198/真実への道中
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先行するジープには、後部座席にジョーと志麻が乗っていた。運転手は、祝韻旋律のスーツ姿の若い男性である。理華の側近のような人なのだろう。「こちら」側にも理解がある人のようだった。
走行音は静かで、ときおり聴こえるウィンカーのチカチカという音が、妙に大きく感じられる。長い沈黙が車内を支配していた。
ジョーにひとまず自身の命を拾った安堵感はなく、焦燥、混乱、そして自罰の念、様々な感情が胸の内で波打っていた。
車が大白山へ繋がる住宅地へ入った所で、ジョーは沈黙を破った。
「志麻は、知っていたのか」
慎重に言葉を選ばなくてはならなかった。暴力的に決めつければ、何か大事なものが壊れて戻らない気がした。
「その。アスミが、普通の体ではないことを」
「知っていたわ」
窓の外に視線を落としたままの志麻が応える。
ジョーは、大王がアスミの体の中心を貫いた光景を思い出した。血の雨が降っていた。
大王は、アスミが仕掛けた「何か」による異変を感じ取ると、アスミを地面に投げ捨てた。しかし、源であるアスミとの接触を絶っても、氷のような「何か」は大王を覆い続け、やがては彼を氷柱のようなものに閉じ込め、なお拡大を続けた。
最終的には四号公園全体を「何か」は包み込んでしまったが、巻き込まれる前に、その場に現れた理華がアスミを、側近の男がジョーをそれぞれ抱き上げ、「何か」の領域から離脱した。
理華に抱えられたアスミの姿が脳裏に焼き付いている。
夥しい量の出血と、終わりが意識される彼女の身体の虚脱と、意識の消失。
しかし、だ。今なお彼女は、後ろの車両で呼吸を続けている。この事実からもう目も背けられない。アスミは、あの状態でなお、「死」が訪れない「存在」なのである。
「アスミは」
「待って」
アスミという存在の核心に近いジョーの次の質問は、芯が通った、でもどこか震えているような志麻の声で遮られた。
「アスミから、直接聞いて」
彼女なりの、強い意志がこもっている。もし、ジョー以上に、アスミのことを考え抜いた末で、志麻という少女はアスミの隣で生きてきたのだとしたら。どうして、ジョーに志麻の意志をないがしろにできようか。
(アスミのこと、何も知らなかった)
体の中心に痛みを感じるのは、大王から受けた物理的一撃が常軌を逸していたから、ただそれだけではない。
(俺は。バカだ)
やがてジープは住宅街を抜け、大白山の麓につながる、うねった道へと入っていった。
この先には、ジョーが知らなければならない一つの真実が待っていた。




