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残念な男と残念な少女編 1話


―ニューヨークのブロードウェイがモデルとなった大通りにて―



とある銀行では銃をNPCの銀行員に突き付け、覆面を被って顔を隠しているプレイヤー達が大声で叫んでいた。


「テメエら、今すぐ金を出せ!そしてこのバックに詰めろ!」


「のろのろしやがって、このNPC共がッ!さっさとしやがれってんだッ!」


男達がサブマシンガン・Vz61、別名スコーピオンを振り回してNPCの銀行員や民間人に叫ぶと銀行の中にいたNPCたちは悲鳴をあげて銀行内は阿鼻叫喚の有り様になる。


銀行内からパニックになったNPCプレイヤー達が大慌てで銀行の外に出る最中、NPCの銀行員は男の差し出したバックにお金を詰め込んでいき、しばらくしてバックに沢山詰め込まれたお金を見た銀行強盗達は満足したのかバックを銀行員から奪い取るように掴むと、すぐさま銀行の外に止めてあった黒塗りのワゴンカーに乗り込んで逃げ出した。


ワゴンカーの中では四人の男達がバックに詰まっているお金を見てニヤニヤと笑いながら言う。


「いやぁたんまり稼いだぜアニキ!500万$以上は確実だな!」


「だろ?これでしばらく遊び放題だし、好きな車や家に好きな物を買うことが出来る。まぁこんなことゲーム世界だから出来るんだけどな。」


「しかしNPCから物を奪えるゲームなんて珍しいよな!?でも、そのおかげで銀行強盗なんて普段出来ない事が出来るんだけど。」


「まぁ・・・何はともあれおつかれさん、この調子でアジトに帰ろうぜ?」


そうリーダーの男が言うと他の男達もニヤニヤと笑いながら返事をした。





・・・このゲームにおいてプレイヤーが残虐行為を行うのは不可能とされているが、プレイヤーがNPCから窃盗を行うことは可能である、というのもミッションの中には敵のNPCからお金や物を取り返す内容のミッションもあるのでNPCから物やお金を奪うことがゲーム上は出来るのである。


ただしミッション以外でNPCから物を強奪したりすると自動的に懸賞金が掛けられてしまい、もし懸賞金が掛けられたプレイヤーが何らかの原因で死亡した場合はプレイヤーの懸賞金額の1%の金額を教会に寄付しなければならず、プレイヤーの所持金が足りなくて指定額を寄付出来なかった場合は様々なペナルティーを負ってゲームをしなければならなくなり、もしそれが嫌なら真面目に働いて教会に指定額を寄付するしかない。






そんな懸賞金のかけられている四人のプレイヤー達は500万$の大金を傍にニヤニヤと笑みを浮かべながら車を走らせていると一人の男が慌てたように言う。


「いけねぇアニキッ!?サツが来た!」


そう言った男は慌てたように車の窓の外を指差すと車の後をサイレンをけたたましく鳴り響かせて猛スピードで追ってくるパトカーがあり、パトカーのドアにはASCPと書かれたステッカーが張られており、これは『オールサマーシティポリス』を省略したものだ。


『オールサマーシティポリス』とはチームマスターである柏木(かしわぎ) (とおる)が元々懸賞金プレイヤーを倒してお金を稼ぐプレイスタイルであり、チームを結成しメンバーが集まるにつれて澄は懸賞金で稼いだ潤沢な資金を使って懸賞金プレイヤーを追うのに特化していった懸賞金プレイヤーを狩る専門のチームの事を指す。


ちなみに『オールサマーシティポリス』とは澄本人が考えた名前ではなく、澄の結成したチームメンバーが懸賞金プレイヤー達を追っててスピード出すので注意してくださいと周りのプレイヤーに分かってもらう事を理由に作られたパトカーを愛用していることと、そんなパトカーが懸賞金プレイヤーはいないかと常に探し回っている様子がまるで巡回している警察官のようなことから、普通のプレイヤーや懸賞金プレイヤーから『オールサマーシティポリス』と呼ばれるようになったのである。


そんなASCPのチームに所属するプレイヤーがパトカーにある拡声器を手にとって、爆走する黒塗りのワゴンカーに叫ぶ。


「止まれ、賞金首プレイヤー達!大人しく銀行強盗によって手に入れたお金を寄付すればおれたちは君たちを見逃すぞ!」


そう言われた黒塗りのワゴンカーに乗っている懸賞金プレイヤー達のリーダーは慌てて車を止めようとする懸賞金プレイヤーに落ち着かせるように言った。


「落ち着け、おれたちが車を止めた瞬間に蜂の巣にされるぞ?あいつらの手口に騙されるな。」


「でもアニキ!?あいつらおれたちが死ぬまで追ってきますよ!?あいつらに目をつけられたら・・・」


「そんなこと前から分かってただろ?とにかくこのまま追われるのも癪だし後ろで喚いてるあの正義のヒーロー気取り野郎の顔面に鉛を叩き込んでやる。少し速度を落とせ、パトカーの横を並走しろ。」


リーダーの言葉に運転している懸賞金プレイヤーは頷くと徐々に速度を落としてパトカーの隣を並走しようとする。




黒塗りのワゴンカーの速度が落ちてきたのを見たASCPのプレイヤーはハンドガン・ベレッタM92を腰のガンホルスターから抜くと黒塗りのワゴンカーの横を並走し始め、ワゴンカーの運転手を銃で撃ち抜くために防弾仕様のドアの窓ガラスを全開にした途端にワゴンカーの運転手のドアが開いた。


ドアがいきなり開いて驚くASCPのプレイヤーは開いたドアから突き出されたVz61の銃口が見えると、ASCPのプレイヤーは悲鳴をあげながら慌てて窓を閉めようとしたものの窓が閉まるより先にVz61の銃口が火を吹いて蜂の巣にされたASCPのプレイヤーはHPバーが吹き飛び、動かないASCPのプレイヤーを乗せたパトカーはそのまま近くにあった車にぶつかりスクラップになってしまう。


そんなスクラップになったパトカーを満足げに見る懸賞金プレイヤー達のリーダーは、新たに追ってきた2台のパトカーを見てニヤリと笑みを浮かべるのだった。







―???視点―


『一体、例の懸賞金プレイヤー共はどこに行ったんだ!?捜索範囲の外には逃げ出していない筈なんだが・・・』


『パトカーが既に3台もスクラップになっています!大至急逃走犯のいる付近で待機しているパトカーに応援を要請します!』


『パトカーだけじゃダメだ!ヘリコプターを使いましょう!ヤツは手練れですからパトカーを幾ら出してもスクラップが増えるだけですよ!』


『バカ言え!?ヘリなんて動かしたら燃料費だけでバカみたいに金が掛かるんだ!パトカーが3台も潰れたせいで今逃げてる懸賞金プレイヤーの懸賞金を手に入れても儲けが少ないんだぞ!』


『そんなこと言っても現在の戦力ではどうしようも無いんですッ!応援が必要だと・・・』


俺、篠原(しのはら) 琢磨(たくま)はパトカーの運転席に座ってのんびりとブラックコーヒーを飲みながら腰のベルトに着けている携帯無線機から流れる会話を聞いていると電話が掛かって来た。


この電話とは、ニューゲーム開始時から支給されるタッチパネル式の携帯電話であり、30キロ圏内にいるフレンド登録したプレイヤーや自分の所属するチームメンバーとメールと通話のやり取りが出来るというものだ。


そんな電話の掛かってきた相手の名前が柏木澄だと分かり、俺は嫌々ながらも電話に出ると焦った男の声が聞こえてきた。


『さっきから無線機でチームメンバーから応援要請が来てるはずだぞ!?なんで行かないんだ!?』


「おっと、柏木君じゃないか?何してるんだい?」


俺は電話を掛けてきたチームマスターである柏木(かしわぎ) (とおる)にのんびりブラックコーヒーを飲みながらそう言うとトオルは焦った声で俺に言う。


『何してるんだ?じゃないぞタクマッ!?さっきからオレ達の追ってる懸賞金のプレイヤー達が思ったよりも強いから無線機で何度も応援要請を送ってるだろう!?オレも食品店で呑気に買い物してたら向こうから銃声が聞こえたんで慌てて今の現状を確認したんだ!そしたらパトカーが3台もスクラップになってて、肝心の黒塗りのワゴンカーが全く見つからない!』


「あー・・・そうなのか?どうせ今追ってる連中だと捕まえられないから、もっとゆっくり買い物すりゃいいのに・・・食品店にいるんだったら今日は確かに肉屋さんで売ってる日本産黒毛和牛の霜降肉が安かった筈だ。ゲーム世界だと分かっててもアレは旨すぎるから買っといたほうがいいぞ?」


このゲームには世界中の料理や食材が存在するが、その中でも日本産黒毛和牛の霜降肉は絶品であり、俺は脂がのった柔らかい肉をレアで焼いて食べるのが好きだった。


アレはホント旨いんだよなぁ・・・と俺がしみじみ思っているとトオルは日本産黒毛和牛の霜降肉の味を思い出したのか、ゴクリと唾を飲み込む音が電話越しに聞こえたものの俺に言う。


『確かに日本産黒毛和牛の霜降肉は美味しいから買いに行きたいな・・・だがその前にちゃんと仕事しないとオレはチームメンバーに給料が払えないんだよタクマ。頼むから働いてくれ、お前なら懸賞金プレイヤーを余裕で追跡出来るだろ?今追ってるのはチームに入って間もないメンバーだから、このままだと貴重な収入源を逃がしてしまう!』





『オールサマーシティポリス』通称ASCPと呼ばれるチームは懸賞金プレイヤーを狩る事に特化したチームで、チームメンバーの役割分担するためにわざわざ部署まで設けられている。


部署は3つ存在し、俺のいる『捜索班』と様々な状況においての対人戦に特化した精鋭プレイヤーしかいない『強襲班』に懸賞金プレイヤーの討伐作戦を指揮するトオルやチームのマスコットキャラクター的ポジションの女性プレイヤーが多い『本部班』があった。


そのなかで俺のいる『捜索班』とは都市に隠れ潜んでいる懸賞金プレイヤーや派手に暴れている懸賞金プレイヤーを見つけ出した後は『強襲班』が到着するまでひたすら追跡することが仕事になる。


基本的にASCPのチームメンバーの約6割は『捜索班』に入っていて、その人数は60人程度だ。


主な装備は安物の防弾ベストと他の『捜索班』のプレイヤーと弾を共有出来るようにベレッタM92が全員に支給されていて、別に個人で好きな銃を買って持ってても良いが、ASCPの『捜索班』にいるなら銃を使わなくてもお金を稼げるので射撃が下手くそな俺はわざわざ銃を買ったりしない。


というのもASCPというチームは、各プレイヤーの働きに応じて給料を配る制度になっていて、『捜索班』だと基本的に毎日支給される固定額の給料に加え、その日に各プレイヤーの発見した懸賞金プレイヤーを討伐した際の懸賞金の一部を貰うことが出来るのだ。


普通なら懸賞金プレイヤーのいそうな場所に目星をつけ、その地域を一人で探し回って、あらゆる手段を使い全力で抵抗してくる懸賞金プレイヤーを苦労して倒す作業を一人でしないといけないが、ASCPの『捜索班』だとその作業をしなくとも懸賞金プレイヤーを見つけるだけで多額な懸賞金の一部を貰うことが出来る。


そのためASCPはチームメンバーの定員が常に一杯の大人気チームなのであった。


ちなみに俺の給料は一日2000$+加算金額であり、日本円にすると月に100万円は簡単に稼ぐことが出来て、普通にお店を経営するプレイヤーは余程商売上手でないとこの金額は稼げない。


なのでリスクは大きいものの一気に500万$や1000万$を稼げる銀行強盗や車の窃盗等を行うプレイヤーが意外と多かったりするのだが、それはともかく俺の所属するチームであるASCPは高額なお金が毎日手に入ることからチームに入りたいと希望する人が沢山いるためにチームに入る試験が非常に厳しかったりするのだ。


そんなチームに入ることすら非常に厳しいASCPなのに、不真面目で適当な俺がASCPに在籍しているのは色々と理由があるのだが、そんな理由を思い出すよりも先に俺はトオルに現状を告げる。


「おいおい、今逃げてる懸賞金プレイヤーのグループは多分かなりのベテランが仕切ってて、さっきから懸賞金プレイヤーを狩るために作られた防弾仕様でかなり速いエンジン積んでるウチのチームのパトカー5台で追ってるのに全然捕まらねぇのがその証拠だ。銃声が連続して響いてたから相手の持ってる銃は最低サブマシンガンからアサルトライフルは確実にあるんじゃねぇかな?なのに俺は捜索班で支給されてる安物の薄っぺらい防弾ベストとハンドガンのM92だけだぞ?そんな超弱い俺が幾ら背伸びしても勝てるわけねぇし行ったところでパトカーのスクラップが増えるだけだから追跡するのは止めとくよ。」


俺がそう事実を告げるとトオルは反論出来なかったのか黙り込んでしまったものの、しばらくしてトオルは呟いた。


『・・・オレ実はまたカナちゃんのライブチケット貰ったんだ。一番最前列の特等席だけどオレは別に興味はないからチケット売ろうかなと思ってるんだが・・・タクマはカナちゃんのライブ見てるからチケットいるか?あー・・・でも待てよ、でもよく考えたらオレ今回の懸賞金プレイヤーを倒すのに一番貢献したプレイヤーに渡す予定だったんだよな・・・』


「嘘つけ、絶対に今考えただろ・・・カナちゃんのライブの特等席チケットが報酬で、最前列の席で間違いないな?」


カナちゃんとは姫野(ひめの) 加奈(かな)の事であり、職業は歌手で副業はダンサーの銃を撃たなくても大金を稼ぐことが出来る珍しいプレイヤーで可憐な容姿と綺麗な歌声とダンスを披露する、このゲーム世界でのアイドル的存在の超美少女だった。


ゲームの運営がゲームの宣伝CMや広告ポスターに使われるくらいの超美少女である彼女のライブチケットは当然ながら入手するための労力が半端ではなく、オークションで売られてる一番後ろの席のチケットでも100万$であり、日本円にしたら何と1000万円と法外な額なので俺は何時もどうやってライブチケット手に入れようかなと考えている矢先に、チームマスターのトオルは『本部班』にいるプレイヤー達からカナちゃんの特等席チケットをよく貰うらしいのだ。


そうやって貰ったカナちゃんのライブチケットをトオルは特に興味もないので、俺に真面目に仕事をする交換条件としてチケットはいらないかと聞いてくるのである。


そんな特等席チケット一枚で不真面目な俺を働かせようとする何時ものトオルの作戦に負けてしまった俺はトオルに特等席チケットの席が最前列の席かを確認をして貰うとトオルはその通りだと答えて俺に言う。


『・・・とは言っても今回の懸賞金プレイヤーが捕まえられなかったら特等席チケットは無しだぞ?全く・・・金を幾ら積んでも動かないお前はなんで幾らでも手に入るライブチケットで動くんだ。』


「それはアンタだけだよ、この超イケメンのモテモテ野郎が!俺なんてオークションで売られてる1000万$以上のバカ高い特等席チケットを買うかどうか何時も悩んでるのに、なんでライブに興味ないアンタが特等席チケットを手に入れるのか意味わかんねぇよ・・・それはともかく今からすぐに懸賞金プレイヤーを見つけ出して追跡するから待ってろよ?」


『了解した、もしタクマが車を発見して追跡し始めたら無線機のボタンを押して何か適当に叫んでくれ。そうすればタクマの進んでいる道の先を『強襲班』に道路を封鎖させる。そして懸賞金プレイヤーの乗る車のタイヤを『強襲班』がアサルトライフルでパンクさせて動きが止まったところを確実に始末する作戦だ。』


「要は車をひたすら追うだけで問題ないんだな?それなら了解っと。」


俺はトオルにそう言って電話を切るとオートマチックのパトカーのギアをパーキングからドライブに入れると同時にパトカーのサイレンを鳴らしてアクセルを一気に踏み込んだ。





―ニューヨークのミッドタウンがモデルになったエリアにて―





懸賞金プレイヤー達の乗っていた黒塗りのワゴンカーは今では派手な赤色に塗装されており、黒塗りのワゴンカーを必死に探しているパトカーを横目に悠々と逃げていると、ワゴンカーを運転している懸賞金プレイヤーの男はリーダーに言った。


「いやぁ・・・やっぱ流石ですアニキ。パトカー3台もスクラップにした上に車を塗装してASCPの捜索班を撒くなんて・・・」


「・・・今頃連中はパトカーが3台もスクラップになったせいで、儲けを稼ぐために大慌てでおれたちの乗ってる黒塗りのワゴンカーを探しているだろうよ。実際にはもう赤色に塗装してるけどな。」


このゲームの世界では車をNPCの修理屋に持っていくと懸賞金プレイヤーが乗る車であっても短時間で塗装してくれる。


そんなNPCの修理屋を利用して黒塗りのワゴンカーを塗装してもらったリーダーの男はニヤニヤ笑いながらそう言い、他の懸賞金プレイヤーもニヤニヤと笑っていると運転していた懸賞金プレイヤーの男はルームミラーに猛スピードで追ってくるパトカーが映っているのを見て訝しげに思いリーダーの男に聞いた。


「アニキ、後ろからパトカーが猛スピードで追ってきてますけど・・・?」


「なんだと・・・?連中がおれたちに気づいたってのか?」


リーダーと運転する男がそう話しているうちにパトカーはワゴンカーにどんどん近づいて来るのを見たリーダーの男は、近づいてきているのに全く速度を緩めないパトカーを見て慌てて叫んだ。


「急いで車の速度を上げろ!?パトカーが突っ込んで来るぞッ!」


だがリーダーが叫んだと同時にパトカーが猛スピードでワゴンカーに突っ込み、パトカーに追突されてパニックになった運転手の男は慌ててブレーキを踏んで車を止めてしまう。


「よっしゃ、当たりだな!これでチケットは手にいれたも同然だぜ!」


パトカーの運転手はそう叫びながらバンパーがあらぬ方向に曲がったパトカーからハンドガンを片手に降りて来ると、懸賞金プレイヤーの男の一人がパトカーから降りてきた運転手を仕留めるためにVz61を片手に車から飛び出した。


しかし懸賞金プレイヤーが車から飛び出した瞬間にパトカーの運転手がハンドガンをとにかく乱射して懸賞金プレイヤーを蜂の巣にする。


そんな外に飛び出した直後にHPバーが吹き飛んで死亡扱いになった懸賞金プレイヤーを見たリーダーの男は急いでワゴンカーの運転席側のドアを開けると、突然運転席側のドアを開けたリーダーを訝しげに見る運転手の男を容赦なく蹴り飛ばして運転席に座るとワゴンカーのアクセルを一気に踏み込んだ。


タイヤとアスファルトが擦れて白い煙とゴムの焦げた臭いを産み出しながらワゴンカーが走り出すと、パトカーの運転手は急いでパトカーに乗り込んでアクセルを踏み込み、信じていたリーダーに裏切られて呆然とする懸賞金プレイヤーの男を放置して逃走する赤いワゴンカーを追っていく。


反対車線を時速80キロで逃走する赤色のワゴンカーを追うパトカーの運転手は車内の無線機を使ってASCPの『本部班』に連絡した。


「ターゲットの内の一人はポイントD96のデカいビルの前で呆然としてて、残りは都市の北側776号線の反対車線を車で逃走中だッ!776号線と892号線の交差点を封鎖して待ち伏せしろ!そこなら人通りも少ない!」


『了解した、指定場所に『強襲班』を向かわせる。貿易センタービルの前にいる男には近くの『捜索班』を向かわせる。』


「・・・オーケー、頼んだぞ!」


そうパトカーの運転手・タクマは無線機でトオルに告げると車内の拡声器のスイッチを押してワゴンカーに乗る懸賞金プレイヤーに対して叫んだ。


「おいおいッ!?お前ら仲間を囮にして見捨てた上に俺と呑気に追いかけっこしようなんて良い度胸してるなクソ野郎共がッ!俺はそういうやつが死ぬほど嫌いでなッ!今すぐ大人しく車を止めねぇと車ごとブッ飛ばしてテメエらを纏めてあの世に送ってやるぞッ!」


そんなタクマの言葉にワゴンカーを止めたら絶対に死ぬと本能的に感じ取ったリーダーの男はアクセルを更に踏み込んで恐怖と苛立ちの混じった声で叫んでしまう。


「クソッ!?ASCPの『捜索班』にあんなイカれた野郎がいたなんて聞いてねえッ!?ウチのボスの話だと今回は経験の浅い『捜索班』の連中しかいないって話なのによ!?」


「リーダーッ!?そのイカれた野郎が乗ってるパトカーがどんどんスピードを上げてるっスッ!?」


そう言われてリーダーの男はルームミラーに映るパトカーを見ると、迫り来る対向車を避けながらどんどん加速するパトカーを見てリーダーは、とうとう目に怯えの色を浮かべて恐怖のあまりに叫んだ


「こっちは対向車を避けながら時速80キロオーバーで走ってんのにあのイカれた野郎は一体何キロ出してんだよ!?対向車とぶつかってスクラップになるのが怖くねぇのか!?・・・おいッ!銃を撃ちまくってあのイカれた野郎のパトカーのタイヤに穴を開けろッ!」


「わ、分かりました!」


リーダーに命令された懸賞金プレイヤーの男はVz61でワゴンカーのリアガラスを叩き割ると、どんどん加速するパトカーのタイヤを狙ってVz61を乱射する。


しかしタクマは対向車にぶつからないよう気を付けつつ、時速80キロ以上で爆走するワゴンカーから撃たれたVz61の弾丸をタイヤに当てないように避けて、必要なら防弾仕様のフロントガラスで弾丸を受け止めるという荒業をやってのけてみせた。


目の前の人間業とは思えないことをやってのけたタクマを見ながらも、弾切れになったVz61のマガジンを必死に交換している懸賞金プレイヤーの男にタクマが拡声器で叫ぶ。


「おいッ!?テメエらのせいでパトカーがボロボロになったじゃねえか!?今すぐ車を止めねぇなら全部弁償させた後にあの世に送ってやってもいいんだぞッ!?」


そんなタクマの暴言に懸賞金プレイヤーの男はマガジンを交換したVz61をパトカーに向けて叫んだ。


「パトカーのバンパーとかが普通なら有り得ない方向に曲がってんのは、おれたちじゃなくてお前のせいだよッ!」


そう叫んだ男はVz61を乱射するが結果はパトカーのフロントガラスやボンネットに穴を開けただけで、パトカーは全く速度を緩めるどころか更に加速していく。


段々と迫ってくるパトカーに懸賞金プレイヤーの男とリーダーの男は恐怖を感じているとリーダーの男は進行方向の先の方でASCPSFと書かれたステッカーの張ってある防弾仕様の4WDの車が道路を封鎖している事に気付く。


4WDの天井には重機関銃・ブローニングM2が装備されており、その周りにいる全身を真っ黒の装備で覆った人間の手には黒光りするアサルトライフルがあった。


それがASCPの誇る対人戦の得意な懸賞金プレイヤーを始末するための『強襲班』の車両だと気付いたリーダーの男は『強襲班』の封鎖している場所に行けば防弾仕様ではないワゴンカーだと撃たれたら100%死ぬ事を知っていたので全力で叫ぶ。


「お、おいッ!?このままだとASCPご自慢の『強襲班』が待ち構えてる場所に突っ込んで死ぬしかねぇッ!はやく後ろのイカれた野郎を何とかしろよッ!」


「む、無理ですッ!後ろのパトカーは人間離れした動きをしてて銃が当たりません!」


そんな泣きそうな懸賞金プレイヤーの声を聞いたリーダーは、どんな目に遭わされるか分からないタクマに捕まるか『強襲班』の待ち構えてる場所に突っ込んで死ぬかの2択に迫られ、苦渋の決断の末に『強襲班』の待ち構えてる場所に突っ込む事に決めると、後ろを走っているであろうタクマにニヤリと笑って呟いた。


「おれの敗けだよクソったれが!」


リーダーがそう言うと同時に『強襲班』のメンバーは重機関銃の有効射程に入ったワゴンカーと、その後ろを走っていたパトカーを容赦なく蜂の巣にする。


腹に響く重機関銃の射撃音が鳴り響くとフロントガラスやボディやタイヤをぶち抜かれて制御不能になり横転したワゴンカーとパトカーに『強襲班』のメンバーが素早く近づくと、ワゴンカーから這い出ようとしていた虫の息の懸賞金プレイヤーの男とリーダーの男をアサルトライフルで撃ち抜いてトドメを刺した。


「懸賞金プレイヤーを二名始末ッ!」


「ワゴンカーに残っている懸賞金プレイヤーはいませんッ!」


『強襲班』のメンバーが無線機で『本部班』に連絡しているとひっくり返ったパトカーでタクマは目が覚めた・・・




―タクマ視点―



「懸賞金プレイヤーを二名始末ッ!」


「ワゴンカーに残っている懸賞金プレイヤーはいませんッ!」


そんな声が聞こえた俺は目が覚めるとどうやらひっくり返ったパトカーの中にいるらしいと気付いた俺がパトカーから這い出るとたまたま覆面を外していた『強襲班』の男と目があった。


「うわっ!?パトカー方向から敵発見ッ!」


『強襲班』のメンバーがそう言ってパトカーから這い出ようとした俺を撃とうとして別のメンバーが慌てて止める。


「おいバカッ!?多分ソイツは味方だ!近寄って確認を・・・ってヤベェ!?この人はタクマさんだ!?はやく撤収して逃げるぞ!ウチのリーダーと会わせるなッ!」


『強襲班』のメンバー達はパトカーから這い出てきたのが俺だと気付くと慌てて撤収を急ぎ始めた。


そんな『強襲班』のメンバーの対応に俺は思わず叫んでしまう。


「おいッ!?テメエらよくも俺の乗ってるパトカーに重機関銃ぶっぱなしやがったな!?重機関銃が見えた時点で嫌な予感はしてたけど本当ならアサルトライフルだけで始末するって話じゃなかったのかよッ!?」


そんな俺の叫びに『強襲班』のメンバーが一様に気の毒そうな顔をすると、俺の叫びに答える女の声が4WDの車の方からした。


「合ってるわよ多分童貞のクソニートでカナちゃんとかいうアンタみたいな底辺の人間なんて眼中にない超有名アイドルを追っかけるのが趣味のストーカー男。あたしは確かに這い出ようとした懸賞金プレイヤーをアサルトライフルだけでトドメを刺したし、重機関銃を使ってちょっと車を横転させただけじゃない。全く問題ないわよ?」


そんな悪意のたっぷり詰まった毒言葉をプレゼントしてくれた女は燃えるような赤い髪をポニーテールに纏め、黒一色の防弾チョッキの上にマガジンポーチのついてあるタクティカルベストを羽織った美少女だ。


美少女の言う通り俺は童貞でニートの20歳で恋愛経験は一度もないために可愛らしい美少女に声を掛けられて嬉しくない筈はない。


しかし目の前の真っ赤なポニーテールの美少女は見た目は誰もが振り向いてしまうような可愛い容姿なのに、中身は誰もが目を背けてしまうくらい恐ろしい性格なので話し掛けられた俺は非常に嬉しくないのであった。


そんな悪びれもなく毒舌で言い放った美少女に俺は苦々しく思いながら告げる。


「・・・さては『強襲班』のメンバーが俺の乗るパトカーにも重機関銃をぶっぱなしたのはお前の指示のせいだな、この戦闘狂脳筋ガンオタク女め・・・!どうせお前が最近買った重機関銃を試射してみたいと言って今回の作戦で使う4WDに無理矢理据え付けて来たんだろ、んで懸賞金プレイヤーの乗ってるワゴンカーを追いかけてるパトカーの運転手が俺だと途中で気付いたから防弾仕様のパトカーを撃ち抜いたらどうなるかを実験してみたくなってワゴンカーをぶっ壊したついでにパトカーにも重機関銃を撃ち込んだ・・・多分そうだろ?『強襲班』のリーダーさん?」


俺の言葉に『強襲班』のメンバーは皆、その通りですと申し訳なさそうな顔をすると目の前の美少女は俺に言い放った。


「あたしとしては重機関銃を試射してみて防弾仕様のパトカーなら余裕でぶち抜けることを分かった事よりも、パトカーの中にいた女の敵であるストーカー男が始末できなかったのが残念で仕方ないわねッ!チームマスターの柏木さんが何でこんな変態ストーカー男を置いているのか謎で仕方がないわ!」




()(しま) 美優紀(みゆき)


『オールサマーシティポリス特殊部隊』を略してASCPSFと呼ばれる『強襲班』のリーダーであり、同時に最強の射撃技術と戦闘能力を誇るとされるプレイヤーで可憐な容姿とは裏腹に銃の扱いと市街地戦とCQB戦なら誰にも負けないことが自慢の超毒舌家という女の子らしさの欠片もない美少女である。


また極度の負けず嫌いでも有名で一度だけCQB戦で俺に負けたのを根に持ってことあるごとに俺に突っ掛かって来るようになったのを知っている『強襲班』のメンバーは俺とミユキが鉢合わせしないように様々な場面で気を使ってくれていた。


・・・のだがそれをぶち壊しにして俺に意地でも突っ掛かって来るのがミユキなので『強襲班』のメンバーは『強襲班』のリーダーが俺に突っ掛かるのを見て何時も申し訳なさそうにしているのを、俺も申し訳なく思っていた。


それに加えて突っ掛かってきたミユキに俺が構ってやらないと、それを根に持ったミユキはフレンドリーファイアで死亡手前まで追い込んだりしてまで俺にとにかく構ってもらおうとするので最近では大人しくミユキの毒舌を聞かされるのが日常になりつつある。


おまけにガンオタクであり、銃の話題になると目を輝かせて可愛らしい笑顔を浮かべながら銃の性能から使い心地などを延々と語られるため、俺は何とか話に付いていけるものの、もしミユキを彼女にしたいと思うなら銃に関して知識がないと付き合いきれないだろうなと俺が思っていると携帯無線機からトオルの声がして、俺とミユキと『強襲班』のメンバーは急いで携帯無線機を手に取った。


『あー・・・仕事をやってもらったばかりで悪いんだが新たな仕事が入った。巡回していた『捜索班』のメンバーから、ある懸賞金プレイヤーを見た人物がいる。今から各人の携帯電話に画像付きメールを送るので見て欲しい。』


トオルからそう言われて俺達は携帯電話を見ると画像が添付されたメールが送られてくると、俺はメールに張られた画像と文章を見て驚いてしまう。


ミユキや『強襲班』のメンバーも驚きの声を上げるなかトオルは俺たちに告げた。


『懸賞金プレイヤーの名前は鈴美(すずみ) 白刃(しらは)。懸賞金額1億$の超大物懸賞金プレイヤーだ。』


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