200/理想的な人間像
時刻は深夜零時に至ろうかという頃。周囲は無音であった。
神社の境内の中に入ると、祭壇の奥にもう一つ、鎖で閉ざされた扉があった。
アスミが低く呪文のようなものを唱えると、淡い光を放ちながら封印が解かれ、扉はゆっくりと開いた。
扉の奥には階段が続いており、どこかで外部と繋がっているのだろうか、微風が舞い込んでいた。
(地下空間? それに、光?)
地下通路に常備された人工の灯りの類はない。この微光は、通路の奥から漂ってきているものだ。ジョーは敏感に、その光からオントロジカの存在を感じ取る。
(色は百色。鳴り合っていて、無彩限)
やがて、空間が開けると、場は数多の光に満ちており、その中心に構築された祭壇の上に、「ソレ」はあった。
彼女は巫女服を纏い、背筋をシャンと伸ばし、正座している。髪は甘い亜麻色で、後方で纏めて流し、瞳は穏やかに、何か遠くを見ているよう。
息遣いが聞こえてきそうなほど精緻なのに、どこかで人間という存在からは遊離している「聖」の領域に属する存在。あらゆる光が彼女の元に向かって収束し、また全ての光は彼女の元から拡散していく。そんな、この街の源にいる存在。
「『理想的な人間像』。ジョー君は初めて見るわね。私達が守ろうとしてきたこの地のオントロジカの集積体にして、私のお母さん――人形師・空瀬アリカの、最高傑作よ」
ジョーの目は「理想的な人間像」に釘付けになっていた。
(やはり、人形なのか)
「彼女には、いくつかの名前がある。いわく、S市の一級河川にまつわる伝説の『橋姫』様。あるいは、この地である時に目撃される神秘の少女、『夢守永遠』。その模造品。私のお母さんがね、私達が生まれてくる前。一九九九年の七月に、一度だけ本物の『夢守永遠』を見たらしいわ。心奪われたお母さんは、その時の感動を元にその少女と瓜二つのこの作品を作ったんだって。神秘の少女の模造。ってことになるのかな」
「特別」な存在として座す「理想的な人間像」に関して一通り語り終えたアスミは、そっと祭壇の下に視線を移した。
「そしてこっちは……」
アスミの視線の先を追うと、祭壇の下には同じ人形だとしても「普通」の存在。膝を抱えた十一体の少女が並んでいた。
(そんな気は、していた)
小さなカタチから、少しずつ大きいカタチへと並んでいく、十一体の少女像。二体目から、九体目くらいまで(――それはジョーとアスミの児童時間だ)には見覚えがある。最近のものも、現在の面影を残している。
「特別とか最高傑作とはほど遠い、普通の女の子かな」
並んだ黒髪の少女像は、その年ごとに彼女が着ていた私服を身に着けている。儀礼的な意味などない、大量生産された消耗品的な衣服だ。
祭壇の下に並んでいた少女像は、空瀬アスミという構築物の歴史だった。
アスミは、「自分」について語り始めた。
「ジョー君、私はね。二00一年。三歳の時に死んでいるの」




