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非幸福者同盟  作者: 相羽裕司
第三話「拠り所の守り人」
50/277

50/遠き日の軍艦マーチ

  ◇◇◇


 夜。学校のロッカーから持ってきた日本史の教科書と、母親の部屋で紙に印刷してきたWEBページを眺めながら、ジョーは布団に横になっていた。


 特にこれまで学校の社会の授業を面白いと感じたこともなかったが、何故だろう、今、ジョーはこうして「歴史」にふれることが、ピンときている。


 ジョーが追っている記述は、戦艦(せんかん)陸奥(むつ)についてである。印刷してきた陸奥に関する基礎情報が載っているWEBページによれば、大正十年完成。そして観艦式(かんかんしき)が行われたのが昭和二年なのか。


 次に、日本史の教科書に載っている、そこまで詳しくないままこれまで生きてきた、先の戦争の頃の出来事について。



 昭和四年:世界大恐慌

 昭和六年:満州事変

 昭和七年:上海事変

 昭和八年:日本の国連脱退



 凄い時代だ。


 その時、幾ばくかの忘我。布団の上で、半分眠るような状態だったからだろうか。夢と現実の境界上にいるような、不思議な感覚の中、いくつかの、ここではないどこかの音が、光景が、匂いが、ジョーの知覚に流れ込んできた。



――私が行くところには、軍艦マーチが流れていて、この国の誰もが、自分自身の心の奥にある勇壮な部分を私に投影していた。



 波をかき分けてゆっくりと進んでいく戦艦陸奥に、人々の声援が送られている。その場に居合わせた大小の艦艇からいっせいに発せられる祝砲。この国の歴史に残る名だたる戦艦の中を縫って、戦艦陸奥は進んでいく。大観艦式の、栄光の風景。


 この先どんな困難が訪れようとも、戦艦陸奥が打ち破ってくれる。人々の拠り所となった存在は、当時の技術で複製され、またたく間に人々の心に刻まれる「概念」になっていく。新聞、グラフ誌、記念絵葉書。そうした媒体を経由して波及する栄華は、子供の、男の、女の、老人たちの精神の大事な部分に刻まれていった。戦艦陸奥とは、時代の闇の中に差し込んだ、陽の光明であった。


 ここで、夢幻の中からの帰還。ジョーは混濁する意識の中で、紙に印刷された戦艦陸奥の経歴の最後の部分に目を細める。


 こんなにも、輝いていた存在でさえ……。


 紙の末尾には、こう文字列が記されている。



 ///


 昭和十八年:戦艦陸奥、爆沈


 ///


  ◇◇◇

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