ご機嫌なクジャクソウ
「ゆっちゃーーん!!」
「うぉ!?」
教室に唯が足を踏み入れた瞬間、紅葉が走って抱きついた。咄嗟のことにバランスを崩しながらも、なんとか倒れることなく一歩引いた右足で支えた。幸せオーラ満開の自分にくっついている紅葉の頭を優しく撫で、一旦離れてもらい、唯は席についた。
「何したの、朝から」
「聞いて聞いて!!あのね!」
紅葉は嬉しそうに昨日の出来事を唯に話した。唯は終始笑顔で話を聞いていた。
「へぇぇ~。ようやく進展あったかー」
「えへへ~」
唯の冷やかしに笑みをこぼす紅葉。いつもなら真っ赤になって言い返してくるが、今回は本当に嬉しかったらしい。幸せそうな紅葉の頭をグリグリと力一杯に唯は撫でた。
「ゆっちゃん痛いよー」
「昨日は楽しかったねぇ。じゃあ貸してた現国のノートを返してくれるかな?」
「ぁ…」
先程までの笑顔が嘘のように、紅葉の顔は真っ青になった。身を翻して逃げようとする紅葉の首根っこを椅子から立ち上がった唯が掴む。
唯は怖いくらい良い笑顔で紅葉を後ろから見下ろしている。紅葉に唯の顔は見えていないが、怒気をはらんだ空気により、笑顔で鬼の角を生やしている姿が容易に想像できてしまったのだった。