にわか落語風小噺 へそ茶
初投稿となります。
ご意見ご感想ご指摘を頂ければ幸いです。
えー、世の中スマホやパソコンやらもすっかり普及して、科学化け学が進みに進んで、昔こそ神さまの御技なんて言われていたことも、今や、やれ、この技術を使ったんだ。それ、この物質が原因だなんて言って、神の御技なんて言うのはすっかり無くなってしまったもんです。
まあ、無くなるならそれでも良かったんですけどね。
実際の所パソコンスマホでネットを開けば神降臨だの神キターなんて、神様が随分沢山いらっしゃるようで無くなるどころか、叩売りの大安売りがされている始末。
まあまあそれでも、ネットなんて見ることができても触れられない所にいる神さまは触れない所に居る分、怖くはないですし、厳かなもんですよ。
昔からあることわざでもありますね。
「触らぬ神に崇りなし」
今日はそんな触れて、祟るなんて、どっかのアイドルみたいなキャッチコピーみたいな長屋の神さまの小噺を一つ。
どっかで一笑いただければ幸いです。
「ぶぅわっははははははははははははッ」
「そんなに笑わないでおくれよ」
「いやいや、そいつは無理ってもんよぉ。俺ぁもう、ちゃんちゃらおかしくてヘソで茶を沸かしちまうよ。ぶはは」
「源さん!」
「あん? あ、しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」
「お、丁度いい。茶が飲みたいと思っておったのだ」
「ぶっ熱っちいぃぃぃ このクソっ垂れッ 人のヘソでぃッ」
「うむ。中々美味い茶だな」
「人の話を聞けッ」
「ったく、あのバカタレはよぉ」
「大丈夫かい。源さん」
「ああ、これ位屁でもねえよ」
赤くなった腹を擦りながら源は、顔にある年季の入った深い皺を全て眉間に集めたようなしかめ顔をしながら『花火の賀戸屋』と背中に書かれた羽織を着直し、短く白いボウズ頭を掻いた。
「しかし、本当にあれにはちょっと困ったねえ」
「徳よ。そう思うなら俺のヘソで沸いた茶を啜るのをやめてくれい」
源はしかめ面のまま、緩くも皺が彫られた口に茶を運ぶ、白髪混じりのにぶい銀色の眼鏡をかけた男に促す。
「ああ御免よ。しかし本当に美味しいんだよ、このお茶」
「ああ、そうかい」
源はちゃぶ台に肘をつき顎を支え、
「しかし、あの神様はどうにかならないのかねえ。先代とは大違いだ」
天井を見ながら深いため息を吐いた。
「ああ、確かに先代の大家の神様は良かったねえ。神様だからってそれを笠にするわけでもなく、今の神様みたく神の力を使うことは滅多に無かったけど、その分この長屋の住人の困り事や悩み事には親身に話を聞いてくれたし、ここぞって時には力を使って助けてくれたからねぇ」
「ああ、ああいう人こそ本当の聖人君子の神さんってもんよ。この神つき長屋の名に相応しい人よ」
うんうんと頷き源は、
「それに比べ今の神さんはよお」
築百年を軽く超えた木造の建物をゆっくり見廻し再び天井を睨んだ。
「先代と同じ屋根裏に住み始めた所までは良かったけど、先代がやっていた大家の仕事は殆どしねえし」
「その上、日本の日本人の為の日本語強化と言って、長屋の住人にことわざが現実になる呪いをかけるしね」
「おまけに神出鬼没で、突然出やがるし」
「呼んだか?」
声と同時に気づくとちゃぶ台を挟んだ二人の間に、右手の平を顔の高さにまで挙げたボサボサの黒髪の男が座っていた。
「うおっ」
「うわ」
源と徳は驚き背を反らすと、二人ともちゃぶ台に脛をぶつけ、脛を押さえながら転げ回る。
そんな二人を見ながら、徳が飲んでいた湯飲みを持ち上げると、
「二人とも仲がいいのう。かっかっか」
作ったような笑い声を挙げ、茶を一気に飲み干した。
「何しに出やがったぃこのボケ神!」
源は甚平から出た脛を擦り、息をふーふーと吐きかけながらも、白いムームーとも、病院服とも似た一枚掛けの服を着て、左手に木で出来た先が薇のようにねじ曲がった杖を縦に持った三十手前くらいの若い男に、唾と一緒に罵倒の言葉を吐く。
「なにって、呼ばれたからのう」
「呼んでねえよッ」
「駄目だ。源さん」
徳は源同様脛を、ズボンの上から擦り、源に諦めともとれる静止の言葉をなげかけると、
「あん。なんでい」
源はその言葉に、徳を涙目で睨みつける。
「源さんはことわざで神様を呼んだんだよ」
「俺がいつ、この馬鹿を呼んだってんだ」
徳の湯飲みに茶を注ぎ、フー、フー、と息をかけ冷ましながら、茶を啜る神に向かい、指をさしながら、源は脛を擦り続ける。
「『神出鬼没』は、四字熟語であると同時にことわざに含まれるんだよ」
「ほう、さすが国語教師だのう。よく知っている」
神は徳の顔も見ずに、目を伏せながら適当に褒めると、
「では、これは知っているか?」
口の片方を上げ、
「神出鬼没は神や鬼が予測のつかない出没をするから出来た語であることを」
「はい? まあ一応は」
何を言いたいか理解できないまま、神は呆ける徳をからかうように緩やかに笑う。
「神出鬼没は、神や鬼の突然の出没」
「へ?」
「神や鬼……の?」
源と徳の言葉と同時に、神がいる方向とは反対側から、
「フーフーッ」
と、茶を冷ますには荒々しすぎる息を吐く音が聞こえ、同時にただらない気配を感じ、神の正面に当たる位置を振りかえると、
「フーーーーッ フーーーーーーーッ」
真紅の皮膚に口からはみ出た犬歯、頭には二本の闘牛のような角の三メートルを越す巨人がそこにチョコンと正座をしていた。
「ぎゃーーーーーーーーー」
「うわあああああああああ」
「かっかっかっかっかっか」
そして今日も長屋に二つの悲鳴と一つの笑いが空高く上がる。
「ああ、昨日はひどい目にあった」
言いながら徳は、健康サンダルをリノウムの床をペタペタさせながら、学校の廊下をゆっくり歩いて行く。
「まさか梅雨明けに豆まきをするとは思わなかった」
結局あの後、台所にあった大豆を源と徳で鬼に向かって投げつける季節はずれのリアル豆まきをし、なんとか鬼を追い払うことには成功した。
「ふう、次の授業内容は古典とことわざか、後は課題の回収もか」
ファイルの中を見ながら次の教室に向かう間に徳は授業内容を確認する。
「ことわざの呪いもあの人の近くでないと発動しないってのが、せめての救いだよな、じゃないと国語の教師を廃業しなくちゃならないよ」
目的の教室の前に立ち、
「まあ、どっちにしろこのままじゃ、ことわざ恐怖症で廃業しそうだけど」
溜息を吐きながら徳は教室に入っていくと、
「きりーつ」
生徒がバラバラに立ち上がり、
「礼」
徳が教壇に上がると同時に頭を下げ、
「着席」
ガタガタとそれぞれ椅子の音を響かせ、また席についた。
「はい。それじゃ前回だしたことわざの課題の回収からしようか、やってきた者は前に出しにおいで」
教室から紙のすれる音とヤベぇという声、忘れたぁと響く嘆きと、皆一様のざわめきを上げながら、教卓に課題のプリントが集まってくる。
「課題が終わってない者、忘れた者は放課後まで待ってあげるからそれまでになんとかしなさい」
「先生!」
他の生徒が課題を教卓に置いて、すぐさま席に戻る中一人、課題のプリントを徳の目の前に広げるように出す学ランの生徒が一人いた。
「なんだい」
「課題をやってきたんですが、どうしても一問わからなくって」
生徒はプリントを徳に広げたまま、照れくさそうに片手で頭を掻いて肩をすくめる。
「どれかな」
「ここです。この意味が世の中には悪人もいるが、善人もまたたくさんいるということ。の所です」
生徒は、プリントの左端に書かれた問題文を読みながら指差した。
「これは『仏千人、神千人』だね」
「あ、そうなんですか」
「世間には仏様や神様のようなよい人がたくさんいるっていう意味でもあるんだぞ」
まあ、ろくでもない神さまもいるんだけどね、っと徳は心中でため息を吐いた。
「さすが国語教師よく知っていますね」
「当たり前だよ。それよりその長髪は校則違反だから明日までに直してくるように」
「そいつは面倒だのう。しかしまあ、わしには校則なんて意味ないからのう」
「何をいって――」
言いながら、徳は生徒の屁理屈を呆れ交じりに無視し、プリントを回収するが、
「何せわしは神だからのう」
そこにいたのは、学ランの似合う初々しい中学生ではなく、学ランを着るにはいささか無理がある年の男が口の端をにんまりと挙げ、佇んでいた。
「な、神様!」
驚きのあまり徳は一歩後退しながら、思わず教室全体に響くような裏返った声で叫んでいた。
その叫びに生徒も、神の存在に気づき、一様に誰だの、神様って先生言わなかった? なにそれ、だの生徒の中でざわめきが広がっていき、その状態に焦りを感じた徳は、
「ちょっと、何をしているんですか」
と、小声で神の傍に寄り問う。
「いや、なに長屋の神たるもの住人の仕事ぶりを知っとくべきかと思うてのう」
「だからって学生服着る意味があるんですか」
「ふむ。お前が驚くかと思っての」
特に悪びれた様子も無く、神は教卓に肘をおき指を組みその上に顎を乗せ緩やかに笑う。
それに対し徳は何かを言おうとするが、
「それよりいいのか?」
先に神に台詞を吐かれ言葉を飲み込んだ。
「いいって何がですか」
「ふむ。では実際に受ければ思い出すだろう」
「は?……ああッ」
「出でよ神千人よ!」
神が叫ぶと右手で教室の後の扉を示すと、ぞろぞろと顔や体格はそれぞれ違うものの、普段長屋の神が着てるような一枚布の白い服を着た人たちが教室に入り込んできた。
「さすがに教室の広さ上全員は入りきらないが廊下にまで、ギッシリ神が千人いるぞ」
「あああああああ」
その事態に徳は教卓に頭を押さえ呻くことしかできずにいた。
そんな徳の様子を見て、神は笑顔のまま、
「徳よ。そう心配するな」
優しく、諭すように徳の肩に手を置く。
「わしは何もお前を苦しめたくてここに神を千人も集めたわけではない」
「……」
「わしはな、ただ知って欲しかったのだ。今ここにいる未来ある子ども達に、わしら神という存在がこんなにも皆を見守っているということを」
「神様……」
徳は教卓から顔を上げ、神の顔を見上げる。そこには確かに人ではありえないとても穏やかな笑顔があった。
その笑顔を見て徳は何故か安心した気分になり、全てを任せてみようと思った。
「わかりました神様。では彼らに貴方達のことを教えてあげてください」
「ありがとう徳よ。では入ってきた順に紹介をしておくれ」
そういい一番最初に入ってきた窓際にいる男に向かい示す。
「こんにちは、公衆便所の神です」
「初めまして、洋式便所の神です」
「チィース、男子便所の神です」
「ハロー、ウォシュレット付き便所の神です」
「なんで全員トイレの神様なんだよ!」
勢いよく徳は神に向かい直り叫ぶ。
「いや、統一感あったほうがいいかと思うてのう」
「もっと違うものがあったろ」
叫び頭を抱える間にも便所の神々の紹介は続いて行く。
「ああ、もう授業がぁ」
「どうも、手塚治虫です」
「一人だけマンガの神様がいる!」
「かっかっかっかっか」
徳の細部漏らさぬツッコミに、神は満足気に作ったような笑い声をあげている。
そこで徳はハッと気づき、
「まさか、神千人、仏千人ってことはじゃあ」
汗を額に浮かべながら生唾を飲み込む。
「ふふふ、よく気づいたな」
気づくと神は教室の前の扉に立ち、
「今こそ出でよ、仏千人よ!」
叫ぶと同時に扉をガッと勢いよく開いた。
「こんにちは、ブッタです」
「お初です、ブッタです」
「南無三、ブッタです」
「シッタールタ、ブッタです」
「なんで全員ブッタなんだよ!」
ツッコミながらも神に詰め寄ろうとするが、大量のブッタが道を阻み近づけない。
「いや、仏の知り合いってあんまり多くなくてのう。かっかっか」
神がブッタです。ブッタです。と自己紹介しながら教室に入ってくるブッタの向こう側でそう笑う。
「ああ、でもブッタ以外もおるぞ」
「どこに」
「ここに」
「どうも、手塚治虫です」
「なんでこっちにも!」
「ブッタつながりでのう」
かっかっかと笑う神の声とチャイムの音が鳴り響き、今日の授業は終了した。
「ああ、今日もひどい目にあった」
あの後徳は、説法を説き始めた九百九十九のブッタと、大人の便所マナー講座を始めた九百九十八の神と、マンガを描き始めた二人の手塚治虫と、それを見て笑っていた一人の神に丁重に帰ってもらい事をなんとか納めた。
今は夕刻。徳は黄昏時を過ぎ空の端が薄ら明るいだけの藍色に広がる上を眺めながら、
「いつまでこんな事が続くんだろう」
本日何度目かの溜息をついた。
そこでツンと鼻につく臭いを感じ、辺りを見渡した。
臭いは物が焼ける臭いのようだが、それ以外にもなんだか嗅ぎ覚えのある臭いする。
そうして辺りを探すと『花火屋・賀戸屋』の看板に目が入った。
まさかと思った徳は源が営む、花火屋に少し小走りで向かう。
事務所兼店舗を軒先から覗いて見ると、中には誰もおらず、仕方なく徳は裏手の花火工房に、お邪魔しますと律儀に挨拶しながら店の横をすり抜け奥へと進んでいく、嗅ぎ覚えのある臭いはまさしく花火の臭いだった。
奥へ進んでいくと工房前で源が四つん這いで項垂れていた。
「源さんどうしたの!」
その声に気づくと源は四つん這いのまま首だけ向け、
「おう、徳か」
と、疲れきった声で四つん這いを止め、尻もちをつき首を落とした。
徳が辺りを見ると、工房とその周りは水浸しで、工房の職人もびしょ濡れで、源のお気に入りの羽織もびしょ濡れの上所々焦げていた。
「なにがあったんだい?」
源はふうっと溜息を吐きながら、
「あのクソ神のせいでぇ」
憎々し気にそう唸った。
事の発端は、知りあいの花火師が訪れた事から始まったと源は徳に言う。
「よう、源どうだ? 調子は」
「おう、圭か、調子はまあボチボチだな」
「んなこと言って、最近羽振りがいいんじゃねえか?」
「ケッ、んな訳あるかい、この不景気で爪に火を点す思いでやってるっての」
「ほう、それは随分謙虚だのう」
「神! 手前なんでここに」
「ふむ、なに、長屋の神たるもの住人の仕事ぶりを知っとくべきかと思うてのう」
「何ふざけたこと言ってやがる、とっとと長屋に帰りやがれ!」
「まあ、そう言うな。どうやらわしはお前のその謙虚な倹約に一役買えたようだしのう」
「あん? 何を言ってんだ? てめぇは」
「おい、源」
「圭ちょっと待ってろ。今こいつを叩き出すからよ」
「手! 手!」
「あん、手が何だって言うんだ」
「爪が燃えてるぞ!」
「何を言って―― って熱ちいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「ふむ、これで明かり代を消費せずにすむだろう。かっかっかっか」
「もっと大事なもん消費してるわああああああああああああああああ」
そう神が笑っているなか火を消すためか、熱さの所為か地面を転げまわった源は、たまたま工房から花火玉を持って出てきた若い職人にぶつかり、その職人が落とした花火玉を反射的にキャッチしてしまい引火。
花火が小玉のものだったので、威力は小さかったものの、あちこち飛び火し、それを消すのに職人全員で水を撒き今にいたるのだった。
源曰く工房内の火薬に引火しなかったのが奇跡に近いそうだ。
「爪に火を点す。ひどくケチなこと、また、せっせと倹約すること。油や蝋燭の代わりに爪に火をつけて明りにすることからつけられた言葉だね」
「そんな能書きは聞きたくねえ」
顔をしかめながら、源はまた俯いた。
「しかし、源さんも被害にあってたのか」
「も、ってなんだも、って」
「いや、実は――」
そこで徳は今日起きたことのあらすじを話してみる。
すると源は、眉間に皺という皺を寄せ集め、
「もう我慢できねえ」
奥歯をギシり、と噛みしめ徳を連れて長屋に向かった。
「ふふーん」
神は長屋の屋根裏で鼻歌を歌いながら、ネタ帳と書かれた紐で閉じられた冊子を寝ころび煙草を吹かしながら眺めていた。
「仏千人、神千人。爪に火を点す終了っと」
それぞれの文字の上に筆でバッテンを書いていく。
「ふーむ。そろそろネタも尽きてきたのう」
筆の尻で頭を掻きつつポツリと呟く。
「そろそろ四字熟語もいれるべきかのう。神出鬼没もやったことだしのう」
そんなことを神が考えていると、
「神様! 神様いるかい!」
屋根下の源の部屋から源の声が聞こえる。
「なんだ騒々しい。わしは今いそがしいのだ」
「いや、神様。俺達はあんたに謝らなけりゃならねんだ」
「謝る?」
どうせ文句を言いに来たと思っていた神は、全く予測していない言葉に思わず天井越しに聞き返す。
「ああ、俺たちは前の神様の所為か、神って存在にいつのまにか頼るのが当たり前って思ってたんだよ。そんな訳はねえのにな」
「ほう。で、わしはおぬしらに謝られる事などしとらんぞ」
「いや、あんたはそんな俺達の思い上がりを気づかせてくれたんだ。あんたのあの行動には意味があったんだ」
神は一瞬何を言ってるか解らず煙草を口に挟んだまま呆けるが、しばらくするとそんな源の柔順な態度に神は屋根裏で、両手で口と煙草を押さえ手や足を床に叩きつけ転げ回り、笑いたいのを堪えるのに必死で仕方がないと言った様子で身を縮め涙目で息を呑んでいた。
「ほ、ほう。で、どうしたいんだおぬしら」
笑い声を押し殺し、平静を装い話す。
「だから、せめてお礼をしなくちゃならねえと思ってよ」
「お礼とな?」
「ああ、お礼だ。わりぃが俺はそういうのを言葉にだしていうのは苦手でしょうがねえんで、代わりにお礼の品を持ってきたぜ」
「ほう。一体どんなものかの」
「結構高価なものだぜ。これ一個で大抵百万以上するからな」
「かか、それは奮発したのう。どれ今下に降りるからのう」
作った笑い声を上げながら、神は起き上がり、下に降りようと天井板を一枚はずそうとすると、
「ところで神様」
徳から声が掛けられた。
「なんだ徳よ」
「神様って言うのはやっぱり普通は天に住んでたりするんですか?」
「まあのう。基本は皆空にある天界暮らしよ」
神は徳の質問に適当に答えながら天井板を外し、
「ほう、そうなのかい」
下を頭だけ出し覗きこむと、
「じゃあ」
源は相槌を打ちながら、
「こいつを手土産に」
火の点いた爪で、徳が天井に向け構えながら押さえる木と荒縄で出来た大筒に火を放ち、
「とっと帰りやがれ!」
叫びと同時に、ズドンっと言う爆音と共に逆さに頭を出す神めがけ、六尺の玉が真っすぐ神もろとも天井を、屋根を突き抜け、
「いいっ」
という神の短い叫びをヒューッという笛音がかき消し一寸後ぴかぁぁと、空に七色の大花が咲き、ドドーンという炸裂音が町内に轟いた。
「よ、賀戸屋!」
「ええ、挙げた本人が言っちゃうの?」
「良いんだよ。こんなもんはただの景気づけなんだから誰が言ったってよ。それよりお前もなんか言ってやれ!」
「あいよ」
返事をすると、徳は深呼吸し、今まで溜まっていた欝憤を晴らすように、
「仏ほっとけ、神かまうなぁぁぁぁぁ!」
長屋中に響く大声で叫び散らした。
「ことわざはもういいっての」