第四話「ヒキニートとアホの子」
すっごく遅くなりました、すいません!
「おはようクロウ。今回はちゃんと仕事終わらして帰ってきたかい?」
「………………。」
奥の部屋から出てきたのは、全身黒装束の見るからに怪しい男だった。
長身痩躯で猫背気味、長い黒髪と気怠げなオーラ。
だが、一番目を引くのは顔に付けている白い仮面。
目と口の部分に申し訳程度の穴……というか、切れ目のようなものが入っているだけなのだが、全身黒いがゆえに嫌でも目立つ。
「………なにしに来たんだ……?」
「なにしにって…誘いに。」
「「誘い…?」」
隣に立っていたユリウスと一緒に首をかしげるクロウ。
「…何の誘いだ…?」
「それは出発してからのお楽しみってことでー、明日出発するからユリちゃんも一緒に準備しといてねー」
「え、僕も行くんですか!?」
「え?行かなくていいとおもってたの?行くに決まってるじゃん。」
「えー………。」
「じゃ、そういうことだからー」
そう言って、図書室を出ていくルーファス。
残された二人は、
「俺、行きたくないんだが…。」
「行かないって言っても無理やり連れて行かれるだけだと思いますよ…。」
「さて、あと一人は欲しいところだけど…誰にしようかなぁ」
廊下を歩きながらお供最後の一人を考えるルーファス。
しばらく考えたところでその唇がつりあがる。
「そうだ、アイツにしよう。」
そのころレイスは…
「まったく、城を出るなら出た後どこに行くかくらい伝えておいてくれないと必要なものが準備できないじゃないですか…。」
そんなことを言いながも着々と準備を進めるレイス。
「鍋って、必要ですかね……。」
in城下街
「えーっと…あいつの家どこだっけか……。」
目当ての家を探しながら平民住宅街を歩き回るルーファス。
周りには沢山の平民が居るのだが、ルーファスには目もくれないのは理由がある。
実はルーファス、平民たちの間ではかなり知名度が低い。辛うじて自国の者が3人目を知っているかいないかくらいで、他国の者など
王子は2人だと思っているものが大半なのだ。
しばらく歩いたのち、一件の古い家の前で立ち止まる。
「あー、あれだったかな…?何かちがうような気がするけど。」
そう言って、呼び鈴を鳴らす。
ちりーん。
ちりんちりーん。
ちりんちりんちりーん。
家の主は出てこない。
「………ま、いっか。」
そしておもむろに片脚を振り上げ…………ドアを思いっきり蹴破った。
「お邪魔しまーす。エンド君いるー?」
ルーファスがそう呼んだ瞬間、2階からドタドタと足音が聞こえ、それと同時に
「おれの名前は終焉じゃねぇ!エンケラードだっ!!」
2階からの飛び蹴りが飛んできた。
「えー、でも君の思考能力が末期なのは事実じゃん?」
飛び蹴りをひらりとかわして、言葉を返すルーファス。
「避けるなよ!って、あれ?ルー?何してんの?」
ルーファスの目の前には9、10歳くらいの少年が立っていた。
灰色に黒いメッシュが入った髪に、金色の瞳。
それだけならどこにでもいる少年なのだが、頭の上にあるピンと立った耳と、後ろの方に見えるフサフサの尻尾が、彼が獣人であることを表していた。
「何しに来たんだ?」
「あーうん、明日旅に出るからケラ君も準備しといてね。」
「ケラ君って誰だ?」
そう言って辺りを見渡すエンケラード。
「エンドって呼ばれるの嫌なんでしょ?だからエンケラードから取って、ケラ君。」
「おおー、やっぱルーは頭いいな!」
「君のおつむが残念なだけだと思うよ。」
「おつむって何だ?」
「頭のことだよ。」
「そっかー。で、何しに来たんだ?」
(あ、ダメだ。ループする。)
「明日旅に出るからさ、ケラ君も準備しといてねー。」
もう一度言うとエンケラードは、
「マジでっ!?旅!?旅すんの!?やった!俺勝ち組決定!」
(勝ち組……?)
彼の中の勝ち組の条件がかなり気になるが、聞くと泥沼にはまりそうなので辞めておく。
「なぁなぁ、俺は何を準備すればいいんだ?」
「えーっとねー……」
(必要最低限のものはレイが準備するだろうし、食料系はユリちゃんが、衣類系はクロウが持って来るだろうし、どうしよっかなぁ……。)
「うーんと……あ、そうだ。ケラ君、紙とペン貸して。」
「はいこれ!」
渡された紙とペンにさらさらと何かを書いていくルーファス。
やがて書き終わると、エンケラードにその紙を渡し、
「ケラ君は明日これを準備しといてねー。」
「ふんふん、分かったー!」
「じゃ、また明日ねー。」
「じゃーなー!」
そうしてルーファスは城へと帰って行った。
「あ、ドア壊れてる……。何でだろ……?」
エンケラードの将来がいささか不安なのは何故だろうか。