ、ぺろりんちょは素晴らしいキャラだったぜ……」

 すすり泣きはじめる《極北紅玉》に見えないように、ごりは後ろ手でジェスチャーでこちらへメッセージを送ってきた。


(勝機だ。このネタなら、俺と真子なら3時間は稼げる。その間に、半兵衛はまず文を安全な場所へ避難させろ。それから蒲生と合流してさっきの羽根女をぶちのめしてこい。それから蒲生を連れて俺達を助けに戻って来てくれ。こういうときは各個撃破が常套手段だぜ。てか、幻キャラの生声優とかマジでレアじゃね?すごくね?ムフフン❤幼女村はマジ神ゲー!異論は認めない!おまえらもプレイしろ)


 そのメッセージの後半はいま必要か?

 だが、そういうことなら、と俺と半兵衛は頷き合った。

 半兵衛は今度は文を肩に担ぎ上げ、静かに後退した。

 そして俺達は再度走り出した。


 コンクリートの地下通路を俺達はしばらく走った。

 途中いくつも分岐があったが、半兵衛は迷うことなく進んでいき、俺は後をついていった。

「ここの道、全部暗記してんのか……?」

「はは、まあ、記憶力だけはいいんですよ……」

「すげえな」

「ぺんちゃんは頭いいのよ。成績もいつも学年トップだし」

「トップではありません、せいぜい10位圏内です」

 充分すげえよ……

「どうせあなたたちは下から数えた方がはやいんでしょ?」

 なぜわかった……

「他の上位のやつは勉強しかしてないようなぼっちのガリベンばっかなんだから、実質ぺんちゃんがトップだもん」

「それは屁理屈というものです、文」

 半兵衛が苦笑して立ち止まった。

「ここから上がって外に出ます」

 錆びたはしごを上り、俺達はしばらくぶりの日の光の下へ顔を出した。


 ここは……学校の裏門から出たあたりか。雑木林の中だ。

「じゃあ私は、部室に戻って待機してるわ」

「家まで送りますよ、文」

「人の多いところにいた方が安全よ。それに急いだ方がいいんでしょ?」

「ええ、でも」

「少しでもぺんちゃんの近くにいたいの。どうせ帰ってもひとりだし」

「わかりました。では……」

 林の奥から地響きが聞こえた。吠えるようなどきんの声も。まだ戦っているようだ。

「行ってあげてよぺんちゃん、私もうひとりで大丈夫」

 文はそう言うと裏門へと駆けていった。


「私にも力があれば……ぺんちゃんを助けてあげられるのに……」

 そんな呟きが聞こえたような気がした。


「では我々はどきんさんの加勢に!」

「おう!」

 どきんの声のする方へ走り出してから気付いたが……俺、一般人なのにどうやって戦うつもりなんだ?

 とはいえ、先ほどのごりと真子の勇姿を目にしてしまっては、逃げる気など毛頭なくなっていることを確信してもいた。

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