223/過去編――一九六一年・一~シル・ダリヤの河岸にて
過去編――一九六一年・一/
一九六一年。四月。
シル・ダリヤの河岸にて、スヴャトは天を貫いて飛翔していく、彼の歴史に刻まれた構築物の姿を見上げていた。搭乗者はスヴャトではない。図書館ですれ違った、陽気な青年の方だった。
スヴャトは、地球の外に出る最初の人間には、選ばれなかったのだ。二番手、三番手のバックアップにすら選ばれなかった。頂点の集団との距離は、大きく思われた。
幼少時から他人より優れ、不思議な力を見通し、何らかの大きな使命を帯びた人間だと、自分のことを思っていたのだけれど。
(僕は、世界で一番優れた人間ではなかったらしい)
小柄な青年は選ばれて歴史にその名を刻んで。選ばれなかったスヴャトは歴史から忘却されていく。
スヴャトは敗北という感情を知った。
勇壮なる構築物が、人類の未来を切り開かんと天に向かっていく頃。近くには遠い過去から変わらない、穏やかな河が流れていた。幼年期の終わりの風景だ。
思えば。
歴史に残る大建造物が構築される影には、今では誰の記憶にも残っていない奴隷達がいたし。
栄えていく戦争の勝者達の下には、収奪される敗北者達が横たわっているし。
経済発展に向かう国がある裏側では、富を吸い取られている国があったり。
世界に波及した物語がある一方で、誰にも読まれずに忘却されていく本があったり。
――"進展"とは"犠牲"の上に成立する。
それが我々を覆っている真実の理なのだとしたら。忘却され、棄却される側の「存在」とは、何のためにこの世界に生まれてきたのだろう?
その疑念に答えを求めた時である。スヴャトの魂の核心から、一つの言葉が漏れ出てきた。
「『構築物の歴史図書館』」
スヴャトの身体は、温かい紫色の光に包まれた。
/過去編――一九六一年・一




