190/故国へ
アスミが導いた仮説の一つ目は、大王が結界系の能力者なら、既存の結界系の能力者に有効な対策が効くはずだというものだったのだが。
(やっぱり、そんなに甘くないか)
チェスに例えれば詰んだ状態。そして、この時点ではまだ自陣にいてくれた存在――エッフェル搭が、本当に申し訳なさそうに眉をひそめた。
「志麻ちゃん、ごめんね」
エッフェル搭の背後に紫の立体魔法陣が現れる。
「この戦争で勝利する可能性がないと分かった以上、私は遠き島国との縁よりも、故国の防衛を優先しなくてはならないの。彼が満を持してフランスに襲来してくる前に、外交なり防衛なり、対策を整えなくてはならない」
謝罪の気持ちと、志麻、アスミ、ジョーへの敬意を込めて、エッフェル搭は貴族の礼をとった。
「自身を千年王国の王とでも言うような彼の主張はとうてい認められないものだけど、その観点とは別に、私には脅威が存在する世界で故国を守るために、現実的な行動を選択する責務があるの」
立体魔法陣がエッフェル搭に重なり、ゆっくりと収束していく。
「エッフェル搭……さん」
やがてただの無となった空間をしばし見つめて、志麻がつぶやいた。
アスミの胸にも喪失感が訪れた。見捨てられたと、糾弾することはできない。誰にでも、どこの国にも、優先順位があるという話だ。それは分かっている。ただ、道半ばで消滅してしまった陸奥が大巨神との戦いの際に口にしていた言葉が思い出された。自国の防衛を外部に頼ることに忌避感を示していた彼女は、やはり一抹の正しさを持っていたのではないか。
アスミは、沢山のものが喪失していく中で、残っているものを探し始めた。




