195/終わる物語
ジョーが、ジョーにとどめを刺そうと近づいてくる大王の気配に、頭を上げると、大王とジョーの間に風が割り込んできた。アスミだ。
ジョーを庇うように、大王の前に立ちはだかったアスミは、ジョーに背を向けたまま、とても優しく言った。
「ジョー君、ここから先は、しっかりとね」
体の隅々まで痺れ、指一つ動かすことができなかったジョーは、言葉を発することもできないまま、瞳だけを見開いて、その結末を目撃した。
ただ、順番が変わっただけとばかりに大王が繰り出した鋭利な手刀が、アスミの中心を、左胸を貫いたのだ。アスミは、その断罪の刃を避けようともせず、むしろ、抱きとめるようにして、受け入れていた。
おびただしい量の血を流し、痙攣するアスミの体を、大王は手刀で串刺しにしたまま、天に掲げた。アスミのリボンがほどけ、黒髪が垂れ下がる。人間性を剥奪されたアスミは、さながらモズの早贄のよう。ジョーにとっての大事なものが、途切れようとしていた。
◇◇◇
心臓を貫かれたアスミの、最後の意識。
(合理の魔物め。このタイミングなら、必ず私を先に始末すると思っていた)
今ここに、真実の体現者の前に、誤謬の少女はその灯を消滅させる。
体を貫いた穴からは血が流れ落ち、口からは喀血している。
(この血も、偽物だ)
絶望の帳が落ち。物語は終劇を告げる。
アスミという少女は、その瞬間。最後の自分の言葉を、行動を、他人のために使ってみせた。
「氷のカッシーラー」
短かったけれど、確かにあった輝いた日々。終わりを告げるアスミの音は、涼やかで、美しかった。
/第九話「サヨナラの音」・了
第十話へ続く




