第十二「仮面の謎はまだ明かされない」
あなたがこれから読もうとしているお話は、50%ほどの確率で合っています。
今から30年ほど前、クルエル王国にそれはそれはたいそう美しい絶世の美女がいました。
美女は毎日たくさんの男から言い寄られていましたが、誰の誘いも冷たくあしらうばかりでした。
なぜなら美女には思い人がいたからです。
美女がまだ美少女だったころ、薬草を取りに行った草原で二人は出会いました。
魔物に囲まれていたところを長く艶やかな黒髪にワイン色の瞳をした男が助けました。これをきっかけに、美少女と男はときどきこの草原で話をするようになりました。そして月日を重ねるごとに二人はたがいに惹かれあっていきました。
しかし
男には大きな秘密がありました。男は美少女に嫌われるのが怖くてなかなかその秘密を話せずにいました。美少女もそれは分かっていましたが、ついにじれったくなって問い詰めてしまします。美少女のしつこさに折れた男は、静かな声でぽつりぽつりと話し始めました。
自分が上位の魔族であることと、ここには最初偵察で来ていたことを。でも、男の美少女を思う気持ちは嘘ではありませんでしたし、男はもともと人間と共存したいと考えていることも話しました。
それを聞いた美少女は花の咲くような笑顔でこう答えたのです。
「だったら私たちが魔族と人間の最初の架け橋になりましょう!」
それからしばらくして大人になった二人は結婚し息子が生まれました。父親に似て艶やかな黒髪にワイン色の瞳でしたが、肌は母親似でキメ細やかな白い肌でした。
二人はしばらくの間幸せでしたがそれは長くは続きませんでした。嫉妬に狂った王国の男たちが、男に襲いかかったのです。
その知らせを聞いた美女は息子を信頼できる知人に預け、男のもとへ急ぎました。美女がたどり着くとそこには血だらけの夫が倒れていました。美女は夫に駆け寄り必死に呼びかけます。すると男はゆっくりと瞳を開き、そして美女にやさしく微笑みかけました。
「あなた! あなた!!」
「私は大丈夫だよ・・・魔族だからこれくらいの傷直ぐ直るさ。だから、泣いてはいけないよ。」
「でもっ・・・!」
「私のことはいいから、早く息子を連れて逃げなさい。君に被害が及ばないとは限らない。」
「いやよっ!貴方も一緒に・・・!」
「ならこうしよう。君たちは先に逃げてくれ。私は後から追い付く。」
「・・・っ!」
美女は男の言わんとしていることが分かってしまいました。美女が必死に涙を抑えていると、横の路地から幼い声がしました。慌てて美女が振り向くと、そこに居たのは知人の元へ預けたはずの息子でした。
「おかあさん・・・?」
「どうしてっ・・・!?」
「おとうさん、どうしたの?」
「っ・・・・・・。」
美女は幼い息子にどう伝えていいのか分からず、黙ってしまいました。母がなぜ黙ってしまったのか分からない息子に温かな父親の声がかかります。
「私の愛しい息子よ、こっちにおいで。」
「おとうさんっ」
「よしよし、お父さんはね、少しの間遠くに行かなければならなくなったんだ。」
「?」
「だからお父さんが帰ってくるまでお母さんを守ってほしいんだ。できるかい?」
「うん・・・?わかった・・・。」
「はは・・・じゃあこれを預けるよ。」
男が懐から出したのは刀身の黒い一対の短刀でした。
「お父さんが帰ってくるまでこれを使ってお母さんを守ってあげてくれ。頼んだよクロード。」
「うん。」
息子がうなずいたその時、遠くから大勢の足音が聞こえてきました。
「ああ、やはり確かめに来たか・・・。さぁ、早く行きなさい。」
「あなた・・・。」
「そう、泣かないで・・・クロード、お母さんと一緒に行きなさい。」
「・・・おとうさん、帰ってくるよね・・・?」
「・・・・! あぁ・・・帰る。どんなに遅くなったって必ず帰る。」
「わかった。」
「いたぞーーー!こっちだーーー!!」
「やれやれ、せっかちな人たちだ。さて・・・クロード、走り出したら後ろを振り向いてはいけないよ。わかったね?」
「どうして?」
「クロードにはずっと前を向いていてほしいからだよ。」
「?・・・うん。」
遠くから聞こえる足音はどんどん大きくなっていきます。男はふらつきながらも立ち上がり、母と子に微笑んで見せました。
男を囲むように大勢の人間があつまりました。
「やはりまだ生きていたか忌まわしき魔族め・・・。」
「交わった女も混血も汚らわしい!殺してしまえ!!」
「そうだそうだ!!」
町人たちの言葉に男は深い悲しみと激しい怒りを覚えました。
「私があなたたちにとって害を成すかもしれない魔族であることは自覚している。だが妻と子は違うだろう!妻は人間だ!息子だって優しく育ってくれるはずだ!」
「うるさい!魔族の言うことなど信じれるか!」
「それにあの子供の赤い瞳!どこからどう見たって魔族の証じゃないか!」
「いつか私たちにとって脅威になるに違いないわ!」
男の言うことに町人たちは耳を貸しませんでした。その反応に男は下を向いてしまいました。
そしてゆっくりと口を開きました。
「私は人間と共存したいと思っていました。しかし私の認識が甘かったようだね・・・。」
「? 何が言いたい・・・?」
「人間と共存したいと思っていますが、残念ながら私の大切な人たちを傷つけるような方とは御免被りたいということですよ。」
「まさかっ・・・!」
「貴方達は私の妻と子を言葉によって傷つけた。その報いを受ける覚悟はできているよね・・・?」
男が顔をあげると彼の両目は冷酷な光を湛えた真紅に変わっていました。
人々は闇夜に浮かび上がる真紅の双眸に怯えながら必死で対抗しました。
母と一緒に逃げたクロードは父の言いつけを守らずに、一度だけ後ろを振り返ってしまいます。
その時彼が見た光景は、たくさんの人間に囲まれその中心で崩れ落ちる父の姿と、無傷の町人たちでした。
そう・・・男は最初から誰かを傷つける気などなかったのです。男は妻と子から注意を引くためにわざと町人たちを煽ったのでした。
「とかどうよ!」
「はぁ・・・?」
盗賊たちを撃退し、ヘーゼルおばさんからもらった昼食を食べ終えたルークがいきなり三文芝居を始めたのは、ついさっきのことだった。
「けっこういい線いってると思わない?」
「いやいや、そもそもさっきの一体何なんですか?」
「なにって・・・クロ兄の過去設定。」
「は・・・?」
あまりに唐突に告げられた『設定』と、何の脈絡もなく始まった先程の三文芝居。
「いやあの・・・『設定』って、何の・・・?」
「やーだからさ、俺らって兄弟として旅をするわけじゃん? でもあまりにも似てないし明らかに種族が違うのも見た目でばれるし、そしたらいつか親のことも聞かれるかもしれないだろ。そんときにモゴモゴしてたら・・・バレる!」
レイに向かってビシっと指を突きつけ断言する。
「つまり、さっきの三文芝居は長男であるクロードの過去話だと?」
半ば呆れかけた声音で確認を取るレイ。
「そそ! そんでもってこの調子で全員分考えればそれなりにイケる気がする!」
レイの目を見てガッツポーズをするルーク。
「いや、そりゃ考えておいたほうがいいとは思いますけど、流石に魔族とのハーフはやり過ぎだと思いますし、もう少し普通な家庭を演出したほうが…」
真面目な顔をして思案しているレイに、ルークが心底不思議そうな顔をして問いかける。
「あれ?レイ知らないの?」
「何がですか?」
そして、ルークの口から衝撃の事実が告げられる。
「クロ兄は、魔族との人間のハーフだよ?」
さて、またもどうでも良さげなことを思いついた賢い馬鹿であるルークですね!
過去編はいろいろ考えていたのですが、クロードにはこれが一番しっくりくるかなと思いまして……。
他の人編もまた、ちまちま紹介しようかなと思っているので、よろしければお付き合いください!
読んでくださった方に感謝を込めて。
更新が遅れた理由:レポートはあかん……書くことないのに書けとかむりぽ((((;゜Д゜)))))))