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花屋と幼馴染み  作者:
3/8

咲きかけのガーベラ

 それから数日後、ようやく達彦の母親の体調が戻り、仕事に復帰した。

「ありがとうございました」と陽気な梓の声がオレンジ色の空に溶けていく。


「ごめんなさいねぇ、手伝ってもらっちゃって」

「大丈夫ですよ。最近部活休みなんで暇でしたし」


 花たちに水をあげながら、にこりと笑う紅葉に、梓も笑顔を返す。まだ時刻は5時で、仄かに空が藍色になりかけている。11月ともなると、日がないと寒くなるため、紅葉の鼻は赤くなり、吐く息は白くなり始めていた。


「おい、これ着とけ」


 しゃがんで花を眺めている紅葉の肩に達彦がジャンパーを掛けた。突然の行為に驚いた紅葉は、小さくお礼を言うとゆっくり袖を通した。


 遠巻きにその様子を見ていた梓と奏江は、顔を合わせて微笑んでいた。恥ずかしそうにしながらも笑顔の紅葉と、大胆なことをしておきながら、顔を赤くしながら会計をする達彦たちの間にはとても甘酸っぱい雰囲気があった。


 夕日が沈み、すっかり辺りは星々が輝く時間になると、花屋は店じまいを始めた。


「紅葉ちゃん、お疲れ様。今日はご飯食べていかない??」

「え、いや、そこまでお世話になるには…」

「なぁに遠慮してるのよー。今日は蘭ちゃんたちいないんでしょ?いいから食べていきなさいな」


 蘭とは紅葉の母親のことで、今日は確かに両親の結婚記念日だかで二人で旅行に行っていた。近所のため、蘭と梓は仲がよく、いつの間にかそんな話まで伝わることに紅葉は驚きはしなかった。しかし、断る間もなく、梓は鼻歌を歌いながら奥へ引っ込んでしまったため、紅葉は1人ポカンとしていた。


「遠慮しねぇで、食っていけよ」


 今帰られると俺が怒られる、とぶっきらぼうに告げて、達彦も奥へ入っていった。

 紅葉も、少し遅れて笑みを浮かべながら達彦たちの後を追うのだった。


  ▼ ▼ ▼


 夜もすっかり更ける頃、紅葉は達彦と共に家路についた。徒歩5分もかからない道のりを、寒さに首をすくめながらゆっくりと歩く。


「あーあ、今日でバイトも終わりかー」


 伸びをしながら、紅葉は明るく話始める。しかし、半歩後ろを歩く達彦から返答はない。横目で達彦をチラ見すると、とても真剣な顔をして紅葉を見つめていた。

 チラ見で終わらせるはずが、紅葉は驚いて立ち止まってしまう。

「ど、どうしたの??」

「…さみぃな」


 そんなことかよ!と出かけた言葉を紅葉は必死に飲み込んだ。達彦の様子が明らかに言いたいことが違うと語っていたからだ。

 そうだね、と紅葉は小さく返し、再び歩き始めた。

 そして無言のまま紅葉の家の門前にたどり着いた。

 じゃあね、と別れを切り出そうと達彦の方を振り返ると、目の前に土の入った鉢の袋が差し出された。


「…これやる」

「…??何もないけど…」

「種植えてある。花は5月くらいに咲く」


 水やりの回数や育て方を口早に説明すると、達彦は半ば強引に鉢を紅葉の手に押し付けて帰っていった。


「…これ、なんの花?」


 肝心の花の名前を聞いていない紅葉は、寝る前に一通のメールを達彦に送ったが、咲くまで待て、と返ってきた。

 出窓に置いた鉢を見上げながら、その日は気分よく眠りに着いた紅葉であった。

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