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花屋と幼馴染み  作者:
2/8

ヒメウツギの芽

 翌日。紅葉はドキドキと高鳴る胸を押さえながら美術室のドアをそーっと開けた。そこには、真剣な表情でキャンパスと向き合う達彦の姿があった。


「・・・やっぱ本物見ないと・・・」

 何かぶつぶつと呟いていた達彦は、不意に動きを止めた。不思議に思った紅葉が達彦の視線を追うと、鏡に映る自分の姿が見えた。


「あ」

「あ。じゃねぇ。来たんなら声くらい掛けろって」


 達彦は少し機嫌が悪いようで、手荒にキャンパスに布を掛けるとカバンを持って美術室から出て行く。


「声掛けなくてごめんー、機嫌直してよー」

「・・・絵、見たか?」


 美術室の鍵を掛けながら、達彦が低いトーンの声で聞いてきた。紅葉に背を向けているため、その表情は分からないが、笑っていないことは確かだ。


「絵?全然見てないよ?ずっと達彦の背中見てたから」

「は?何で俺の背中なんて見てんだよ」


 本当のこと告げると、振り向いた達彦は不審な目で紅葉を見下ろした。キョトンとしている紅葉に深くため息をつくと、脇をすり抜けて歩き出した。


「えー。なんなのー。気になるんだけど!」

「完成したら見せてやるよ。とりあえず帰るぞー」


 美術室の鍵を指に掛けているため、達彦がひらひらと手を振ると、チャリチャリと音が鳴る。『完成したら』その言葉にぱっと顔を明るくした紅葉は先行く達彦を追いかけた。




「ありがとうございました」


 外がすっかり暗くなるころ、花屋に来ていた最後の客を紅葉は笑顔で見送った。


「紅葉、お疲れ。もう片付けていいぞ」


 店の奥から達彦が声を掛けると、紅葉は返事を返して作業に取り掛かる。何年もやっていることのため、作業は大体頭に入っている紅葉は、そそくさと表に出していた花たちを店の中にしまい始めた。


「相変わらず、仲良しさんなのねぇ」


 紅葉の側にあったタンブラーを一つ持ち奏江はふふっと笑いかけた。


「か、奏江さん!何言ってるんですか!」


  顔を赤らめて慌てる紅葉をみて、さらに奏江は笑いかける。


「達彦君も、大きくなったわよねぇ」


  そんなことを言った奏江さんは、おばさんになっちゃったわ、と、苦笑した。紅葉も、奏江と同じように笑いながらチラリと達彦を見る。会話に触れることもなく、達彦は売り上げの集計をしたりと、忙しなく手を動かしていた。

  ふと、手元から顔をあげた達彦がこちらを見て、紅葉と目があった。


「あ、奏江さん、終わったら上がっていいっすよ」


「あ。はーい。…それじゃ、またね、紅葉ちゃん」


  お疲れ様でした、と帰る奏江に声を掛けてから、紅葉は達彦に言った。


「達彦ー。私も帰るねー」

「紅葉は待ってろ」


  作業を再開した達彦に止められた紅葉は、怪訝な顔をしながら達彦に近寄る。


「なんでよー」

「いいから、ここに座っとけ」


  達彦は自分の隣にある丸イスをポンポンと叩く。紅葉はその言動に半歩身を引いた。


「な、なんでっ」

「いいから座れって」

「わぁっ」


  じれた達彦は紅葉の腕をつかみ引き寄せる。バランスを崩した紅葉は達彦の方に倒れこみ顔を赤く染めながらしぶしぶ隣に座った。


  その後は他愛のない話をしながら過ごし、達彦に送られて紅葉は家路に着いた。

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