コンクリートの鳥かごの中で
「信頼、してるんですね……私たちも信じましょう」
真子が少しうらやましそうな顔をして微笑んだ。
「ばっ、おまえ、言っとくけど蒲生はただの幼なじみだかんな、変な勘違いすんなよ。昔からゴリラ夫婦とかみんなにからかわれて、けっこう迷惑してんだかんな……」
「あらまあ、ごりさんってツンデレだったんですね」
「ちげーよ! ちげーからな!!」
「あらあらあらまあまあまあ」
真子がにやにやし出した。
「俺のことはいいんだよ! あ、ちなみになんで俺が狙われてるのかも知らん! 俺はまじでなんっにも知らん!! それより半兵衛!」
「はい?」
同じように微笑ましい顔でごりを見ていた半兵衛が若干ゆるんだ返事をする。
「あれすげーな、ばーんて、おまえまじでまづじゅしだったんだな!」
「言えてないですごりさん。魔術師」
「まじょじょし」
「……魔術師」
「マゾ女子」
「意味が違いますごりさん」
「でもおまえまぞっぽいよな」
「違いますごりさん」
「ああ、でも手の動かし方とか、和風っぽかったな……印? 忍者?」
俺は思っていた疑問を口にした。もっと洋風の、箒に乗って黒猫を連れたような魔法使い的なものを想像していた。
「気付きましたか坂さん……うちは大昔から続く神道の家系なんです」
「でも魔術師、なのか?」
「近代に入って、イギリスの魔術の名家と政略結婚をして、様々な魔術の要素も取り込んで発展してきた術なのです。神道、と呼んではいますがもはや神道と呼ぶには本来のものとはかけ離れてしまってはいるのですが……ええと……」
少し言いよどむ半兵衛の様子に、文があとを続ける。
「強くなるためならなんでも取り込むの。力がすべて。そういう家なのよ。でもぺんちゃんのおばあさまはぺんちゃんをとても大事にしてくださった。おばあさまは日本で魔女の家系と呼ばれていた家から嫁いできた方だそうよ。その方が扱うのは主に魔術だった……だからぺんちゃんも魔術師を名乗っているの」
「へー。すげーな」
「でもおばあさまは亡くなってしまった……それでぺんちゃんは家を出たわ」
「それで男の娘に変身か……」
「いわゆる魔術もお婆様から教わったので使えますが、やはり咄嗟に出るのは家の影響か神道の方なんですよね。物心つく前から散々叩き込まれてしまったので」
「だからさっきもそっちを使ったわけか」
「えぇ……あまり誇らしくはないんですけど」
「なんでだよ? スゴかったぜ?」
「……お母様やお父様は……強くなるのみしか頭にない。私たちは道具なのです。強くなることが悪いわけではないのですが……でも、許せない。家を飛び出した理由はそこにもあります。あの家の術を使うのは、全く誇らしくない」
半兵衛はそう言うと苦々しい顔になった。
何かあったのだろうが、それ以上探るようなことを聞くのは少しためらわれた。
するとマンホールが動き出した。
なまめかしい足がのぞいた……かと思うとマンホールからその人物はしなやかに飛び降りてきた。
「みーつけたァー」
赤みがかった長い髪がふわりと舞う。レザー質のなかなか露出度の高い服をまとった女性だった。俺はサキュバスを連想した、そんな妖しい色香を放っていた。
「そんなっ。人払いの結界を張っておいたのに」
半兵衛が目つきを険しくして前に出る。
「ふふん、いくら気配を絶っても、あたしは男のにおいは嗅ぎ当てちゃうの。特にドーテーは大好物よ」
「なにっ、だが俺はどーてーでも毎日きちんと抜いているぜ!」
なにを主張したいのかよくわからないがごりが言い放つ。なんだこいつ。
「あたしは邪雅一族の《極北紅玉》よ。ハルキ君のカラダ、いただきに来たわ」
さっきの飛んでたあいつの仲間か……
「オトモダチはみんな地獄に送ってあげるわね。せいぜい泣き叫びなさい?」
「すみません、敵を甘く見ていた私のミスです……私が相手をします、ごりさんたちは逃げてください。そちらの通路をずっと行くと別の出口が……」
「待て。やつの狙いは俺なんだろう」
半兵衛を押さえて前に出たのはごりだった。
「なんか理由はわからんが、おまえらにそんな必死になって守られる義理はねえよ。おまえらが逃げろ」
こんなときになにかっこつけてんだこいつは……
「あら、素直じゃない。そういうのも嫌いじゃないわ。でも姿を見られたら生かしてはおけないのよ、残念ね。とりあえず……両腕切り落としちゃおうかしら?そしたらおとなしくなるかしら?」
「ははっ、手は困るな。せめて足にしてくれよ。手がなくなったらゲームできねえだろが。……俺の足やるから、こいつら見逃せよ」
「なに言ってるんですかごりさん! いい加減にしてください!!」
叫んでごりを押し退けて立ちはだかったのは、意外なことに真子だった。
「おまえこそなにやってんだよ真子、はやく逃げろよ……」
「私……私、根暗オタクなのでずっといじめられてました。友達と呼べる人はいままで、シラタキちゃんだけでした。でもシラタキちゃんは文学少女だったから、ゲームの話とかはぜんぜんできなかった……でもここに来てごりさんに出会えた。はじめてだったんです、あんなに、ムフフン❤幼女村で楽しく語り合えたのは……私のナンバーワンゲームで同じ思いを分かち合えたのは。私はもう、ごりさんのことを心の友だと思ってます。だから守ります。私にはごりさんを守る理由があります」
「真子……おまえそんな風に俺のこと……ああ、俺もそうだ。ムフフン❤幼女村の真の価値が理解できるおまえのこと、俺も心の友だと思ってるぜ……」
なんだろう、ここは感動する場面なのだろうが、そのゲームのタイトルがすべてを台なしにしてる感が否めない。なんなんだいったい、ムフフン❤幼女村。。。
だが。
「……ムフフン、幼女村……ですって……?」
《極北紅玉》の顔色がわずかに青ざめた。




