映研部室でゲームばっかしてる俺ら
まずは転載分まで載せていくよ!
ヒロインはポニーテールがいい。
清楚の象徴でいて、いかにも挑発的な。
そして彼女は、大切なものを失った悲しみを知る少女で。
揺れる髪ほどに揺れる心で探しているのだ。
未来を。
カメラは彼女を追いかけるためにそこにある。
□ ■ □ ■ □
「おはよう諸君!」
元気よく部室のドアを開けて入ってきた少年は、まあ俺の顔を見るなり明らかに落胆した素振りで鞄を机の上に放った。
「はいはい。俺ひとりしかいねーですよ。もう期待すんなって、毎日それもう飽きたわ」
「だって……万が一新入部員がいるかもしんねーじゃん! 常に輝いてる部長の俺を見せたいじゃん!!」
ごりらみたいな顔つきは口をとがらせないでもごりらみたいなんだが、この駄々こね顔をするとよけいにごりらだった。こいつの名前は猿茂根良晴吉。通称ごり。我が校の映画研究部の部長である。
「つかーつかーなんでおまえいんの部員でもないくせにー」
ごりが俺の手元をのぞき込んでくる。
「わっ、すっげ、もうレベル50こえたんかよ」
「おうよ」
俺の両手の中にあるのは携帯ゲーム機、7DSだ。ガンメタのボディにターコイズブルーのラインの限定色。
「映研の部室って暗幕のおかげかめっちゃはかどるんだよな。通信しようぜ、どうせひまなんだろ?」
「ひまっていうかひまだったら編集作業でもしようかと思ってたんだけどどうせ素材も撮ってないしおまえもさみしいだろうからやってやんよ」
ごりが鞄から取り出した7DSは赤い色で、初期に発売されたオーソドックスカラーだがそれだけにむしろこんなに使い込んでるやつをあまり見ない。一昔前のゲームの美少女キャラのステッカーでデコられていてこれはこれで見るからにヲタ機とわかる代物であった。
「たんぽぽメアリーだぶったからやるよ」
「俺いまとろんとろんジョセフィーヌほしーんだけどなー誰かくんねーかなー」
「そんなSレアは万一だぶってもやらぬ」
やっているゲームは美少女キャラを集めて戦闘をするものだった。世間ではヲタク御用達ゲームとして認知度が高い……つまり俺もごりも立派なヲタクである。二次元美少女が三度の飯より大好きな、非モテ街道まっしぐらのアレである。
そうそう、自己紹介がまだだったな。俺の名前は板田谷逢忠。山川林森崎国際高校の1年である。成績はそこまでは悪くないつもり……といっても平均すると中の下あたりをうろうろしている程度の頭である。将来の目標も特にまだ見つかってもいない、どこにでもいるような普通の男子学生だ。
「そういやさ、坂。あの子、どうなった?」
笑いながらゲームをしてたが、いきなりごりが質問をしてきた。
目線こそゲーム機に向けられていたが、いつものニヤニヤヘラヘラした様子はなく、真剣な表情だった。
「ん? なんのこと?」
あの子と言われても思い当たる節がなく、ゲームのキャラの話か何かかと、軽い気持ちで聞き返す。
なお、坂っていうのは俺のあだ名、らしい。初めて会った次の日にはつけられていた。
多分、名前を覚えられなかった、というか覚える気がそもそもなかったのだろう。名前が少々長い自覚はたしかにあるから、あだ名をつけられること自体はさほど珍しくはないが。
ていうか坂って。せめて板だろ、板田谷だ俺は。誤字った上に定着させてんじゃねえ。
「はあ? ……おい冗談だろ?」
「いや冗談じゃないって。あの子って誰? 主語と述語を使い分けろ」
「この場合は修飾語だ」
今までにないほど冷静に正された。そうだった、こいつ国語に関しては点数よかったな……。
ごりはさっきからずっと真顔だ。
心なしか、悲しそうな顔をしているように見えた。
K.O! You Win!
「あ、勝った」
ごりにゲームで勝つのは久しぶりだった。
「どうするごり? まだやるか?」
そう聞いてごりの方を見ると、ごりは自分の手をきつく握りしめていた。
「おい、おまえ今日どうしたんだ? なんか変だぞ。拾い食いでもしたのか」
「坂……おまえ、まさか忘れたんじゃないよな? なかったことにする気か?」
「だから何の話だよ」
「本当に、わからないんだな」
「わからん。もっと細かく説明してくれ……」
バキィ!
握りしめられていたごりの拳は俺の顔面にめり込んでいた。それはもう、グーで、思いっきり。親父にもぶたれたことないのに。
「ふざけんじゃねぇぞ! 何が説明しろだ!」
そう叫んでごりは荷物をまとめて帰ってしまった。
いつも冗談ばっか言っているあいつが、あんなに怒っているのを見るのはこれが初めてだった。
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さぁごりさん(イケメン)に何があったんでしょうか?
と、坂とごりの様子を見ていたシラタキは読者に問いかけた。
――シラタキの手記はここで途絶えている――