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非幸福者同盟  作者: 相羽裕司
第二話「ジョーとアスミと志麻」
44/277

44/涙

 戦闘の混乱が落ち着いて、天上の月光が照らす静寂が訪れた庭に、志麻は縁側の下に置いてあったサンダルを履いて降りていく。


 喧騒の熱は冷めて、微風が少し心地よい。


 志麻はジョーの所まで近づいて行くと、改めてこの鼻が高い少し異国風の少年の顏を見つめる。


 アスミからリンクドゥで聞いていた、宮澤ジョーの召喚能力は確かに戦力として強力だ、という打算的な気持ちが半分。思いがけず自分も助けられてしまったなという気恥しい気持ちが半分。ただ率直にいって、先ほどまで感じていた、宮澤ジョーに対する許せないような激しい気持ちは落ち着いてしまった志麻であった。ただし、聞いておきたいこともある。


「アスミから聞いてたんだけど、本質能力に目覚める前の状態で、牛人に向かって行ったんですって? それは、どうしてなの?」


 単なる向こう見ずな男なのか。あるいは自殺願望でもあるのか。


「それは……」


 その問いの答えとして、ジョーがアスミに視線を送った時に、志麻はそのジョーのまなざしの奥にある深い所を感じ取ってしまった。温かな柔順さと。少しの気恥しさと。そして無償の優しさ。


 つまりは。


 道行く有象無象の男子が抱くような、ファッションな気持ちでアスミに接せられるのは許せなかった。しかし、この男はどうやら、心の深い所でアスミのことをかなり深刻に大事に想ってしまっているらしい。


 ああ、自分とは違う側で生きてきた人間ではあるのだろうけれど、本当にアスミのことを大事だと思ってしまったのだとしたら、未来に待っているのは、心が壊れてしまうほどの破綻である。この男にも悲しい未来が待っている。いわば私達側の人間の『予備軍』ってことなのか。


 山川志麻は、激しい気性を秘めた女でもあったけれど、予見される他人の痛みを、今の自分自身の痛みとして感じてしまう、一昔前までは誰もが持っていたような「共感する」という性質を、自分の大事な所で持ち続けている少女でもあったから。


 自然と、涙が流れた。

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